3.4.6 化学的分析
R（ルドルフ）：ここで、技術的問題から厳密科学の問題に関心を向けましょう。数百万の人々の殺戮に使われたとされている毒ガスの化学的性質と、有機体・無機体へのその影響を考察してみましょう。まず、今日世界中で悪名高くなっている製品のことについてお話します。Rompp のChemical Lexicon 1992年版は、次のように記しています[1]。
「チクロンB。もともとは、害虫駆除剤として使用された非常に効果的なシアン化水素燻蒸剤の商標。第二次世界大戦中は、民族社会主義者の絶滅収容所での大量殺戮のために使用されたシアン化合物の別名。」
しかし、歴史的に見れば、チクロンBがシアン化水素化合物の「別名」として使われたという主張を支持することはできません。チクロンBという名称は、1920年以降Deutsche Gesellschaft fur Schadlingsbekampfung（デゲシュ、ドイツ害虫駆除会社）の商標だからです[2]。また、チクロンBが大量殺戮のために使われた「絶滅収容所」はアウシュヴィッツとマイダネクだけで、しかも、マイダネクの犠牲者の数は、以前云われていた数よりもはるかに少なくなっているのです[3]。
戦時中にドイツ支配下の地域で使われていた商品チクロンBは、基本的に、液体シアン化水素を石膏の丸薬に吸収させたものです。戦後にDDTが使用されるようになるまで、もっとも効果的な害虫駆除剤でした。1920年代初頭から、チクロンBは、害虫が潜んでいそうなありとあらゆる場所、すなわち、食糧倉庫、穀物サイロ、鉄道貨車、船舶、公共の建物、兵舎、監獄、強制収容所の中で、世界中の害虫駆除業者に使われるようになっていきました。
L：チクロンBは売れ筋の害虫駆除剤にすぎなかったということですか？
R：そのとおりです。今では、その当時にはなかった非常に効果的な害虫駆除剤が数多く出回っています。チクロンBが対象としたもっとも危険な害虫は、チフスを媒介するシラミでした。チフスは両大戦中の東ヨーロッパではとくに蔓延し、民間人と兵士を多数殺しました。人々が集まるところ、とくに捕虜収容所や強制収容所では大問題でした[4]。アウシュヴィッツではこの疫病が1942年夏に蔓延し始め、1943年末までその流行が続きました。収容所当局はこのチフスに対して絶望的な戦いを挑んでいました。この戦いについては、このテーマに関する著作の中で何回となく描かれています[5]。戦争末期、第三帝国の収容所は絶望的なほど人口過密となりましたが、そこでのチフスの流行は破局のようなものでした。この件についてはあとで検証します。1944年初頭まで、チクロンBによる燻蒸は、チフスを鎮圧するもっとも効果的な手段でした。それ以外に、温風による害虫駆除という手段もありましたが、チクロンBよりは効果的ではありませんでした。
L：ということは、チクロンBは適切に使用すれば、命を救うものだったということですね。
R：そうです。チクロンBが強制収容所で大量に使われ、その衛生状態を改善し、実際に命を救ったということは歴史家のあいだでも広く認められています。そして、それほど知られていないのですが、ポーランドのパルチザンは、第二次世界大戦中に、ドイツ占領軍に対する生物兵器として、チフスを媒介するシラミを利用したのです[6]。
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３．報復活動 （1943年1月から4月） a. 以下が殲滅された 1月 2月 3月 4月 ゲシュタポ工作員 50 16 27 ドイツ人―戦闘において 100 80 移送委員会員―秘密の手段 16 b. 毒が適用された 189件 132件 105件 腸チフス菌と発疹チフスシラミ 数百件 |
図50：「報復活動 … 腸チフス菌と発疹チフスシラミ 数百件」[7]
L：ドイツ側はチフスの流行を防いで、囚人や労働者の命を必死に守ろうとしたのに対し、ドイツの敵はチフスを流行させようとしていたというのですね。
R：そのとおりです。それが戦争です。
L：そして、終戦が近くなると、ドイツの敵はチフスの犠牲者を利用して、ドイツを大量殺戮の咎で非難するようになったのですね。疫病を鎮圧するために使われたチクロンBが、大量殺戮の武器だったというのですね。
R：そのとおりです。これは心理戦争でした。どの戦争でも、真実が最初の犠牲者です。
