試訳:『特別措置』と焼却棟U:1943年1月のチフスの流行
マットーニョ
歴史的修正主義研究会試訳
最終修正日:2003年8月3日
本試訳は当研究会が、研究目的で、Carlo Mattogno, “Sonderbehandlung”
and Crematory II: The Typhus Epidemic of January 1943を試訳したものである。 online: http://www.russgranata.com/sonder.html |
焼却に関して、「特別措置(Sonderbehandlung)」と「特別処置(Sondermassnahmen)」という単語は、同じ意味を持っている。焼却棟Uの電力供給に関する1943年1月29日のメモ文書は、次のように述べている。
「[1943年2月15日からの焼却棟の]作動の開始は、既存の機関の限定的な使用のみにもとづくことができる(一方、特別措置との同時の焼却は可能である)。焼却棟への[電力]供給線が、それを完全に稼動させるには弱すぎるからである。」
("Diese Inbetriebsetzung kann sich jedoch nur
auf beschränkten Gebrauch der vorhandenen Maschinen erstrecken (wobei eine Verbrennung
mit gleichzeitiger Sonderbehandlung möglich gemacht wird), da die zum Krematorium
führende Zuleitung für dessen Leistungsverbrauch
zu schwach ist").(1)
「特別措置との同時の焼却」という表現は何を意味しているのであろうか。ドヴォラクとペルトは次のように答えている。
「ビショフとデヤコがガス室を含むように、焼却棟UとVの死体安置室計画を修正したとき、彼らは、建物の予想電気消費量を増やした。換気システムは、チクロンB(ママ)をガス室から排出し、焼却器の炎に風を吹きかけることを同時に行なった。彼らは、電気システムの契約者であるAEGと契約していたが、AEGは、システムが必要とするような高圧サーキットブレーカーを手に入れることができなかった。その結果、焼却棟Uは、臨時の電気システムを供給されることになった。焼却棟Vには、何も利用できるものがなかった。さらに、カトヴィツのAEGの代表者であるトミチェク技師は、臨時システムの能力は『特別措置』と焼却の同時進行を許容しないであろうとアウシュヴィッツ建設局に警告した。」(2)
換言すると、焼却棟への電力供給線が不十分なために、焼却とガス処刑を同時に行なうことは不可能であるというのである。実際には、(「ガス室」への勝手な言及は別として)この文章は、逆のこと、すなわち、「既存の機関の限定的な使用」が「特別措置との同時の焼却」を許容しているということを述べている。
前述の文章の意味を理解するには、この文章を歴史的文脈から捉えなくてはならない。電気技師でSS下級隊長スヴォボダは中央建設局技術部長であった。1943年1月29日、トップフ社の技師プリュファーは、ビルケナウの4つの焼却棟の建設現場を視察し、「試験報告」を書いて、焼却棟Uについて次のように記している。
「5つの3炉室焼却炉が出来上がっており、現在、温められて乾燥されている。地下の死体安置室のための吸排気換気システムの搬入は、鉄道封鎖のために遅れている。だから、その設置は今から10日以降のことであろう。だから、焼却棟Uを43年2月15日に稼動させ始めることは、確実に可能である。」
("Die 5 Stück Dreimuffel-Einäschenungsöfen sind
fertig und werden z.Zt. trockengeheizt. Die Anlieferung der Be- und Entlüftungsanlage für die Leichenkeller verzögerte sich im Folge
der Waggonsperre, sodass der Einbau
voraussichtlich erst in 10 Tagen erfolgen kann.
Somit ist die inbetriebnahme des Krematoriums
II bestimmt am 15.2.43 möglich.")(3)
この報告に関して、スヴォボダのメモ文書は次のように述べている。
(1)焼却棟を稼動させることを延期するというプリュファーの提案時期(1943年2月15日)は、「既存の機関の限定的な使用」ということにおいてのみ尊重されることができる。
(2)これは、「特別措置との同時の焼却」も保証するであろう。
「既存の機関」とはどのことであろうか。この問題に関する回答は、二つの重要な文書のなかに発見される。焼却棟Uに関する1943年1月29日のキルシュネクのメモ文書は次のように述べている。
「圧縮送風機の焼却棟のモーター用の電気接続部分は、移動・再配置されている。煙突のところにある3つの大きな吸気設備が設置され、稼動準備に入っている。ここでも、モーター用の電気接続部分が再配置されている。死体搬送エレベーター(巻き上げ式)が臨時に設置されている。鉄道封鎖が解除されたのはほんの数日前だったので、地下の死体安置室用の吸排気換気装置は到着していない。貨車は動き始めているので、これらの資材の到着を毎日待っている。
設置は約10日間のあいだにすすめることができる。」
("Die elektrischen Anschlüsse für die zum Ofen gehörenden
Motore für die Druckluftgebläse werden z.Zt. verlegt. Die 3 grossen Saugzuganlagen, an den Schornsteinen befindlich, sind eingebaut und betriebsfertig erstellt. Auch hier werden
zur Zeit die elektrischen Anschlüsse für die Motoren verlegt. Der Leichenaufzug
wird z.Zt. provisorisch eingebaut (als Plateauaufzug). Die Be- und Entlüftungsanlage für die Leichenkeller ist infolge der Waggonsperre,
die vor einigen Tagen erst aufgehoben
wurde, noch nicht eingetroffen, die Waggons rollen und wird täglich mit
dem Eintreffen dieser Materialen gerechnet.
