試訳：シャーロック・ホームズのガス室

 

――ホロコーストのガス処刑説の文芸学的分析の試み――

サミュエル・クロウェル

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

歴史的修正主義研究会試訳

最終修正日：2003年9月4日

 

  本試訳は当研究会が、研究目的で、Samuel Crowell，The Gas Chamber of Sherlock Holmes, An Attempt at a Literary Analysis of the Holocaust Gassing Claimを試訳したものである。
　誤訳、意訳、脱落、主旨の取り違えなどもあると思われるので、かならず、原文を参照していただきたい。

（online: http://codoh.com/incon/inconshr123.html, http://codoh.com/incon/inconshr4567.html,

http://codoh.com/incon/inconshr8_13.html, http://codoh.com/incon/inconshr14_16.html)

 

＜目次＞

第1章　序論

第2章　最初の報告

第3章　ドイツの害虫駆除措置

第4章　アウシュヴィッツとマイダネクからの最初の報告

第5章　東部地区収容所とゲルシュタイン陳述

第6章　教会法的なホロコースト

第7章　ニュルンベルク裁判

第8章　ルドルフ・ヘスの自白

第9章　資料と戦後の文献の解釈

第10章　安楽死キャンペーンにさかのぼる

第11章　毒ガスと焼却（火葬）への恐怖

第12章　ドイツの民間防衛

第13章　強制収容所での民間防衛

第14章　プレサックの「犯罪の痕跡」

第15章　シャーロック・ホームズのガス室

第16章　結論

第1章　序論[1]

　第二次世界大戦中、ドイツの民族社会主義政府は、おもに絶滅ガス室を使って、大量絶滅という秘密政策を実行したというのが、広く普及している信仰である。アドルフ・ヒトラーがこの政策を命令し、数百万の人間がガス処刑され、その死体は焼却棟や巨大な壕で焼却され、このために死体の痕跡はほとんど残っていないという。

1940年代末から、大量ガス絶滅説には疑問が投げかけられてきたが、それはごく少数の人々の手によって、世論の周辺でなされていた[2]。1970年代初頭から中頃にかけて、ガス絶滅説を批判する者が新しく何人か登場し、そして、過去20年間に多くの人々がその隊列に加わった結果、いまでは、おそらく、このテーマについて執筆している人物は数ダースほどいることであろう[3]。こうした研究者たちは、自分たちのことを、1920年代に、第一次世界大戦についての理解を修正・非政治化しようとした歴史家たちの伝統を受け継ぐもの、歴史的修正主義者とみなしていた。しかし、彼らは、大量ガス処刑説に懐疑的であったので、ホロコーストを全体として再評価しようとしたために、『ホロコースト修正主義者』とか「ホロコースト否定派」と呼ばれている[4]。

　修正主義者の挑戦に対する伝統的歴史学の反応は、期待はずれであった。普通は、誰かが歴史学の定説に挑戦し、物的・資料的な記録が精密に分析されれば、歴史の記録はこれに対応して修正されるものである。しかし、この場合には、このようなことはまったく起こらなかった。その代わりに、修正主義者の議論は無視され、彼らは中傷され続けてきた[5]。最近では、修正主義的な疑問を表現することは、いくつかのヨーロッパ諸国では非合法となり、高額な罰金や投獄の対象となっている[6]。カナダでは、ホロコースト批判を沈黙させるために二つの大きな裁判が開かれた[7]。またつい最近でも、イギリス首相はその選挙キャンペーンのときに、ホロコーストに関する修正主義的な著作を禁止すると何回も約束している[8]。

 誠実な知的活動を行なっている人々にとっては、このような表現の自由の破壊は許し難いことに違いない。だから、本小論の目的は、ガス処刑が起こったかどうかを論証することではなく、むしろ修正主義者の疑問にはもっともな根拠があるかどうかを調査しながら、ガス処刑説を意識的に検証することである。もしも、伝統的なガス処刑物語には疑問を正当化するような誤りと欠落があることがわかれば、その疑問を認めなくてはならない。他方、伝統的なガス処刑物語には反駁できないような資料的・物的根拠があることがわかれば、このことも指摘しておかなくてはならない。前者の場合には、近代の歴史学の発展に修正主義が貢献するという結果となり、後者の場合には、修正主義的な考え方の意義が無くなっていき、その影響力がなくなっていくという結果となるだけである。しかし、いずれであっても、修正主義者が取るに足らないものとして無視されながら、一方では、罰金や懲役を科せられているような現在の状況を許しておくべきではない。

