試訳:ロシア修正主義者の声(1

イ・カツマン

 

歴史的修正主義研究会試訳

最終修正日:2004330

 

本試訳は当研究会が、研究目的でИ. Кацман, Тайны газовых камер(ガス室の秘密)を「ロシア修正主義者の声(1)」と題して試訳したものである。
 誤訳、意訳、脱落、主旨の取り違えなどもあると思われるので、かならず、原文を参照していただきたい。

onlinehttp://revisio.msk.ru/90.htm

 

 歴史的修正主義についてはじめて耳にしたのは、ペレストロイカ以前の時期、たしか、フェリエトンの『クロコヂル』誌上であった。フェリエトンは、歴史的修正主義者のことを、第二次世界大戦中にヒトラー一派がユダヤ人を大量殺戮したことを否定する、ナチスの極小集団として描いていた。当時は、当然のことながら、修正主義者のたわごとを受け入れることはできなかった。ドイツの占領を経験していた人々と再三出会ったことがあったからである。彼らはまったく逆のことを証言しており、知人の祖母でさえも、命の危険を冒して、ユダヤ人家族を地下室にかくまっていたという。

 しかし、修正主義者自身の研究を知ると、ことの本質はもっと複雑であることを理解するようになった。まず、指導的な修正主義者のあいだには、ヒトラーに共感する人々がきわめて少ないことがわかった。スイス人ユルゲン・グラーフ、フランス人ロベール・フォーリソンは、レーガン・サッチャー流の自由主義的保守主義者であった。修正主義学派の創設者ポール・ラッシニエは、フランス社会党員、レジスタンス運動員、ブッヘンヴァルトの囚人であった。ロジェ・ガローディは、反ファシスト地下運動の著名な指導者の一人であり、フランス共産党中央委員でもあった。さらに、修正主義者の中には、アメリカ人研究者ディヴィッド・コールやステファン・ピンターといったユダヤ人も存在している。

 修正主義者の大半は、「東方」計画にしたがった生活空間の浄化という枠内でのユダヤ人大量射殺、ワルシャワ・ゲットーの破壊、第三帝国での反ユダヤ主義的措置の実在を否定していない。ただ、ガス室を使ったユダヤ人の全面的な絶滅、600万人の犠牲者という公式の数字に異論を唱えているだけである。修正主義者の大半は、戦時中の戦闘行動の時期に、収容所やゲットーでの飢餓、疫病、重労働のために、さらに、バルト海沿岸住民やウクライナの民族主義者によって組織されたポグロムの結果、60万から100万人が死んだ、また、ナチスの犯罪についての研究書には、骸骨のような状態となった数千の人々の写真が掲載されているが、彼らは、飢餓とチフスの犠牲者なのである、と考えている。最近ロシア語に翻訳されたユルゲン・グラーフの『20世紀最大の嘘』には、修正主義者の研究蓄積がほぼ完全に反映されている。この著作は大部なものではないが、十分な資料が引用されており、すぐれた推理小説と見なすことができる。

 まず、グラーフは、強制収容所での犠牲者数に関する公式の数字がまったくばらばらであり、信憑性を欠いていることに読者の関心を向けている。アウシュヴィッツの犠牲者数は、典拠資料によって、631000人から400万人にまでまたがっている。トレブリンカは80万人から300万人。チェルムノは15万人から135万人。さらに、比較的完全な犠牲者名簿も存在していない。ナチスの犯罪者の捜索を行なってきたサイモン・ヴィーゼンタール・センターが、このような名簿を作ろうとしたとき、その名簿の中には、例えば、ヨーロッパ議会前議長シモーヌ・ヴェイユのような、生き残って、活躍している人々も存在していた。

 さらに、グラーフによると、ヒトラー一派による現存の命令書の中には、ガス室によるヨーロッパ・ユダヤ人の大量絶滅に言及している文書は一つもない。「東方」計画にしたがったソ連住民(まず、ユダヤ人と共産党員)の殺害命令は存在する。負傷者に病院のベッドを空けるために、瀕死の病人を殺害する命令も存在する。精神病院に収容されている患者の殺害、撃墜されたアメリカ軍飛行士の殺害、占領地域での人質の射殺命令も、署名、部局印、部数入りのものまで、お望みどおりに存在する。しかし、ガス室について何らかのかたちで言及している資料は、一つたりとも発見できなかったのである。数百万の大量埋葬地もやはり一つたりとも発見できなかった。すべてが焼却されたとしても、焼却された骨からの数千万の歯を、跡形もなく、消し去ることはできないであろう。

 ガス室についても、奇妙なことが起こっている。グラーフが引用している目撃証言はたがいに矛盾している。青酸を含んだ丸薬「チクロンB」が犠牲者にふりまかれたという話もあれば、水で増量されたシアン塩がかけられたという話もあれば、正体のわからない可燃性のガスが注がれたという話もある。ガスを注入する穴は床にあったという話もあれば、天井にあったという話もある。ホロコースト正史でも、ドイツ領内には、ガス室は存在しなかったことになっているが、ドイツ領内の強制収容所でもガス室を目撃したという証人もいる。