ドイツがアウシュヴィッツの衛生状態を改善しようとしていたことは、1943/44年の驚くべき決定からもわかります。戦時中、ドイツは、食物の殺菌ではなく、衣服の害虫駆除・殺菌のために、高周波炉を開発していました。最初の高周波炉装置は、東部戦線で、兵士たちの衣服の害虫駆除・殺菌のために使用される予定でした。しかし、ドイツ政府は、この新しい装置を東部戦線で使うのではなく、その多くがユダヤ人であった囚人の命を守るためにアウシュヴィッツで使うことを決定しました[8]。伝染病によって危険にさらされている命を守るにあたって、ドイツ側はアウシュヴィッツの囚人に優先権を与えたのです。アウシュヴィッツの囚人たちはシュレジエンの軍需産業で働いていたので、戦争を遂行するにあたっては、戦場の兵士の命と同じように、重要であるとみなされていたのです。
図51：アウシュヴィッツ中央収容所の受け入れ建物の中の高周波害虫駆除装置の写真、1944年夏
チクロンBに戻りましょう。化学上の問題で皆さんの頭を悩ませることになるかもしれませんが、最小限にとどめておこうと思います。知ってのとおり、数十万人が、害虫駆除剤チクロンBというかたちのシアン化水素ガスを利用したアウシュヴィッツのガス室で殺害されたことになっています。だとすると、この毒ガスは、今日でも検出しうるような化学的痕跡をこの化学的屠殺場に残しているのかどうかという問題が生じます。
L：シアン化水素は揮発性の高い液体ですね？
R：はい。
L：だとすれば、数日もたてば、そのような痕跡は発見できないでしょうし、まして今となっては発見できるはずもありません。
R：シアン化水素自体を発見しようとすれば、その痕跡は発見できません。しかし、シアン化水素が、燻蒸中に壁の中の物質と反応していたとしたらどうでしょうか？化学的変化が起って、非常に安定した化合物が生成されているとすればどうでしょうか？
私たちの関心を呼び起こす反応の産物とは、鉄シアン化合物と呼ばれるシアン化水素鉄塩です。鉄はどこにでも存在します。煉瓦は鉄のために赤色となり、砂は黄土色となります。鉄があれば、一律に灰色となるのです。正確にいえば、普通は錆と呼ばれている酸化鉄のことです。
鉄シアン化合物は非常に安定した物質であり、そのうちの一つはよく知られています。このシアン化塩は鉄青、プロシアン・ブルー、ベルリン・ブルーと呼ばれ、もっとも一般的な青色染料として何世紀も利用されてきました。鉄青はひとたび壁の中に形成されると、壁の中のもっとも安定した物質のひとつであるために、壁と同じように安定しています[9]。一言で言えば、鉄青は壁の中に形成されれば、壁があるかぎり、その中に存在し続けるのです。
L：この鉄青はシアン化水素から形成されるのですね？
R：はい。一定の環境のもとで。シアン化水素のドイツ語Blausaure（青酸）は、鉄塩との反応の結果生じた組成物の色に由来しています。このような反応の事例をあげましょう。1976年、バイエルンのヴィーゼンフェルトにあるプロテスタント教会が改築され、1977年夏、災難に見舞われました。巨大な青いしみが新しい内壁全面に作り出されていたのです。化学的分析を行なうと、新しい漆喰の壁はこの鉄青組成物で一杯であることがわかりました。教会の天井桟敷や木造の合唱団席に潜むさまざまな害虫を殺すために、新しい漆喰の壁を取り付ける数週間前に、教会はチクロンBでガス処理されていたことがわかりました。そして、シアン化水素が漆喰の砂の錆と反応し、鉄青を作り出したのです[10]。
図52：1976年8月、 メーダー・ヴィーゼンフェルトD-96484にあるプロテスタント教会がチクロンBで燻蒸された。その後、青色のしみが漆喰の全面に登場した
図53：シアン化水素によって燻蒸された教会の漆喰にあるインクのような青いしみ。
L：しかし、このような反応が普通のことであれば、チクロンBでガス処理された建物の壁すべてが青くなり、チクロンBを使った処理は中止されるのではないでしょうか。
R：そのとおりです。一般的には、シアン化水素にさらされただけではこのような問題は生じません。ガス処理のあとに鉄青が生成されるには、湿気を含んだ新しい漆喰の表面と壁が必要なのです。しかし、燻蒸が行なわれるのは、築後何年もたってからの建物だけです。普通新築の建物には害虫がいないからです。さらに、建物の多くは暖かく乾燥した環境にあります。ですから、この教会が青く変色してしまったのは例外なのです。しかし、この例外にも大きな例外があり、青い変色が普通のことになる場合があるのです。
