弁護団全員が採択した動議

 

IMT01_0168-0170

(法廷は、この動議が法廷の管轄権に関する嘆願であり、憲章3条に矛盾していると裁定して、この動議を却下した。)

 

 諸国家間の平和は、この大きな世界的な紛争の時期に、二つの世界大戦と暴力的な衝突によって、覆されてしまった。その結果、被害を被った諸国民は、国家間の真の秩序を再建するのは、各国が主権を行使して、いつ何時でも、どんな目的でも、戦争を遂行する権利を持っているかぎりは、不可能であると認識するにいたった。過去数十年のあいだ、世界の世論は、戦争遂行の決定は善悪を超えているという考え方に、ますます強く反対するようになってきた。正当な戦争と不当な戦争とを区別し、諸国家共同体が不当な戦争を行なっている国家の責任を追及し、もし、不当な戦争を行なっている国家が勝利した場合、その暴力の成果を否定するように要求している。それだけではない。有罪とされた国家が非難され、その責任が追及されるだけではなく、不当な戦争を引き起こした人々が国際法廷で裁かれ、刑を宣告されることも要求されている。現在、この点では、中世以来の非常に厳格な法律家以上に進んでしまっている。この理念は、法廷に提出された起訴状の3つの点の最初の点、すなわち、平和に対する罪という罪状の土台となっている。人間性は、この理念が将来、要求以上のもの、すなわち、有効な国際法たるべきであると主張しているというのである。

 しかし、この理念は、今日まだ有効な国際法とはなっていない。国際的反戦組織である国際連盟の規約でも、ケロッグ・ブリアン条約でも、侵略戦争を禁止しようとした最初の盛り上がりの中で、1918年以降に締結されたどの条約でも、この理念は実現されていない。とくに、つい最近までの国際連盟の行動も、この理念を実現していないという意味では、きわめて明白である。いくつかの事例では、連盟は、ある加盟国に対する別の加盟国の暴力行動の合法性、非合法性を裁定しなくてはならなかったが、いつも、暴力行動を、国家による国際法の侵犯として非難しただけであり、暴力にうったえた国家の政治家、将軍、経済人を裁判にかけることなどまったく考えもしなかった。そして、この夏、世界平和のための新しい組織がサンフランシスコで設立されたときにも、国際法廷が不当な戦争を行なった人々を処罰するという新しい格率は作られなかった。

 それゆえ、当法廷は、それが平和に対する罪を処罰しようとするかぎり、既存の国際法に訴えるのではなく、犯罪のあとになって作られた新しい刑法にもとづく裁判審理となってしまう。これは、文明世界では神聖なものとなっている司法原則に矛盾してしまう。ヒトラーのドイツは、この原則を部分的におかした罪状で、ドイツ内外で厳しく非難されたのである。

 この原則とは、行為の時点ですでに存在し、その処罰を規定している法律に違反した者だけが、処罰されるというものである。この格率は、この法廷憲章の署名国、すなわち、中世以来のイギリス、建国以来の合衆国、大革命以来のフランス、ソ連の政治システムの根本原則の一つである。

 そして最近、ドイツ管理委員会が、公平なドイツの刑法制度への復帰を保証する法律を公布したとき、まず第一に、「行為がなされた時点で効力を持っていない刑法なしには処罰もない」という格率の回復を指示したのである。この格率は、その場しのぎの規定ルールではない。いかなる被告も事後法で処罰されれば、不正な待遇を受けたと感じざるを得ないという事実認識にもとづいているのである。

 被告人全員の弁護団が、既存の国際法から逸脱していること、一般的に承認されている近代刑法の原則が軽視されていることを黙認してしまい、今日ドイツ国外でも公けに表面されている疑念を押しつぶしてしまうならば、その職務を怠ったことになってしまうであろう。だからこそ、当法廷が、最初から、既存の国際法を逸脱しなければ、世界秩序の進歩に著しく貢献しうるというのが、弁護団全員の確信である。起訴状が、処罰の対象ではなかった行為を告発しているときには、法廷の仕事とは、まさに起こったことを包括的に調査・確定する作業に限定されるべきであろう。この作業のためになら、弁護団は法廷の真の協力者として、全力で協力するであろう。当法廷によるこうした調査・確定作業の影響を受けつつ、国際的に合法的な共同体を構成する諸国家は、将来、不当な戦争を始めた罪状で有罪である人々は国際法廷によって処罰されるという新しい法律を作りあげていくことであろう。

 弁護団はまた、憲章にある刑法的な性格を持つその他の原則も、「法なくして処罰なし」という格率と矛盾していると考えている。

 最後に、弁護団は、当法廷が、普遍的に承認されている近代法の原則を逸脱するという特異性を持っていることも指摘しておかなくてはならない。裁判官は、この戦争の一方の当事者であった諸国によってのみ、任命されている。この一方の当事者がすべてを兼ねている。すなわち、法廷の規約、法律規範、検事、判事を兼ねているのである。そのようなことをしてはならないというのが、今日までの普遍的な司法概念である。事実、アメリカ合衆国は、国際的な仲裁・調停組織のチャンピオンとして、すべての当事者に対して中立的立場の人物が判事席に座るように要求していた。この原則は、ハーグの国際司法常設裁判所では模範的なかたちで、実現されてきた。

 以上のような、法律的難点と疑問点を考慮して、当弁護団は、当法廷が、憲章のもとでの当法廷の法的な諸要素に関して、国際的に認められた国際法の権威の意見を求めることを嘆願する。

 被告人全員の弁護団を代表して、

 署名:シュターマー博士