1.2 ホロコーストとは何か?

R(ルドルフ):私たちが遠い惑星からやってきたと仮定して、単純で素朴な質問をして見ましょう。ホロコーストとは何なのか? それはどのように定義されるのか? その特徴はどのようなものか? ホロコーストが比類のないものとされているのはどの点においてか? どなたか簡潔にお答えいただけないでしょうか。

 

L(聴衆):ナチスによって600万のユダヤ人が殺されたことです。

R:素晴らしい定義です。ただし、犠牲者の数自体は、ホロコーストを比類のないものとしてはいませんが。これまでの歴史をふりかえってみると、1930年代のウクライナで行なわれた大虐殺、中国の文化大革命のときの大虐殺のような大規模な大虐殺があったからです。

 

L:比類のないものとしているのは工業的な絶滅手段です。

L:…それと冷血な官僚的決定です。

R:これも素晴らしい補足です。ホロコーストについての私なりの定義、そして私がホロコーストとは考えていないものの定義について、大雑把に述べておきます。ドイツの民族社会主義政府が、ドイツの支配下に入った600万人のユダヤ人を、組織的、全面的、そして工業的な規模で、すなわち、ガス室という化学的屠殺場の中で、計画的に殺戮し、しかも、犠牲者を焼却することで殺戮の痕跡を残さなかったという事件をホロコーストと呼ぶことにします。ですから、ホロコーストには3つの特徴があります。

 

@           全面的かつ組織的な虐殺計画

A           ガス室と焼却棟を使った計画の工業的実行

B           合計約600万人の犠牲者

 

 たしかに、ホロコーストには、ユダヤ人の権利の剥奪と移送――政治的異論派、ジプシー、エホバの証人といった他の住民集団の権利の抑圧と平行していた――という迫害のその他の局面が付随しています。しかし、ドイツ第三帝国内部での少数派に対する迫害は、人類史の中では新規なことではなく、言葉の厳密な意味で、(比類のない)ホロコーストの一部と呼べるものではありません。ですから、紙面と時間の制約もあって、このような迫害については、ここでは部分的にしかとりあげません。ただし、そうするのは、この不正行為を無視したり、大目に見ようとしているためではありません。それどころか、私は、このような迫害を不正行為とみなしており、その犠牲者に深く同情しています。

 

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