L：どのような場合ですか。殺人ガス室の中ですか？
R：そうではありません。第三帝国時代のチクロンB害虫駆除室のことです。すでにお話しましたように、チクロンBは疫病の媒介者の害虫を殺すために使われていました。害虫駆除専用に設計された部屋で使われたこともあれば、一時的に害虫駆除のために利用された部屋で使われたこともあります。戦後、多くの強制収容所は壊されました。建物が分解されて、破壊された都市の再建のために、資材が利用されたこともあります。しかし、数は少ないですが、今日まで残っている事例もあります。図54-61（カラー写真）には、そのような事例が写っています。
左図54：アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所建物5b北西部にある害虫駆除施設の内部
右図55：アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所建物5bのチクロンBの害虫駆除施設の外壁
左図56：マイダネク収容所建物41のチクロンB害虫駆除室部屋Ⅲ（東壁）[11]
右図57：マイダネク収容所建物41のチクロンB害虫駆除室部屋Ⅱ（西壁）
左図58：マイダネク収容所建物41の大きなチクロンB害虫駆除室の天井
右図59：マイダネク収容所建物41の害虫駆除施設の外壁の青いしみ[12]
左図60：シュトゥットホフ収容所のチクロンB害虫駆除室、南のドアから見た内壁[13]
右図61：シュトゥットホフ収容所のチクロンB害虫駆除室、東の外壁
L：ダッハウ強制収容所害虫駆除室はこのように青く変色していませんが。これらの部屋は使われなかったことを意味しているのでしょうか？
R：その観察は正しいのですが、ダッハウの部屋の壁は耐水ペンキで処理されていたので、シアン化水素が浸透しなかったというのが、青く変色していない理由です。写真の壁の場合にはそうではありませんでした。
ですから、害虫駆除室の場合には、石の壁が青く変色するのは例外ではなく、むしろ普通のことでした。害虫駆除用に設計され、シアン化水素に長期間繰り返しさらされた建物の、保護されていない壁の場合にはとくにそうだったに違いありません。
特別な害虫駆除室でのチクロンBを使った大量かつ継続的な燻蒸が始められたのは、第二次世界大戦時のことでした。そして、このようなシアン化水素の大量使用は、終戦、DDTの発明、民族社会主義者の収容所の閉鎖、チクロンBを清算・配給した会社の解散（デゲシュ社はIGファルベンAGの子会社でした）によって、突然終わったのです。
害虫駆除室だった部屋の壁にある「外傷」のことを誰も気にとめませんでした。建設産業の研究書の中では、この問題は、バイエルンの教会の事件が起るまで取り上げられませんでした。
次の問題は、もしも殺人ガス室が存在したとすると、害虫駆除室で起ったのと同じように、青い変色が起るのかどうか、鉄青の化学的痕跡はどのようなものであるのかということです。殺人ガス室は、もっぱらこの目的のために建設され、目撃証言を信用すれば、建設されるとすぐに稼働し始め、しかも長期にわたって間断なく使用されたことになっています。
L：しかし、ガス処刑と害虫駆除をまったく同じものとして比較できないのではないでしょうか？
R：比較することはできますが、まったく同じものとしてあつかうことはできません。表9にチクロンBもしくはシアン化水素化合物の特徴をまとめておきます。
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図9：害虫駆除剤チクロンBの特徴 害虫（昆虫、げっ歯類）と戦うための燻蒸剤 |
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有効材料 |
シアン化水素化合物（HCN ）は,Fe3+への可逆的付加を介して細胞呼吸酵素をブロックする。HCNの臭いを感知できない人もいるので、警告剤として、数%のガス状の刺激剤が付加されている。 |
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致死量 |
人間：1㎏の体重につき１mgCN-、昆虫：10mg/㎏もしくはそれ以上 |
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空気中の致死% |