  本小論が採用する方法は、テーマの本質的な問題、とりわけ、テキストと資料批判に関する問題によって決定されている。たとえ、温情心を持っていたとしても、少しでも歴史学的な訓練を受けてきた人であれば、伝統的なホロコースト研究者が、その証拠について、無批判的で、恣意的で、時代錯誤的な立場をとってきたことに気づかざるを得ないであろう。彼らは、自説を支持している、あるいは支持しているような大量の資料から、かなり手を入れた抜粋をたんに選んでいるだけなのである[9]。証言や供述を選別したり、検証したりするにあたっての理論的根拠はほとんど説明しようとはされなかった。曖昧な点を含む証拠を、幅広い資料的な文脈の中で説明するという試みもほとんどなされなかった。ここでの方法は、年代順にしたがった文芸学的な分析である。オリジナルな資料が誤ったデータを含んでいたり、伝統的な解釈とは食い違っているときにも、この誤りや食い違いがなぜ生じているのか、そのような意味があるのかも、まったく説明されなかった。

　最後に、初期のガス処刑説は、広く流布されて、のちのガス処刑説の骨格に大きな影響を与えたが、伝統的なホロコースト研究者は、ガス処刑説の年代的な進化やその環境に、ほとんど関心を向けてこなかった。このことは、ホロコーストの証拠の大半が証言や供述から拾い集められているので、重大な欠陥である。簡単に言えば、伝統的な歴史学の方法は、誰もがすでに知っていることを支持するデータをたんに選択しているに過ぎないのである。

　修正主義者のアプローチにも、長所と短所がある。その最大の長所は、標準的な文書資料を、厳しく資料批判しようとする姿勢であった。しかし、ここでも、暴露と歴史学的説明とを混同してしまう傾向が存在した。すなわち、あれこれの供述にはいくつかの誤りがあり、したがって、疑わしいものである、だから、法医学的な研究を行なって、ガス処刑説の非論理性を明らかにしなくてはならないと述べるだけでは、不十分なのである。過去10年間、法医学的な分野では、修正主義者は大いに貢献した。フォーリソン、ベルグ、ルドルフ、マットーニョの研究は、証言や供述が検証されなくてはならない物理的基準を明確にしてきた[10]。しかし、大量ガス処刑は不可能であることをかなりの蓋然性を持って示すことは、大量ガス処刑が起こったと誰もが信じた理由を説明することと同じではない。

　だから、ガス処刑説が真実であるのか真実ではないのかという単純な前提からはじめよう。もし、真実であれば、歴史家は、この説がどのようにして知られるようになったのか、戦争中のうつろいやすい話がどの時点で事実の入り口と交差するようになったのかを確定できるであろう。他方、ガス処刑説が虚偽であるとすれば、この説がどのように出現し、進化し、信じられるようになったのかを説明できるであろう。簡単に言えば、年代的な方法が必要なのである。

　概して、ホロコーストに関する研究書の多くが、噂と事実の相違を無視するという傾向を持ってきた。伝統的な歴史学は、すべての噂を事実と、修正主義者はすべての事実を噂とみなしてきた[11]。われわれが将来性のある出発点を持つと思われるのは、まさにこの接合点である。伝統的な歴史家であれ修正主義者であれ、すべての研究者がガス処刑説は、曖昧で、匿名で、信用できない報告、すなわち、噂として始まったという点では一致しているからである。

　事実は経験された現実の反映であるが、噂も、定義することが難しいにせよ、自分自身の現実を表現している。噂の本当の世界は、特定の歴史的時点での人間の文化を特徴づけている、話されることのない推測、連想、投影の世界だからである。このような話されることのない世界は、少なくとも、われわれの考え方、われわれの判断を解明する点では、本当の世界よりももっと現実的である。少なくとも、1960年代初期から、知的な歴史家や文芸批評家は、そのような世界のパラメーターと性質を解明しようとしてきた。

　一例を挙げておこう。1976年、サミュエル・ローゼンバーグという書誌家が、Naked is the Best Disguise: The Death and Resurrection of Sherlock Holmesという本を書いている。彼は、ホームズの話を詳しく分析して、ドイルは自分の作品の中で、進化論、ニーチェ理論、ドイツの秘密結社、好戦的な民族主義、「白人の重荷」といった後期ヴィクトリア朝時代の非常に多くの事柄を表現していると論じている。彼の議論について討論することはできるが、彼の成功は、ドイルの知的関心を整理し、ドイルの物語を文化史的な文脈の中に設定したことにある。それによって、物語の中身を説明できるのである。

　われわれはここで同じ道をたどり、年代的な枠組みで、文芸学的分析を進めようと思う。すなわち、ガス処刑説に懐疑的ではあるけれども、ガス処刑が起こったか起こらなかったかについて論証することを第一の目的としているわけではない。むしろ、ここでやりたいことは、1942年春に始まり1947年のニュルンベルク、アウシュヴィッツ裁判で終わるガス処刑説の登場プロセスをたんに叙述することである。この分析を「文芸学的」とよんでいるのは、その関心をまず、ガス処刑説をかたち作っているテーマ、モチーフ、比喩、あるいは物語の構成要素に向けているからである。別な表現をすると、ガス処刑説を、物語あるいは「テキスト」として考察し、それを整理し、個別に、そして関連性のなかで分析しようとしているのである。

