第3章 修正主義者の説
第二次世界大戦中にユダヤ人が迫害されたことを否定する者は誰もいない。この迫害は、実際に起きたことであり、非常に野蛮であった。しかし、少数ではあるが次第に影響力を増している研究者集団が、ドイツ人はユダヤ民族の絶滅など計画していなかった、殺戮工場、殺人ガス室、ガス車などは存在していなかった、500万人から600万人というユダヤ人犠牲者の数は無責任な誇張にすぎないと主張している。彼らは、「修正主義者」と称しているが、反対派は「ホロコースト否定派」と呼んでいる。修正主義者は、多くのユダヤ人が占領下のソ連領でドイツ人によって射殺されたことを否定していないが、ホロコースト正史派の歴史家のあげている数字(100万から200万人のユダヤ人が射殺された)は、ひどく水増しされていると考えている。
修正主義者にとっては、第二次世界大戦中のユダヤ人の悲劇は、その他の民族が戦時中に被った悲劇と本質的に異なるものではない。民族的・宗教的少数派の迫害、強制収容所、強制労働、民間人の射殺、こうしたことは歴史の中で何回も繰り返されてきた。したがって、修正主義者にとっては、ユダヤ人に起ったことは、ホロコースト正史が主張しているような、歴史上ユニークな事件ではありえない。
ホロコースト正史派の歴史家が正しいのか、それとも修正主義者が正しいのかを確定するには、ガス室という決定的な問題を解決しなくてはならない。(ここで「ガス室」という場合、それは、すべての強制収容所に存在しており、戦時中のドイツの文書ではしばしば「ガス室」と呼ばれている害虫駆除ガス室のことではなく、殺人ガス室のことを指している。)もしも、殺人ガス室が実在していなければ、ホロコーストも実在していない。凶器が存在していないからであり、数百万のガス処刑されたユダヤ人も存在していないので、600万という数字は大幅に下方修正されなくてはならないからである。
もちろん、修正主義者は、ユダヤ人が一人もガス処刑されなかったことを証明することはできない。ある事件が起らなかったことを証明するのは、非常に困難だからである。例えば、誰かが殺人をおかさなかったことを証明することは誰もできない。しかし、もしも誰かが殺人でわれわれを告発したとすれば、この人物は、自分の告発を立証する物的証拠を提出しなくてはならない。もし提出できなければ、たんに口汚い嘘つきとして軽蔑されるであろう。修正主義者は、第二世界大戦中にユダヤ人が一人もガス処刑されなかったことを証明することはできないけれども、目撃証人の語るところのガス室での「大量殺戮」が、技術的に不可能であるがゆえに、ありえないことであったことを証明することはできる。また、「絶滅収容所」で数百万の死体を処理することがまったく不可能であることも明らかにすることができる。
たとえ、ホロコースト物語の擁護者が、第二次世界大戦中に何名かのユダヤ人がガス処刑されたことを立証する資料を提出することができたとしても、このことで、修正主義者の説を無効にすることはできない。1つか2つの個別的事例は、少数の犯罪者の手によって行なわれたかもしれないからである。しかし、強調しておかなくてはならないのは、ドイツ人が第二次世界大戦中に殺人ガス処刑を行なったということを文書資料によって確証できる事例は一つも存在しないし、1944年と1945年にドイツの強制収容所を解放した連合軍は一つたりともガス処刑された囚人の死体を発見していないのである。このことは、ホロコースト正史派の歴史家でさえも率直に認めていることである。