人間：半時間から1時間のあいだに0.01‐0.02vol.%、シラミ：1時間から2時間のあいだに1vol.%（これは人間には数分で致命的である。） |
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パッケージの形式 |
円形ダンボール、石膏丸薬（商標Ercco、戦時中の主要商標）、珪藻土（1930年代末に廃止）、特別なオープナーを必要とする金属缶。全体の中身の3分の2ほどが媒体物質である。 |
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放出時間 |
気温15－20℃、最初の5－10分に10%。放出は最初の1時間半から2時間のあいだが活発である。 |
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適用方法 |
ガスマスクをつけて、燻蒸空間の準備配置を行なう。放出がゆっくりなので、作業員が安全に離脱できる。HCNが媒体物質の中に存在しているので、はやくても換気は2時間後。 |
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利用された時期 |
両大戦の間、DDTの発明（1940年代初頭、ドイツでは第二次世界大戦後）以前に、世界でもっとも広く利用された害虫駆除剤であった。 |
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適用区画 |
船舶、貨車、粉引き小屋、サイロ、食糧倉庫、兵舎、監獄、強制収容所、大規模公共施設の生活空間 |
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現在の利用状況 |
Cyanosiという名前で、化学的燻蒸物体が適用できない特別な環境のもとでだけ、利用されている。 |
お気づきになったことでしょうが、人間の方がシラミなどの害虫よりも、シアン化水素化合物に敏感です。でも、リンゴとオレンジを比較するような比較は誤解をまねきます。害虫に関するデータは、害虫とその卵・幼虫を完全に絶滅するのに必要な濃度や量であるのに対し、人間に関するデータは、シアン化水素化合物が致命的となる出発点の濃度や量を示しているからです。にもかかわらず、人間を殺すのに必要な1㎏あたりのシアン化水素化合物の量は、シラミを殺すのに必要な量よりもはるかに少ないという事実は残ります。
L：ということは、殺人ガス処刑に要する時間も短くなるということですか？
R：私たちが、ガス処刑のパラメーターとして何を設定するかにかかっています。
L：ガス処刑についての資料は目撃証言しかありませんが、この目撃証言をとりあげてみましょう。
R；その場合には、数分で犠牲者は死亡することになっています[14]。アメリカの処刑ガス室では、害虫駆除室と同じような濃度のガスを使って、人一人を殺すのに10分から15分かかっています[15]。これは何を意味しているでしょうか？
L：短時間で死をもたらすには多くのガスが必要だということでしょう。
R：さらに、最初の数分間では吸収されているシアン化水素ガス（HCN）が放出されるのはわずか10%にすぎないので、ガス室では少なくとも致死量の10倍のチクロンBを使わなくてはならないでしょう。
L：そして、シアン化水素ガスは少なくとも2時間は放出され続けるのですね。
R：そのとおりです。
L：もちろん、ガスをすみやかに取り除く強力な換気装置がガス室にない場合ですね？
R：それが、そういう具合にはいかないのです。文書資料によると、ブンカーのガス室、ビルケナウの焼却棟ⅣとⅤのガス室にはまったく換気装置がありませんでした。
L：これらの部屋の中では絶えず毒ガスがあつかわれていて、しかも、換気扇が設置されていないということなどがありうるのでしょうか？
R：事実だけをお話しますので、ご自分で結論を出してください。
L：しかし、アウシュヴィッツの害虫駆除室には換気扇がついていたのですね。
R：そのとおりです[16]。
L：少なくとも害虫駆除室と同じように効率的な換気システムが殺人ガス室に設置されていないとすれば、それは馬鹿げています。
R：そのとおりです。でも、そのような環境で数百万人をガス処刑したというのも馬鹿げてはいませんか。
