歴史的修正主義研究会

最終修正日:2004305

 

<質問10

わが国の正史派の研究者○○氏は、最近刊行されたホロコースト研究書の中で、「否定論の似非科学的手法」の一例として「ルドルフ報告」をあげていますが、歴史的修正主義者はこの点についてどのように考えていますか?

 

<回答>

 たしかに、○○氏は、その研究書の中で、ルドルフ報告について次のように述べています。

 

「ルドルフは大学院生でマックス・プランク研究所の期限つき研究員だったが、無断で研究所の公用便箋を使い、出所を明示せず権威のある検査機関フレゼニウス研究所に試料を送り、シアン化合物が含まれているかどうか検査を依頼した。その検査結果を利用して法廷では、『アウシュヴィッツのガス室跡の試料からはシアン化合物が検出されず、虱駆除施設の廃墟の試料だけがシアン化合物の注目に値する残滓を示した』と主張したのである。マックス・プランク研究所は、調査後ルドルフを解雇し声明を出した。それによれば、試料が本当にアウシュヴィッツのものだという証拠は何もなく、専門家の判断では、もし試料が仮にそこから取られたものであっても『シアン化合物の痕跡がない』という検査結果には何の不思議もなかった。なぜなら、シアン化合物は非常に急速に、土の中では6週間から8週間で分解してしまうからであり、壁のような岩石の中では『完璧な保存状態で、空気、湿気、バクテリアの完全な排除のもとでのみ』保存できるに過ぎなかった。爆破され風雨にさらされて調査時点で50年近くも経ったアウシュヴィッツのガス室跡で採取したものとすれば、まさにこの保存状態とはまったく相入れなかった。[脚注20Süddeutsche Zeitung, Nr. 73, 29, 3. 1994]」[1]

 

 以上が、○○氏の研究書の終章「アウシュヴィッツ否定論の潮流とその批判」に登場するルドルフ報告に対する批判と思われる箇所です。

 

論点

@        まったくありません。

 

結論

@         ○○氏のルドルフ報告批判と思われる箇所は、あるドイツの出版局が配信した新聞記事、それもきわめて内容がゆがめられた記事の一部を紹介したにすぎません。

A         ○○氏は、氏が批判の対象としているルドルフ報告や、それと関連したマックス・プランク研究所の声明、ひいては、質問9であつかったロイヒター報告をご自分の目で「精読」・「検証」されていないかのような印象を受けます。

B         残念ながら、○○氏は、氏の(?)ロイヒター、ルドルフ報告に対する「批判」(?)を参照するかぎりでは、ロイヒター報告、ルドルフ報告を「似非科学的手法」と断定するほど、アウシュヴィッツの焼却棟・「殺人ガス室」・「大量ガス処刑」の科学的・化学的・技術的側面について、氏が「似非科学的手法」を使っていると非難しているロイヒター、ルドルフ両氏よりも通暁しているようには思えません。

 

補足

正史派の研究者のための参考資料

 誤訳、意訳、脱落、主旨の取り違えなどもあると思われますが、○○氏も含めた正史派の研究者の方々が、ルドルフ報告の検証・批判を進めるための、参考資料として掲載しておきます。

 

<ルドルフ報告の結論部>

 

A: 上記の石造建築の中のシアン化合物の痕跡と安定性を調査し、アウシュヴィッツのこれらの建物からの建築資材の試料を分析・解釈した結果、次のようなことがわかった。

1.     石造建築の中で反応して鉄青を生み出すシアン化合物は何世紀にもわたって安定している。それは、石造建築と同じタイムスケールで分解する。それゆえ、シアン化合物の痕跡は、風雨の影響には関係なく、今日でもかなりの濃度で検出されうる。ビルケナウの害虫駆除室BW5a/bの外壁は深い青色であり、高い濃度のシアン化合物を含んでいる。この事実はこの証拠である。