  普通、文芸学的分析にはいくつかの段階がある。第一段階は、テキストを問題のテーマにしたがってたんに分類することである。ここでは、ガス処刑説の物語の諸要素を抜き出し、それらをあとづけていく。第二段階は、テキストの分析であり、テキストを類似のテキストと比較して、影響を与えたか、あるいは影響を受けたかを検証することである。まさにそのために、ガス処刑説の信憑性に関して裁定を下すことを棚上げにしておいて、その説が時代的に前のテキストあるいは後のテキストと結びついているのかどうかを調査する。第三のアプローチは、テキストが社会的な文化とどのように関連しているのか、あるいは表現しているのかを明らかにするために、テキストを幅広い社会的・文化的な観点から検証することである。ここでは、ガス処刑説の登場を歴史と文化の交差する流れの中に置いてみたい。このテーマに関する伝統的な歴史家はこのことを過小評価してきたか、無視してきたからである。ガス処刑説の登場を歴史と文化の交差する流れの中に置くことで、ガス処刑説がその時代に特有のものであったのか、そうではなかったのかが明らかになるであろう。

  ガス処刑説が登場するプロセスでの様々な要素を検討してみると、三つの事実が明らかになるはずである。第一に、大量ガス処刑の物語は、互いによく似ており、いわゆる絶滅が起こった時期の20年あるいはそれ以上前に登場したテキストにさえも似ている。第二に、ヨーロッパの社会文化史という広い観点から見ると、ガス処刑の手順の特徴は、まったく日常的な手順にさかのぼることができる。もっとも、この日常的な手順自体が深刻な社会的文化的な不安を引き起こしていたのであるが。最後に、大量ガス処刑説にはまったく資料的・物的証拠がないことが指摘されるであろう。ガス処刑に関して間接的に関係している資料の中味はまったく犯罪の事実を示唆するものではなく、その大半は、いま問題にしたような不安を呼び起こす手順にさかのぼることができる。このような結論は、大量ガス処刑がなかったことを論証しているわけではない。しかし、修正主義者の疑問に根拠を与えるであろう。

  自分以外のほとんどすべての人が真実と認めているものの存在を、確信をもって否定することができる人はいない。だから、大量ガス処刑を絶対的に否定することはできない。われわれができることは、20世紀初期の社会文化生活の特徴や関心を念頭におきながら、どのようにしてガス処刑説がごく自然に生まれえたのかを説明することである。通常の絶滅説から見ると、ガス処刑説は、19世紀初頭以来の東ヨーロッパのユダヤ人に対する特別な関心の諸要素を構成していることがわかるであろう。また、シャワー・ガス・焼却という連鎖過程をもつ伝統的な絶滅シナリオは、疫病と防疫、毒ガスその他のミステリアスな大量散布武器の使用に対するヨーロッパ人とアメリカ人の深い懸念、さらには死者の処置手段として登場したばかりの焼却（火葬）に対する不安と恐怖にもとづいていることがわかるであろう。

  簡単に言えば、大量ガス絶滅という妄想を広めるには陰謀もごまかし、あるいは意図的な努力も必要ではなく、たんに、戦争、憎悪、社会的無秩序という時代に、このような噂の広がりを促すような社会的文化的な環境だけが必要であったことがわかるであろう。このような噂は少々意図的なごまかし、とりわけ、自分の敵が邪悪であると信じたいという願望を介してあちこちで広まり、その結果、事実とされるようになり、われわれがあまり自覚していない社会的・文化的光景の一部となっていったことがわかるであろう。

  あまり自覚していないと述べたが、そこには理由がある。多くの人々は依然として、大量ガス処刑説やホロコーストのその他の側面に疑問を呈することが、第二次大戦中にユダヤ人が被った膨大な苦難と生命の損失を否定することに等しい、生存者にさらなる苦難を与えてしまうかも知れないような疑問を呈することは「邪悪」でさえもありうる、と思っている[12]。

　第一点について、そうなってしまったのは、最近の歴史学が、大量ガス処刑説はもっぱらユダヤ民族とホロコーストと結びついていたと強調しているためである。1945年には、1000万以上が6つの収容所で絶滅されたと言われていたが、今日では、その同じ収容所でガス処刑されたのは、300万であったという話になっている[13]。ということは、当時は、非ユダヤ人の方がユダヤ人よりも多く毒ガスで絶滅されたと信じられていたのである[14]。さらに、大量ガス処刑が最初に適用されたのは、安楽死キャンペーンの中で、精神病や身体障害の非ユダヤ系ドイツ人に対してであったとされている。だから、大量ガス処刑説への疑問は、ホロコースト全体を包括しているとはいわないまでも、それと交差しているのである。