L：技術的に不可能であることが、人々の振る舞いがクレージーであるとの理由で突然可能となるわけではありません。自分は空を飛べると思っている狂人の背中に、そう思っているからといって突然翼が生えてくるわけではないのです。しかし、チクロンBを使用するには、ぜがひでも換気装置が必要というわけではないでしょう。ルドルフさんが引用したバイエルンの教会でも、害虫駆除業者は、換気装置のないところで燻蒸したのですから。
R：そのとおりですが、教会がガスにさらされたのは一度だけです。ドアと窓を数日間開いて換気が行われました。しかし、いわゆる殺人ガス室は、数ヶ月、ひいては数年間もガスにさらされ、そこでは、一日に数回もガス処刑が行なわれたこともあり、換気がほとんど行なわれないか、まったく行なわれないままに、死体が取り除かれたという話になっています。
L：しかし、中央収容所のガス室、焼却棟ⅡとⅢのガス室は換気システムを備えていたのですね。
R：そのとおりですが、その換気システムは死体安置室用に設計されたものでした。その部屋は死体安置室として設計・建設・装備されたのです。専門文献は、死体安置室の7倍の能力を持つ換気システムを害虫駆除室に設置するように推奨しています。実は、焼却棟ⅡとⅢの別に部屋にも換気システムが設置されているのです。奇妙なことに、このシステムの能力は、殺人ガス室だといわれている死体安置室の換気システムの能力よりも大きいのです[17]。
L：SSは、焼却棟ⅡとⅢのいわゆる殺人ガス室に、もっとも低い能力の換気システムを設置したというのですか？
R：そのとおりです。
L：ますます馬鹿げていますね。
R：これらの部屋が死体安置室として設計・建設・装備されたことを思い起こせば、別に馬鹿げたことではありません。
L：少なくとも、焼却棟Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのガス室には換気システムがあり、毒ガスを取り除くことができたのですね？
R：そうかもしれませんが、媒体からはガスが放出され続けているので、ガスが消え去るには数時間かかるでしょう[18]。
L：目撃者が述べているような、殺人ガス処刑の環境は、害虫燻蒸の環境とよく似ているとのご意見ですね。
R：そのとおりです。ガスが壁に接触している時間は、殺人ガス処刑のときの方が、害虫燻蒸作業のときよりも少々短かったかもしれません。その他の要素はこのことを相殺しています。例えば、焼却棟ⅡとⅢの地下死体安置室、いわゆる殺人ガス室は暖められておらず、非常に湿っていました。これに対して、害虫駆除室は地上にあり暖められていましたので、乾燥していました。シアン化水素化合物は、乾燥状態でよりも湿った状態での方が、はるかに容易に蓄積するのです。簡単にいえば、（大量殺戮のために使われたとされる）焼却棟ⅡとⅢの地下死体安置室の環境は、害虫駆除室の中で鉄青が形成される環境とかなり似ている傾向が存在したと考えられるのです[19]。
さて私たちの分析結果です[20]。
表 10: アウシュヴィッツ・ビルケナウの「ガス室」と害虫駆除室の壁のシアン化合物濃度
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番号 |
場所 |
採取者 |
c[CN-] mg/kg |
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1-7 |
焼却棟Ⅱ、死体安置室1（ガス室） |
ロイヒター |
0.0 |
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1 |
焼却棟Ⅱ、死体安置室1（ガス室） |
ルドルフ |
7.2 |
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3 |
焼却棟Ⅱ、死体安置室1（ガス室） |
ボール |
0.4 |
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32 |
害虫駆除室B1aBW5a、内側 |
ロイヒター |
1,050.0 |
|
9 |
害虫駆除室B1aBW5a、内側 |
ルドルフ |
11,000.0 |
|
1 |
害虫駆除室B1bBW5b、内側と外側 |
ボール |
3,170.0 |
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28 |
焼却棟Ⅰ、洗浄室 |
ロイヒター |
1.3 |
|
5 |
囚人バラック |