2.     青酸を使用した大量殺人が物理的に可能な条件の下では、シアン化合物の痕跡は、衣服の害虫駆除を行なった建物と同じような濃度のものが発見されるであろうし、その結果生じる壁の青いしみは、同じように、今日でも存在するはずである。

3.     いわゆる「ガス室」では、シアン残余物の濃度は、その他のどの建物の濃度よりも高くない。

 

Aへの結論:

 物理的・化学的土台にもとづけば、目撃者が証言しているような、いわゆる「ガス室」での青酸を使った大量ガス処刑は起こり得なかったに違いない。

 

B:目撃者が証言している部屋での大量ガス処刑事件を、物理的・化学的分析も含む技術的実践的観点から調査すると、以下のことがわかる。

1.     アウシュヴィッツのいわゆる主要ガス処刑室、すなわち、中央収容所の焼却棟の死体安置室、焼却棟UとVの死体安置室T(「ガス室」)には、毒ガスを含んだ物質を注入する方策がまったくなかった。今日見ることのできる穴は戦後作られたものである。

2.     媒体からの青酸致死量の放出には、証言されてきたより何倍もの時間を必要とする。数時間かかることもある。

3.     焼却棟UとVのいわゆる「ガス室」を十分に換気するには、1回の空気交換が15分かかるとすると、あらゆる目撃証言とは逆に、少なくとも2時間かかるであろう。

4.     焼却棟WとX、ブンカーTとUのいわゆる「ガス室」を効果的に換気することはできない。防護服もまとわず、特別なフィルターのついたガスマスクも装備しない特別労務班が死体を部屋から引き出し、運ぶことはできない。

 

Bへの結論:

 法廷でなされたり、法律文書に引用されたり、学術書に描かれたりしてきた、アウシュヴィッツのいずれの建物における大量ガス処刑の手順は、自然科学の法則とは一致していない。

化学者ゲルマール・ルドルフ、シュトゥットガルト、1993314

 

@         いわゆるルドルフ報告[2]にはさまざまなバリエーションがありますが、○○氏のいうところの「ルドルフ鑑定書」の表題は、「アウシュヴィッツ『ガス室』のシアン化合物の形成と検知可能性に関する所見(Gutachten über die Bildung und Nachweisbarkeit von Cyanid-Verbindungen in den 'Gaskammern' von Auschwitz」です。

A         ルドルフ報告は、綿密に組み立てられていますので、たんに、シアン化合物の残余物は風雨に流されたなどといった反論は一蹴されてしまいます。彼の立論は、そのような思いつきの反論をそれこそ虱潰しにしていますので、反論するには、十分な化学的知識が必要だと思われます。

B         また、ルドルフ報告はシアン化合物の残余物だけを論じているわけではありません。それは、結論部のAにあたるだけです。結論部のBでは、(1)チクロンBの投入手段問題、(2)チクロンBからのシアン化水素ガスの放出時間問題、(3)残存シアン化水素ガスの排気問題、(4)死体の搬出問題があげられています。

C         ルドルフ報告が提起している、こうした問題すべてに科学的・化学的・技術的に説得力のある回答をした上で、はじめて、ルドルフ報告を批判したといえるのです。

 

 

<マックス・プランク研究所(協会)の二つの声明>

 

科学の前進のためのマックス・プランク協会

渉外局

1993525

新聞声明

化学修士ゲルマール・ルドルフは、シュトゥットガルトのマックス・プランク固体研究所で博士候補として働いていた。デュッセルドルフの弁護人ハヨ・ヘルマン――オット・エルンスト・レーマー退役少将の弁護士――の依頼を受けて、ルドルフは最近、「アウシュヴィッツ『ガス室』のシアン化合物の形成と検知可能性に関する所見」を書いた。ルドルフは、アウシュヴィッツの害虫駆除施設とガス室の石造建築から試料を採取し、何であるのか明らかにせずに、シアン化合物をフレゼニウス研究所に分析させた。彼の研究にある試料のうち、害虫駆除施設の建築からの試料だけが、シアン化合物の重大な痕跡を示していた。