　第二の点について、われわれは生存者の感情を共有すべきであるという議論は情緒に訴えている。長年、われわれはこのような主張に動揺させられてきたが、最近、このような情緒が迫害と検閲を正当化していることを知った。情緒の価値と個人の自由な理性の価値とのあいだで競い合いが生まれている。しかし、すべての情緒、すべての人間の行為は、自由な人間の理性的な選択からだけ流れ出てくる。だからこそ、われわれは、自分たちの精神を表現する自由な人々の権利に固執することで、もっとも建設的な目標を追求しているのである。

 

第2章　最初の報告

  ホロコースト研究者の多くはガス処刑説の分析を1942年春から始めており、ここでもその慣習に従うこととする[15]。われわれが関心を抱いているのは、一つ一つのガス処刑説が作られていくプロセスを記録することではなく、物語が作られていく過程で特徴的な変化が起こったことを記録することである。1942年、1943年そして1944年の夏頃まで、大量ガス処刑説のすべては根拠のない噂とみなさなくてはならない。だから、物語の進化を手短に概観してから、少し立ち止まって、どうして現実を反映しているとの仮定にあてはまらない噂が登場するにいたったかを説明しなくてはならない。このためには、一般的には真実ではないと考えられている、民族社会主義者の活動に関する少数の噂、すなわち、第二次大戦のなかで独自の生命を持っていた噂の存在を指摘しておかなくてはならないであろう。

ここで指摘しておかなくてはならないのは、1942年春にドイツの民族社会主義政府がヨーロッパのユダヤ人すべてをポーランドに、さらにもっと東に組織的に移送し始めたことである。この移送が残酷なものであり、富と財産の不正な強奪を伴っており、その中で、多くのユダヤ人が死にいたらしめられたことは否定できない。これは民族社会主義者によるユダヤ人迫害の一つであり、これについて、修正主義者にも非修正主義者にも異論はない。

また、戦争中に、数10万のユダヤ人がドイツの労働システム、とりわけ、軍需産業――強制収容所、その他の労働収容所からの労働力に依存していた――に強制的に引き込まれた、これらの収容所での死亡率は防疫措置と食料配給が崩壊した戦争末期にはとりわけ高かった、という議論もある。ここで問題となるのは、ポーランドやその後の東部地区への強制移送の過程で、ドイツの民族社会主義者が、とりわけ毒ガスを使って、意識的なユダヤ人絶滅政策を実行したのかどうかである。

  しだいに広まっていった、ユダヤ人の大量ガス処刑に関する最初の説は、いわゆるブンド（在ポーランド・ユダヤ人労働者同盟）報告にある。それは1942年5月の第三週にロンドンの亡命ポーランド政府にこっそりと持ち込まれたものである[16]。報告は二つのガス処刑の噂を載せている。一つは、一度に90名をガス処刑する特別自動車（ガス室）が使われているというものである[17]。犠牲者はガス処刑される前に自分たちの墓を掘らされたというから、これは、ガス・トラック（犠牲者を埋葬地に運び、その途中で彼らはガスを吸入して死んだと考えられていた）というよりも移動可能なガス室であったのであろう[18]。第二の噂はワルシャワでの活動に関するものであった。ユダヤ人が毒ガス実験を受けたというのである[19]。

 ブンド報告の方も、1942年春にワルシャワから発せられた少なくとも二つの文書から成り立っている。第一の文書は1942年3月16日付のワルシャワのユダヤ人労働者ブンドからの地下通信であり、西ポーランドでのドイツの活動を次のように描いている。

 

「多くの村で、ユダヤ人は毒ガスによって死に追いやられた。彼らはおそらしい方法で、ガス室に改造された密閉のトラックに集められた、50人ぐらいの家族集団で、まったく裸にされたままで・・・」[20]

 

   そして、「毒ガス処刑」はウッジで実行されていると主張している[21]。ブンド報告のもととなった第二の文書は、ワルシャワ・ゲットーでユダヤ人抵抗派と協力派が内部抗争をしていた時期の1942年4月30日付けのDer Vekerの巻頭記事である[22]。この記事はブンド報告の犠牲者数のもととなっているが、興味深いことに、いずれの文書も死者の総数が70万とは述べていない[23]。1942年4月30日付のDer Vekerは詳細を述べることなく、毒ガス処刑の場所をチェルムノと特定しているが、注目すべきことに、3月16日の通信では、入浴（裸体の強制）とガス処刑が結びつけられていることである――もっとも、後述するように、二つの要素が虐殺を暗示するにあたって定番となるのは数ヶ月後のことであったが――。

亡命ポーランド国民会議のメンバーの二人はジギエルボイムとシュヴァルツバルトというユダヤ人であり、彼らは、数100マイル離れたドイツの軍事占領下にある同宗派の人々に何が起こっているのか、当然関心を抱いており、民衆の支持を集めるためにこのような風説を広めることにも関心を持っていた[24]。このために、ブンド報告はメディアを通じて広く普及した。