ルドルフ |
0.6 |
|
25 |
バイエルンの崩壊した農家からの未処理の煉瓦 |
ルドルフ |
9.6/9.6 |
|
濃度は建築資材（煉瓦、モルタル、コンクリート、漆喰）1㎏につきシアン化合物（CN-）mgで示されている。10mg/kg以下のシアン化合物数値は不確実であり、1－2mg以下の数値のサンプルは、シアン化合物のないものとみなされる。2つの数値がある場合には、後者の数値は、別の会社が行なった基準分析の結果である。 |
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L：本当に興味深そうですね。
R：表10の白いブロックは、殺人ガス室として使われたとされている部屋もしくは部屋の残骸のサンプルです。その下の灰色のブロックは、害虫駆除室の壁のサンプルです。その下の白いブロックは、殺人ガス室でも害虫駆除室でもない建物の壁のサンプルです。
L：ウォー！ 害虫駆除室の濃度はいわゆる殺人ガス室の濃度の千倍ですね。しかし、いわゆる殺人ガス室のサンプルの分析結果もゼロではありません。シアン化合物の痕跡があるということになります。ガス処刑がそこで行なわれたことを立証していることになりますね。
R：そんなに先走って判断しないでください。ここで検出されたシアン化合物の痕跡の量は、ときどき燻蒸された囚人宿舎や、まったく燻蒸されたことのないバイエルンの農家や焼却棟Ⅰの洗浄室で検出された量と同じなのです。このような微量の痕跡が殺人ガス処刑の証拠であるとすれば、バイエルンの農家のような、知られざるもう一つの「アウシュヴィッツ」がいくつも存在したことになってしまいます。
L：そんなことはありえません。
R：さらに、ルドルフのサンプル№3と№8の二番目の数値をご覧ください。別の会社が分析した結果です。
L：このようなサンプルの中の微量の痕跡は再分析の中では検出できていません。
R：そのとおりです。
L：でも、今日ビルケナウに現存する囚人宿舎は、オリジナルなのですか？
R：焼却棟ⅣとⅤの土台の壁と同じように、出自不明の資材を使って、作り直されたものです。
L：だとすると、これらの数値は、何らかの分析・解釈の対象とするには微量すぎるということですね？
R：いわゆる殺人ガス室のシアン化合物の痕跡は何らかの分析・解釈の対象とするには微量すぎるというのが、この法医学調査の分析結果です。もしも、目撃証言が真実であるとすると、害虫駆除室の濃度に匹敵する濃度のシアン化合物の痕跡が検出されなくてはならないはずです。
L：クラクフの研究所が行なった別の専門家報告があったはずですね？
R：たしかにありました[21]。しかし、意図的に省きました。ポーランドの研究者たちは捏造を行なっているからです。
L：それは厳しい告発ですね。
R：はい。しかし、それは正しいと思います。説明しましょう。クラクフ報告の作成にかかわった科学者たちは、鉄青型の安定した鉄シアン組成物を検出できないような方法を意図的に使ったのです。彼ら自身の話からも、彼らが意図的にそのようにしたことがわかります。彼らは、安定した鉄シアン組成物がどのように生成されるのかを理解できなかったので、それらが生成されるという可能性を除外したのです[22]。
L：何かを理解できないということは不名誉なことではありませんが。
R：そのとおりです。理解できないことがすべての研究の始まりなのですから。科学者が何かを理解できないことを悟ったときには、それまで知らなかったことを知ろうとする動機となるはずです。しかし、このことはクラクフの科学者たちにはあてはまりません。彼らは自分たちの無知を、調査ができないことを正当化する口実としたのです。何かを理解できないことが調査しない理由となっている事例を耳にしたことがありますか？ クラクフの科学者たちがその事例です。石造の壁の中のシアン化水素化合物が鉄青を生成する可能性を完全に排除できた場合に限ってだけ、鉄青を分析対象から除外することが許されます。クラクフの科学者たちはそのような可能性を排除することができませんでした。さらに許されないことに、彼らは、石造の壁がシアン化水素化合物にさらされることによって鉄青が生成されうるという私の説を一度たりとも反証しようとしていません。私は自分の分析結果を1993年春に発表しており、クラクフの科学者たちもその内容を知っていたはずです。その分析結果を引用しているからです。しかし、私の説を検証したり、それに反駁するためには引用していません。彼ら自身が認めているように、クラクフの研究者たちが反駁しようとする「否定派」、ヒトラーの「弁明者」の「悪魔的な」活動の事例としてだけ、私の説を反駁の対象としたのです。