 この仕事は、マックス・プランク固体研究所の費用で実行されたものではなく、この仕事のために研究所の資産があてられたわけではない

 ゲルマール・ルドルフの指導教官であるマックス・プランク固体研究所教授シュネリングは、1992年夏に、ルドルフの企画について知った。当時すでに、専門家報告は、弁護士ヘルマンの手にあり、首相、ドイツのユダヤ人中央会議、連邦検事局、司法省その他に配布されていた。

 ルドルフ氏は、研究結果の要約を、法廷でだけ使い、公には公表しないという条件で、ヘルマン弁護士に渡していた。こうした制限にもかかわらず、数週間、レーマーは、西ドイツの多くの人々に、自分の個人的な見解をつけて原稿を配布していた。この点に関して、ルドルフ氏は、レーマーとヘルマンに警告を発し、両名に対して法的措置をとる権利を留保した。

 

 

@         マックス・プランク研究所(協会)は、ルドルフ報告の作成過程と簡単な内容を紹介し、報告と研究所の関係を否定しているだけで、報告の立論の是非についての研究所の見解を示していません。

 

 

科学の前進のためのマックス・プランク協会

渉外局

1994328

新聞声明

化学修士ゲルマール・ルドルフに関して

化学修士ゲルマール・ルドルフは、「アウシュヴィッツ『ガス室』のシアン合成物の形成と検知可能性に関する所見」を書き、アウシュヴィッツの害虫駆除施設とガス室の石造建築から採取した試料を化学的に分析した結果、青酸を使った人間の大量殺戮は起こらなかったことを証明したと主張している。ルドルフ氏は199010月から199367日まで、シュトゥットガルトのマックス・プランク固体研究所で博士候補として働いており、研究テーマは「Periodische Knotenflächen und ihre Anwendung in der Strukturchemie 」であった。ルドルフ氏は19911月にこの専門家報告に取りかかったが、それは博士論文や、マックス・プランク研究所でのその他の仕事とはまったく関係がない博士論文の指導教官は、著名な科学雑誌がこの研究の成果の公表に関心があるかどうかを問い合わせてきたので、この研究が進行中であることを、1991年秋に知った。指導教官は、これは研究所の仕事にはまったく関係がなく、発表する価値があるとは思えないとコメントした

 ルドルフ氏は、専門家報告を研究しているときに、自分が研究所を代表しているかのような印象を他者に与えていた。例えば、彼は、自分の研究の背景を伝えずに、試料の分析を依頼するとき、研究所のレターヘッドの入った便箋を使用した。この事実が発覚したとき、ルドルフ氏との雇用契約は破棄された。

 マックス・プランク協会は、協会も研究所もこの専門家報告の作成とその内容にまったく責任がないことを声明する。進行中の事態が明らかになるやいなや、研究所理事会は、この専門家報告とは明白な距離を置いた。

 連邦憲法裁判所と連邦最高裁判所は、第三帝国の強制収容所のガス室でユダヤ人が大量に殺されたことは、もはや証拠を必要としない常識の歴史的事実であると裁定してきている。マックス・プランク協会もこの裁定に同調している

 

@  二番目の声明では、その後、研究所はさまざまな政治的圧力を受けたために、前回の声明よりも、ルドルフとルドルフ報告に対する非難の調子は強くなっていますが、やはり、報告の化学的議論の是非、例えば、シアン化合物の形成と分解についての研究所の見解は明らかにされていません。

A  「殺人ガス室」問題にしても、研究所(協会)は、実在したという裁判所の裁定に賛同すると述べているだけです。

B  マックス・プランク研究所のような学術機関が、歴史学上、化学・技術上の論点について、自分の見解を明らかにするのではなく、裁判所の裁定に賛同するとだけ述べているのは、非常に奇妙なのですが、ホロコースト問題に関してドイツの研究機関や研究者がおかれている異常事態に対する、精一杯の抗議なのかも知れません。