すでに、1942年6月24日、BBCがブンド報告を放送している[25]。翌日、『デイリー・テレグラフ』は報告に関する大きな記事を載せているが、その見出しは「ドイツによるポーランドでの70万人の殺害」、「移動ガス室」[26]というものであった。翌日、ジギエルボイムはBBC放送でブンド報告の内容を伝えた。これはイェディッシュ語であったから、明らかにポーランドのユダヤ人向けであった[27]。1週間のあいだに、BBCはポーランド国民会議と話をつけ、国民会議は、これ以後の虐殺物語を報道する優先権をBBCに与えた[28]。

1942年7月1日、Polish Fortnightly Reviewがブンド報告の風説にもとづく報告を発表し、ここで、特定の収容所すなわちソビボルとルブリン近郊のマイダネクの名をあげた[29]。さらに、アウシュヴィッツ労働収容所での虐殺をとりあげ、ここでは、約1000名のソ連軍とポーランド軍の捕虜が去年の9月にガス処刑されたと述べている。また、「パラディサルParadisal」という名のもう一つの収容所にも言及している。報告によると、その名前は「ここに、パラダイスに通じる唯一の道がある」ということにちなんでいるという[30]。また、この報告は、パラディサル収容所の焼却棟はアウシュヴィッツの焼却棟の5倍も大きく、毒ガス実験がおこなわれていると論じている[31]。アウシュヴィッツに関するPolish Fortnightly Reviewの記事はブンド報告にはなかったことを強調しておかなくてはならない。おそらく、もっと以前にロンドンに送られた報告によったのであろう[32]。

このような初期の説を眺めてみると、ガス処刑説が当時出されていた多くの絶滅説の中の一つにすぎないことは明らかである。さらに、ガス処刑説が組織的な絶滅手段というよりも、実験的な措置と思われていることも真実である。アウシュヴィッツに関しては、いくつかの驚くほど不正確な点がある。パラディサルはビルケナウのことを指しているに違いないが、ビルケナウに焼却棟が登場するのは翌年の春のことである。パラダイスへの道というパラディサルという単語も、のちにソビボルとトレブリンカの伝承の中に登場する「天国への道（Himmelfahrt）」 のもとになっているが、ビルケナウの歴史にはまったく存在しない[33]。

指摘しておかなくてはならないもう一つの重要なことは、ガス室の初期の物語が数多く登場するにあたって、BBCが、ポーランドに起源をもつ噂を流すのに大きな役割を果たし始めたことである[34]。ラジオ放送はフィードバック効果を持ち、ポーランド起源の噂を繰り返すことによってそれに権威を与え、それがポーランドにふたたび持ち込まれて、ポーランドで様々な話を生み出していった。これらの放送はその場限りのものであるかもしれないが、大量ガス処刑の噂を広め、普及させていった点でのラジオの役割は、十分な考慮に値する。

　1942年7月16日までに、ガス処刑の風説が『ニューズ・レビュー』で繰り返され、ドイツはポーランド系ユダヤ人を殺害する「大規模なガス・ステーション」を用意しているとされた[35]。報告は、ユダヤ人が「非睡眠薬」を投与され、「縛られたまま死んでいった」[36]と述べている。この報告は、今日われわれが理解している説に近いが、薬や犠牲者の縛り付けに言及しているように、ガス処刑は大量絶滅としてではなく、処刑の一つのかたちとされている。言い換えると、報告者はポーランドでのいわゆるガス処刑の手順をアメリカ合衆国での処刑手順になぞらえようとしているようである[37]。

その年の夏、二つの噂がジュネーブにある世界ユダヤ人会議のジュネーブ代表ゲルハルト・リーグナーに伝わった[38]。二つとも、ナチズムに敵意を抱いているドイツの民間人からのものであり、民族社会主義者政府が毒ガスの使用を準備していると述べていた。一つは「ガス・かまどを点火する」という定式に変形し[39]、もう一つは青酸あるいはシアンガス（Blausäur）の使用に特別に言及している[40]。この二つの噂が重要であるのは、第一に、それがドイツ起源であること、第二に、のちにシアンガスが絶滅の過程での基本的な「凶器」とみなされるようになったためである[41]。しかし、権威のあるBBCによるガス説のフィードバック効果を考えると、著名なドイツ人が伝えた噂がその他の噂と同じような効果を持っていなかったことは明らかであろう。この点で指摘しておかなくてはならないのは、同じ頃、ポーランドからの二人の「目撃者」がジュネーブでインタビューを受けたとき、二人とも、ポーランド系ユダヤ人の苦難については多くを述べているにもかかわらず、ガス絶滅についてはひとことも語っていないことである[42]。

BBCは9月末の27日にもう一つの放送を流した。トーマス・マンがドイツ語で放送し、ガス処刑説を繰り返して、16000名のフランス系ユダヤ人が、「密閉」されたトラックでガス処刑され、11000名のポーランド系ユダヤ人も同じような方法で殺されたと述べた[43]。これらの噂は当時のヨーロッパでも耳にされていた[44]。それゆえ、1942年秋に移送されたフランス系とオランダ系のユダヤ人のなかには、強制収容所での自分たちの運命に不安を抱く者も当然にいたことであろう。