L：クラクフの科学者たちは何が起ったのかを発見することに関心がなくて、ともかくも、修正主義をくさすことにだけに関心を抱いていたようですね。
R：そのことが彼らの政治的意図です。ヤン・マルキエヴィチ教授・博士周辺のクラクフの科学者たちの仕事は非常にイデオロギッシュなのです。彼らが客観性を重視する科学者であれば、適切かつ包括的な分析方法を採用したはずです。私たちのことを「ヒトラーの弁明者」と中傷することなどせずに、このテーマに関する私の研究を客観的に検証したはずです。
さらに、クラクフ・グループは、害虫駆除室の壁の表面に高い濃度のシアン化合物が残っており、青いしみがあることを説明しようとさえもしませんでした。
L：クラクフ・グループは、自分たちの望む結果を出してくれるような分析方法を採用したというのですね。
R：彼らが行なったことはまさにそれでした。もしも、その存在を示してくる方法から、探し求めているものを消し去ってしまえば、その存在を発見することはできないのです。彼らの分析結果は、いわゆる殺人ガス室で発見された安定していないシアン化合物の量は害虫駆除室で発見されたものと同じように微量であるということでした。この結果は驚くことではありません。安定していない組成物はまさに安定していないのであって、50年経ってからはほとんど検出されえないからです。安定していないシアン化合物塩がともに微量であるという分析結果から、彼らは、害虫駆除室での痕跡の濃度は殺人ガス室での濃度とほぼ同じであるという結論を出しました。それゆえ、殺人ガス室で使用されたHCNガスの量は、害虫駆除室で使用されたHCNガスの量と同じであったことになります。
L：驚天動地されたことでしょうね？
R：はい。でも、それだけでは終わりませんでした。その数年前、クラクフ・グループは同じようなサンプルを分析しています。彼らはその結果に困惑してしまいました。害虫駆除室には多量のシアン化合物が検出され、死体安置室からは微量のシアン化合物しか検出されなかったからです。このために、彼らは最初の調査結果を公表しないことにしたのです。それは外部に公表されませんでした。1991年になってやっと、不謹慎な行為から、このデータが外に漏れました[23]。その後、クラクフ・グループは最初の実験を放棄して新しい実験に取り組み、自分たちの政治的思惑にかなう分析結果が出るまで、それを続けたのです。
L：クラクフの科学者たちはあなたの告発にどのように対応したのですか？
R：この似非科学者グループのリーダーであるマルキエヴィチ博士は1997年に他界しました。ところで、彼は、「技術分析の専門家」にすぎませんでした。その他の科学者たちは、彼が死んでから、沈黙を守っています。
L：クラクフ・グループはやけくそでこのような手段に訴えたにちがいありません。
R：彼らは尊敬すべき社会的集団とみなされる人たちに属しています。しかし、ことが「アウシュヴィッツのガス室」の法医学的調査問題にかかわると、不幸なことに、ひどく不道徳な振る舞いが行なわれるのです。例えば、ある化学博士は、あらかじめ決められていた分析結果を出すために、基本的な化学的規則を無視しました[24]。ドイツ出版局ｄｐａは、私を愚弄するために、存在もしていない専門家の見解を捏造しました[25]。ジョージ・オーウェルばりのドイツ「憲法擁護庁」の役人は、虚偽であることを熟知していながら、この虚偽の情報を数年にわたってばら撒き続けました[26]。さらに、研究所長をつとめるある化学教授は、自分の研究が修正主義者の見解を確証していることが明らかとなると、自分の研究結果を否定して、カメラの前であつかましい嘘を披瀝しました[27]。最後に、ある化学博士は、ゲルマール・ルドルフのような「ホロコースト否定派」と議論するほど身をおとしめるべきではないと述べて、クラクフの捏造者たちを弁護しました[28]。
Ｌ：だんまりを決め込んで、その代わりに、刑法で脅迫するのですね。
Ｒ：まさにそのようなことが起ったのです。優秀なドイツの判事たちが、政治的に受け入れがたい結論に達する専門的な法医学報告書の没収を命じているのです[29]。現代のドイツは学問上の意見の対立を法的な抑圧という手段で解決しようとしています。きわめてシンプルです。