 

 

<『南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung)』の記事>

 煩雑なようですが、ドイツ語オリジナルとその英訳、その和訳を掲載しておきます。それには理由があるのです。

 

・ドイツ語オリジナル

Die Max-Planck-Gesellschaft hat nach Auskunft ihres Pressesprechers keinen Beweis dafür, daß die Proben wirklich aus Auschwitz stammen. Sollten sie aber von dort stammen, ist es nach Expertenmeinung alles andere als ein Wunder, daß keine Blausäurespuren gefunden wurden, weil Cyanidverbindungen sehr schnell zerfallen. Im Boden geschehe dies schon nach sechs bis acht Wochen; im Gestein könnten sich die Verbindungen nur unter "absoluten Konservierungsbedingungen, unter völligem Ausschluß von Luft, Feuchtigkeit und Bakterien" halten.

 

・その英訳

According to its spokesman, the Max Planck Corporation has no proof that the samples really come from Auschwitz. Even if they are from there, according to expert opinion, it is certainly no wonder that no traces of Prussic acid were found, because cyanide compounds disintegrate quickly. In earth this takes six to eight weeks and in stone the compounds can only be preserved by 'absolute conservation conditions, including complete exclusion of air and bacteria'.

 

・その和訳=『ホロコーストの力学』、235

それ[マックス・プランク研究所(協会)]によれば、試料が本当にアウシュヴィッツのものだという証拠は何もなく、専門家の判断では、もし試料が仮にそこから取られたものであっても「シアン化合物の痕跡がない」という検査結果には何の不思議もなかった。なぜなら、シアン化合物は非常に急速に、土の中では6週間から8週間で分解してしまうからであり、壁のような岩石の中では「完璧な保存状態で、空気、湿気、バクテリアの完全な排除のもとでのみ」保存できるにすぎなかった。

 

@        なんと、○○氏のルドルフ批判なるものは、『南ドイツ新聞』の記事を和訳したものにすぎないのです。

A        ○○氏の文章の脚注20は、この箇所の典拠資料が『南ドイツ新聞』の記事であることを明らかにしていますので、たんに『南ドイツ新聞』の記事を紹介したにすぎないと「強弁」することは可能かもしれません。

B        しかし、もっと、奇妙なことは、「マックス・プランク協会のスポークスマンによれば…」、「それによれば」とされている文章、すなわち、シアン化合物の形成と分解について言及している箇所(シアン化合物はすぐに溶解してしまうので、「ガス室」の壁にシアン化合物の残滓がなくても別に不思議ではないという箇所)は、マックス・プランク研究所(協会)の声明には見当たらないことです。なぜなら、この問題は、ルドルフ報告の中心的なテーマであることからもわかるように、結論を出すには十分な研究調査が必要だからです。

C        事実は、こうです。この記事を執筆した記者が、いわば、権威づけのために、「マックス・プランク協会のスポークスマンによれば…」という一節をつけて、記事の内容すべてがマックス・プランク研究所のお墨付きを得ているかのような印象操作――記事の捏造に近い――を行なったのです。

D        ○○氏は、その捏造に近い新聞記事をそのまま和訳して、ルドルフ報告批判として、氏の研究書に掲載しているにすぎません。

 

 

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[1] 『ホロコーストの力学』、青木書店、2003年、235236頁。

[2] 最新版のルドルフ報告のonline版はhttp://vho.org/GB/Books/trr/index.html、(その試訳)です。また、論集『ホロコーストの解剖』に掲載されたルドルフ論文「アウシュヴィッツとビルケナウの「ガス室」に関する技術的・化学的考察onlinehttp://codoh.com/found/fndgcger.html、(その試訳)も参考になります。