大量ガス処刑説が進化するにあたっての次の重要なステップも、ポーランドからの資料、とくにヤン・カルスキの証言である。ポーランド情報部に属していた彼は、ベルゼクでの目撃者であったと主張し、彼の報告はソビボルとトレブリンカにも言及している[45]。ジュネーブのシオニストがこれらの様々な報告を編集し、ロンドンとニューヨークで同時に出版した[46]。これらの資料には、明らかに新しい二つの要素が加わっている。第一は、移送されたユダヤ人を石灰と塩素がまぶされたトラックに積むという記述である。これはのちに、塩素ガスによる絶滅説を生み出していく[47]。第二は、ベルゼクでの絶滅にかんする記述である。犠牲者は、シャワーを浴びるために服を脱ぐように命令され、部屋の中に入れられて、ついで、床の上の金属板によって電気処刑されるというのである[48]。1942年11月26日付の『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されたこれらの記事には、ドイツ人はユダヤ人の死者から「脂肪、石鹸、潤滑油」を作っており、「青酸が非常に高価であることがわかった」ために、ユダヤ人の静脈に泡を注射しているとのステファン・Ｓ・ヴァイゼというラビの話が付け加えられている[49]。

絶滅説のこのような展開はとくに内容豊かのようである。石灰と塩素は疫病対策に使われる標準的な材料であり、これについてはのちに詳しく検討する。ベルゼクでの絶滅の記述は二つの理由から注目に値する。第一に、「シャワー」が絶滅前のごまかしの要素としてはじめて登場している。もっとも、前述したように、二つの結びつきはこの話以前から存在していたけれども[50]。第二に、電気処刑説がもはや突拍子もない話ではなくなったことである（のちにはもっと念入りな話になっていくが）[51]。

最後の要素は石鹸説との関連で興味深い。最近数10年間で、責任ある研究者の全員がこの石鹸説を完全に放棄している[52]。死体利用説は第一次大戦中にドイツに対して流された虚偽の説と関連しているようであり、1942年でも、ある地域では広まっていた[53]。もう一つの点は、ドイツが1942年7月と10月にスロヴァキアとルブリンでこのような噂を鎮めようとしていると指摘する二つの文書があることである[54]。「石鹸製造」の噂は、もともとは、ユダヤ人とともに、ブク川右岸に再定住していたポーランド人のあいだで1941年に生まれたこともわかっている[55]。

  1942年に様々な絶滅説が広まった結果、連合国の指導者は1942年12月17日に声明を発して、ドイツのやり方を非難した。ただし、その手順については言及していなかった[56]。

 　1943年4月、虐殺に関する興味深いメモがロンドンで作成されたが、公表はされなかった。それはアウシュヴィッツ・ビルケナウでの絶滅活動を記述している。この匿名の文書では、銃殺以外に、三つの絶滅のかたちをあげている。

 

（a）ガス室。犠牲者は服を脱がされ、これらの部屋に入れられて窒息する。

（b）電気室。犠牲者は金属の壁をもつ部屋の中に入れられ、高電圧の電流が流される。

（c）いわゆる空気ハンマーシステム。特別な部屋のなかで、天井からハンマーが落ちて来て、特別設備によって犠牲者は空気の圧力によって死亡する[57]。

 

言うまでもないことだが、今日の絶滅説には（b）と（c）は入っていない。しかし、これらの二つの要素は、どのようにホロコースト説が生成・進化していったのかを示す実例である。電気室の記述はカルスキ報告に由来しており、ふたたび登場してくる。空気ハンマーシステムはもっと興味深い。この噂の要点はハンマーの落下という考え方である。ここではじめて登場してくるやり方は、のちにマウトハウゼン（ここでは「弾丸布告」があったとされている）およびザクセンハウゼン（ここでは、カルロス・ポルタルの皮肉な表現を使えば、「ペダルでこぐ頭脳破壊器」があり、84万のロシア軍捕虜を絶滅するために使われたという）での死の原形となる[58]。一方、空気圧力という要素は、1945年にちょっとだけ姿をあらわすトレブリンカのいわゆる「真空室」の原形であろう[59]。

この説には物的証拠、物理的証拠がまったくないので（これから検討するどの説にもこのような証拠がない）、この説のその後の進化を考えると、この噂が最初どのようにして生まれたのか不思議である。誰かが圧搾空気ハンマーを意味していると思われる（Hammerluft）という用語を選択して、それが途方もない憶測を生んだと考えるしかない。他方、戦争中、ドイツは低空飛行中の飛行機の胴体を貫いてしまうような高圧ジェットガスをつかった秘密兵器を開発しようとしていたことは興味深い。ここには、戦争捕虜やユダヤ人強制労働者もきっと関与していたことであろう[60]。この計画の噂がこの特異な絶滅説に変形していったのかもしれない。

