2.17 タブーの終焉
R(ルドルフ):1998年、オーストリアの貴族ルドルフ・チェルニン伯が、『タブーの終焉』を出版することで、地雷原に足を踏み入れました[1]。彼は、第三帝国の全体史とホロコーストの歴史に関して修正主義者の重要な研究と彼らの所説をあえて引用したからです。
彼は、ヴァンゼー会議議事録の偽造問題については修正主義者の説にしたがい(172-177頁)、戦前と戦時中の第三帝国のユダヤ政策について、それがユダヤ人の絶滅ではなく、移住と移送を目的としたものであったことを文書資料にもとづいて説明しました(159-182頁)。また、「ホロコースト研究の空白部分」という節では、こう指摘しています。
「今日まで答えられていない疑問が存在し続けている。なぜなのであろうか。民族社会主義者のユダヤ政策、いわゆる『最終解決』、ホロコーストのことをあつかうことが、まったくタブーとなっており、それに疑問を呈することは憤激の嵐を呼び起こすからである。このために、絶滅論の支持者がホロコーストとその前史を批判的に検証することは、行なわれてこなかったし、絶滅論の結論にマッチしない、反対論者の批判的検証は、憤激によって退けられたり、抑圧・黙殺されたり、多くの場合、犯罪として刑事訴追の対象となってきた。公式の標準的見解や判決によると、この複雑なテーマは、『証拠をまったく必要としない自明の事実』――ニュルンベルク裁判が始めて適用した定式――なのである。」(182頁)
「600万人のタブー」という節では、彼は600万という数字の信憑性のなさをまとめ、「死因に関する議論」という章では、大量殺戮のためのガス室が実在したかどうかに関するさまざまな論文に言及し、ラッシニエ、バッツ、シュテークリヒ、ロイヒター、ルドルフ、リュフトルなどさまざまな修正主義者の研究を紹介し、すでに言及したかこれから言及する予定の人物の研究も引用しています。
L:チェルニン伯は歴史家なのですか?
R:いいえ。彼は他人の研究を要約しただけにすぎず、典拠資料のリストもあげていませんので、彼の本が研究水準の向上に寄与したとは考えられません。しかし、修正主義がメインストリームの中にどれほど深く浸透しているのか、そこで真剣に受け取られているのかを知る意味で、この本は読むに値します。
[1] Rudolf Graf Czernin, Das Ende der Tabus – Aufbruch in der Zeitgeschichte, Stocker-Verlag, Graz-Stuttgart
1998.