 どのような手段で大量絶滅が行われたのかということについての目撃者の話からは、ホラー映画の製作者が考え付くような、ありとあらゆる手段のリストが作成できる。電気の流れる巨大な金属製の床、電気炉での集団焼却、血液中毒ステーションなどである。ガス室以外にも、スチーム室、真空室が存在したという。また、動物の餌としてしまうのが、もっとも残酷な殺害方法であったという。最初に、特別に訓練された野獣が人体を噛み砕き、そのあとで、熊が血にまみれた肉体を食べ、特別な鷲が骨を処分するというのである。

 だが、このようなナンセンスも、SS中尉クルト・ゲルシュタインの話に較べると程度が低い。ゲルシュタインは、ガス室やガス車では600万人の子供も含む2000万から2500人が殺戮された、子供たちの鼻には青酸をしみこませた綿があてられたと自白している。

 このたくましいSS隊員は、その他の興味深い話も少なからず供述している。ベルゼクの25uのガス室には、700-800名が押し込まれた(1uにつき2832名)という。だとすると、凡庸なヒトラー一派たちが、なぜ犠牲者をそこに押し込めて、ガス処刑したのか理解できない。人々がそのように押し込められれば、ガスなど使わないでも、ビスケット状態に圧縮されてしまうからである。ロベール・フォーリソンも同じように考えて、実験を行なおうとし、このために、アメリカのガス室(合衆国のいくつかの州ではガス処刑が行なわれている)専門家フレッド・ロイヒターを招請した。19882月、ロイヒターは、アウシュヴィッツとマイダネクを訪問し、ガス室と見なされている部屋は、原則的に処刑を実行するには適していないと明言した。さらに、壁やモルタルの資材を分析してみると、シアン化合物の残留物は(「チクロンB」が物品の害虫駆除のために使われていた害虫駆除室とは対照的に)極微量であり、実際上は、自然状態の水準を越えていないことが判明したという。その後、ドイツの化学者ルドルフとオーストリアの技術者フレーリヒが、同様の実験を行ない、同じような分析結果を出した。

 これに対する反論は醜悪なものであった。「犠牲者が、その呼吸によって青酸を吸収してしまったので、壁には何も残っていない」というのである。換言すると、物質から放出されたすべての分子が、処刑人の命令に従って、コントロールされたロケットのような正確さで、隊列を組んで、犠牲者の鼻に向かっていったというのである。すべての分子は、壁や天井に付着することを厳しく禁止されており、もし違反すれば、営倉送りとなったというのである。

 グラーフたちは、事実を歪曲し、偽造された引用文を付け加えているのかもしれない。その場合には、彼らの嘘を暴いて、彼らに恥辱を与えなくてはならない。私は、まる1年にわたって、修正主義者の説を論駁する研究を、図書館、インターネット、知人たちから探し求めた。しかし、一つも発見できなかった。さらに、あるモスクワの新聞が、『20世紀最大の嘘』からの引用をいくつか掲載し、掲載を保証するとの条件で、これに対する反論を寄せるように提案したが、これに応じる人は誰もいなかった。その代わりに登場したのが、バーデン市の裁判所の判決であった。すなわち、この裁判所は、昨年の夏に、『20世紀最大の嘘』の著者を15ヶ月の禁固、罰金12000フランの刑に処したのである。1992年にオーストリアで採択された法によると、10年の刑を宣告することができるようになっていたからである。そのような法令を採用しているヨーロッパ諸国の数は毎年増えている。

 ガス室を否定することだけではなく、ガス室をそれにふさわしいようなやり方で言及しないことも処罰の対象となっている。例えば、フランスの極右政党の党首ル・ペンは、ガス室などは「第二次世界大戦のエピソード」にすぎないと発言したが、すぐに、議員特権を奪われて、裁判にかけられた。ガローディには今のところ司直の手は及んでいない。ヒトラー体制の囚人であった人物を、「ファシスト宣伝の咎」で投獄することは、今日でも、やりすぎと考えられているのであろう。しかし、それは今のところである。

 ウクライナの雑誌『デルジャヴノスチ』は、バビー・ヤールではユダヤ人の射殺事件は起こらなかったという記事を掲載したが、ユダヤ人共同体はこの記事にとくに憤らなかった。キエフ郊外に横たわっていたのは、ベリアの処刑執行人の手で銃弾を受けたウクライナの民族主義者であったという。また、この事件は、ユダヤ系のエレンブルクとカガノヴィチの陰謀であったという説もあるという。ユダヤ人共同体はこの注目すべき記事を知らなかったにすぎないのであろうか。そうではないだろう。財政的支援を行なっているので、よく知っていたはずである。誰であっても、その2頁目に尊敬すべきスポンサーのポートレートを見ることができる。善良なる伯父さんジョージ・ソロスを呼び出して、何らかの件で投獄することなど、誰も考えはしないであろう。

 うまくいっているようなヨーロッパ諸国においてさえ、修正主義者が裁判にかけられ、ユダヤ人団体が新しい要求を提出し続けていることは、最近でも、反ユダヤ主義の顕著な成長を呼び起こしている。

イ・カツマン、サンクト・ペテルブルク

 

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