1943年4月18日に作成された前述のメモは公表されなかった。当時最大の虐殺物語が、ドイツが暴露したばかりのカチンの森でのポーランド軍将校の虐殺であったからであろう[61]。この物語は単純である。1万以上のポーランド軍将校が1939年にソ連軍の手に落ち、それ以後消息を絶った。スターリングラードで第6軍が降服した直後の1943年2月、スモレンスクの近郊に駐屯していたドイツ軍は、ポーランド軍将校の大量埋葬地を発見した。ドイツは2ヶ月かけて、4400名の死体を発掘・分析した。独立ポーランド委員会も含む何人かの非ドイツ系の法医学の専門家も調査と検死に招かれた。その結果は300頁の報告書にまとめられ、将校たちは1940年春に組織的に虐殺されたと結論した。言い換えれば、それはソ連が実行した虐殺であったというのである[62]。

カチン事件はいくつかの理由で興味深い。第一に、最初、イギリスとアメリカは、同盟国が犯罪を犯した反駁できない証拠を突きつけられても、これがドイツの犯罪であるという立場をとった[63]。第二に、ドイツによる発掘と検死のやり方は徹底的かつ入念であった。ポーランド人も含む国際的な専門家が、あまり干渉を受けないで、自分の調査を進めることを許された[64]。第三に、ドイツの法医学的報告は、第二次大戦中に起こった虐殺の分析のなかでもっとも詳細なものであろう。他方、ドイツの虐殺に関する多くの風説に関しては、これに匹敵するような調査はまったくなされていない。

1943年5月、6月はガス処刑の噂が広く流れていた時期である。そして1943年7月、ソ連はおそらくカチンの告発に対処するために、クラスノダルで裁判を開き、「ガス・トラック」あるいはロシア人が呼ぶところの「ドゥシェグプキ」、「殺人トラック」を使ったガス処刑の件を自白したドイツ軍捕虜を登場させた[65]。しかし、いかなる「ガス・トラック」も発見されていないことをここで言っておかなくてはならない[66]。1943年8月、「ポーランド労働者は戦う！」という題の定期刊行物が、またもやトレブリンカでの絶滅説を繰り返し、人々を封じ込めて、蒸気を充満させて、殺害する部屋について言及している[67]。蒸気の使用という新しい点――これはのちに放棄される――は別として、ここでもまた、絶滅の過程で「シャワー」というモチーフが使われている。

1943年11月末、ソ連はキーエフを解放すると、数10万人がキーエフ郊外の渓谷バービー・ヤールで射殺されたと主張した[68]。法医学的な証拠がないのは、ドイツ軍が撤退の数週間前にすべての死骸を掘り起こし、それらをすべて跡形なく焼却したからであると説明された。ここでの問題は、射殺説自体のリアリティーではない。共産主義者とその同調者の殺害を命じる人民委員命令、ならびに反パルチザン戦闘を念頭に置くと、ドイツとその東ヨーロッパの協力国がユダヤ人も含む多くの人々を虐殺したことを立証する多くの証拠があるからである[69]。ソ連の主張で興味深い点は、すべての死体が完全に焼却されたという点である。これこそが、第二次大戦中のドイツによる虐殺説のすべてにつきまとった特徴である。

　1943年12月、ソ連は今度はハリコフで東ウクライナの虐殺裁判を開いた。そこは、戦時中には、ドイツとソ連が占領を繰り返した土地であった。再度、クラスノダル裁判でのガス・トラック証言が繰り返されたが、1943年12月16日、SS将校ハイニシュが興味深い証言をしている。

 

検事：ゾーマンとの会話について話してください。

ハイニシュ：ゾーマンは、毒ガスによる死が苦痛もなく、人間的であると話しました。ガス・トラックでは、死は非常に急速だが、実際には、12秒以内ではなく、もっと遅いこともあり、その場合には、苦痛を伴うと話しました。ゾーマンは、囚人のガス処刑が実施されているドイツのアウシュヴィッツ収容所のことを話してくれました。人々に対しては、どこかに移送されると話され、外国人労働者に対しては、本国に送還されると話され、浴室に入るとの口実でそこに送られた。処刑される人々は最初、「殺菌駆除」との標識のついた場所に入り、そこで服を脱いだ。男性は女性と子供から分けられた。そして、「浴室」との標識のついた場所に進むように命令された。人々が自分の身体を洗っているときに、特別なバルブが開かれ、ガスを送り込んで、彼らを殺した。死者は200体を一度に焼却できる特別な炉で焼かれた。[70]

　

　ハイニシュは、ゾーマンがアウシュヴィッツある地域を管轄するブレスラウ地区の保安部長であり、ガス処刑が行なわれたのはドイツ領内の収容所だけであると述べ、「毒ガスを使った」処刑の実行決定は、ヒトラー、ヒムラー、カルテンブルンナーが出席した1942年夏の会議においてであったことを暴露した[71]。