Der Einbau kann in ca. 10 Tagen erfolgen..")(4)
トップフ社の設置者ハインリヒ・メッシングは、1943年1月に、自分が焼却棟Uで行なった作業について、メモを残しているが、これは、キルシュネク報告を裏打ちしている。
「04/05.01:旅行
05/10.01:焼却棟に吸気設備を設置
11/17.01:焼却棟T(U)に3つの吸気設備を輸送・設置
18/24.01:戦争捕虜収容所焼却棟T(焼却棟U)に吸気設備を設置
25/31/.01:吸気・排気設備。5つの3炉室炉用の5つの副次的送風機が設置。資材の輸送
01/07.02:5つの3炉室炉用の副次的送風機が設置」
("04/05.01: Reise.
05/10.01: Montagen d. Saugzug-Anlagen
in Krematorium.
11/17.01: Transport und Montage der 3 Saugzug-Anlagen im Krematorium I. (II)
18/24.01: Saugzug-Anlagen im
Krematorium I. K.G.L. montiert.
(Kr II)
25/31.01: Saugzug u. Be u. Entlüftungsanlagen.
5 Stück Sekundargebläse für
die 5 Dreimuffelöfen montiert.
Transport des Materials.
01/07.02 Sekundargebläse für
die fünf Dreimuffelöfen montiert.")(5)
臨時エレベーターはまだ設置されていなかった。それは、1943年1月26日に、中央建設局がHäftlingsschlosserei社に発注していたが(Auftrag Nr. 2563/146)、その製造は、3月13日に中止された。(6)
結局、1943年1月29日時点の「既存の機関」とは次のようなものであった。
・
送風機625D(7)――380voltの15CVの三極エンジン――を備えた、煙突の3つの吸排気設備。(8)
・
送風機290M――380voltの1420
rpm3、CVの三極エンジン――を備えた、炉のための5つの圧縮空気装置(9)
・
予定されてはいたがまだ設置されていない機関は、
・
B室(死体安置室1)用の吸排気設備(380volt、2CVの2つの三極エンジン)
・
炉室用のEntlueftungsanlage(380volt、3.5CVの1つの三極エンジン)
・
洗浄室用のEntlueftungsanlage(380volt、1CVの1つの三極エンジン)
・
L室(死体安置室2)用のEntlueftungsanlage(380volt、5.5CVの1つの三極エンジン)(10)
ここまでくれば、第二の質問に答えることができる。もし、炉室用の送風機と吸気装置を備えた既存の機関の限定的使用が、「特別措置との同時の焼却」を保証したとすれば、この「特別措置」が死体安置室1の「殺人ガス室」とはまったく関係を持っていないことは明らかである。しかし、特別措置はこれらの施設、とくに焼却自体に関連している。すなわち、それは、死体処理に関係しているのであって、生きている人間の処理には関係していない。1942年にはチフスが蔓延し、事態は危機的であった。このために、SS経済管理局D課長で、SS師団長、武装SS少将グリュックスは、1943年2月08日に、「収容所の完全な検疫」(11)を命令している。このような歴史的文脈のなかで考えると、1943年1月29日のメモ文書にある「特別措置」という単語は、以前にも説明したように、衛生的な意味の拡張であるにすぎない。すなわち、衛生的な観点から見ると、「既存の機関」は、限定的な使用方法で、例外のない焼却を保証したのである。このことは、2週間ほど前の2通の文書で確証されている。1943年1月13日、ビショフは、アウシュヴィッツのドイツ装備会社に「建築室用の大工仕事の実行」について書簡を送っている。このなかで、ビショフは、「収容所の焼却棟T用の」ドアの入手が遅れていることに不満を述べている。そのなかで、彼は次のように述べている。
「とくに、42年10月26日に発注した強制収容所の焼却棟T用のドアBftgb.Nr.17010/42/Ky/Paは特別処置の実行のためにきわめて必要である。」
("So sind vor allem die mit
Auftragsschreiben vom
26.10.42 Bftgb. Nr. 17010/42/Ky/Pa bestellten Türen für das Krematorium
I im KGL, welches zur Durchführung der Sondermassnahmen dringend benötigt wird.")(12)
すでに示してきたように、「特別処置の実行」には、まったく犯罪的な意味合いはない。それどころか、それは、ビルケナウのBV地区の囚人用病院を含む保健衛生的な施設の建設に関係している。それゆえ、焼却棟が「特別処置の実行」のために建設されたとしても、それは、焼却棟がこれらの施設の一部であることを意味しており、その保健衛生的機能がもっぱら、死んだ囚人の死体の焼却であったことを意味しているのである。
注
(1)
VffG December 1997, p. 277 (citation by David
Irving).
(2)
Deborah
Dwork, Robert Jan van Pelt, Auschwitz 1270 to the Present.
W.W. Norton & Company,
(3)
Prüfbericht des Ing. Prüfers of 29 January 1943. APMO, BW 30/34, p. 101.
(4)
Kirschnek Aktenvermerk of 29
January 1943. BW 30/34, p. 105.
(5)
J.C.
Pressac,
(6)
processo Höss, p. 83.
(7)
doc.
190.
(8)
Schluss-Rechnung of the Topf company
to the ZBL regarding "BW 30 - Krematorium
II." TCIDK, 502-2-26, p. 230.
(9)
doc.
189.
(10)
Topf Rechnung Nr. 171 of
22 February 1943 concerning the ventilation installations of Crematory II.
TCIDK, 502-1-327, pp. 250-250a. I published a copy of this document in
(11)
APMO,
Standort-Befehl, D-Aul-1, p. 46.
(12)
APMO,
BW 30/34, p. 78.