　ハイニシュ証言はいくつかの点で注目すべきである。第一に、1943年12月の時点で、ソ連の裁判で、アウシュヴィッツのガス処刑説が存在しており、それは、誤りを含んではいるが、明晰なものであり、のちの標準的な物語、後に配布された出版物のなかに登場する物語とよく似ていることである。また、注目すべきは、ハイニシュが、犠牲者の民族を特定せず、ただ、外国人労働者とその家族ととだけ語っていることである。当時、大量のウクライナ人労働者が徴用されて、ドイツ帝国に向かい、共同シャワーという侮辱にさらされていたのである[72]。

　ハイニシュによるガス処刑の記述には誤りがあるので、この話を分析するには、5月のアウシュヴィッツに関する未発表の物語や当時広まっていた噂との結びつきがあったと考えられる。だが、重要なことは、この話には、それまでにはなかった入浴と殺菌駆除という要素が含まれていることである。さらに、占領下ロシアのメリトポリ地区委員のハイニシュとブレスラウのSS長官ゾーマンが、戦後の裁判では極秘に実行されたとなっている措置をどのように知ることができたのか、それを考察することも重要である[73]。

  1944年初頭の2月に、ベルゼクでの電気処刑説が再度登場する[74]。最後に、5月の初頭、『ニューヨーク・タイムズ』は、ドイツが実際にはガス室である「特別浴室」の建設を計画しており、ハンガリー系ユダヤ人がそこで絶滅されることになっているという話を繰り返した[75]。ここにいたって、ガス処刑説はもっとも典型的な姿を現した。

ガス処刑その他の絶滅説を手短に検証してみたが、ここで強調しておかなくてはならないのは、正式に証拠と呼ぶことができるようなものはひとかけらも存在しないことである。それにもかかわらず、絶滅手順のモデル――ここではシャワー・ガス・焼却という連鎖過程と呼ぶこととする――が登場している。犠牲者はある種の入浴施設に連行され、ついで処刑され（時が経つに連れて、ガスに焦点が当てられてくる）、ついで痕跡が残らないように焼却されるという考え方は、1944年夏までにはすでに一般的となっていた。

  しかし、公平に言えば、シャワー・ガス・焼却という概念は、蒸気、真空、空気ハンマー、電気処刑――すでに長年主張されてきていない――を含むその他の絶滅方法と依然として共存していたことも念頭においておくべきである。だから、ガス処刑という風説を支持する物的・資料的証拠が誇張されることは、その他の方法の否認とみなすべきである。のちの章で、どの程度これが正しいのか検証するであろう。

  これらのガス処刑説を検証すると、ほぼすべてがポーランドの匿名資料から出て来ており、スイス、ロンドン、アメリカのユダヤ人機関によって公表・宣伝されていることがわかる[76]。このことから多くの修正主義者が引き出した結論は、これらのガス処刑説はユダヤ人グループによってごまかしの一部として作り出されたというのである[77]。しかし、この解釈には問題がある。これらのユダヤ人機関が、これらの説を公表するにあたって、虚偽であることを知っていたとか、悪意をもってこれらを公表したと考えるのは飛躍であろう。実際にはその逆であり、内部証拠――手紙、日記、偶然の会話――によると、西側のユダヤ人は自分たちが繰り返して述べていることを信じていた[78]。これらの物語が政治的な目的、とくにシオニストの目的に利用されたかどうかという点は、ユダヤ人の指導者がこの当時、執筆したり、しゃべったりするにあたって誠実であったかどうかということとは関係がない。簡単に言えば、彼らは実際に何が進行しているか知る立場にはなかった。彼らが知っていたこと、あるいは知っていると思っていたことは、自分たちと宗教を同じくする人々が迫害というおそらしい試練を被っており、助けを求めているということであった。

  さて、ここから、様々な物語の要素が実在したことの分析に移らなくてはならない。言い換えれば、これらの噂が現実の反映ではないとしたら、どこから出てきたのであろうかということである。ガスの使用が、シャワー・ガスというシナリオに行きつくまえに、三つの事例と関連していたことは明らかである。一つはガスを処刑の手段――ここでは犠牲者は落ち着いていなかった――として使うと考えであり、もう一つはガスを実験で使う――これは青酸ガスを使用したという告発と結びついている――ということであり、最後に、「ガス・オーブンを点火する」というような類である[79]。

「ガス・オーブン」というモチーフは、ほとんどがガスを使用していた焼却炉を、曲解してガス処刑説に結び付けたものに違いない。ほとんどの家庭にはガス・オーブンがあった。このために、このような無邪気な連想によって、ガス室と焼却炉の絶対的な結びつきが生まれた。すなわち、焼却炉があるところでは、ガス室もあるというのである。

  すでに議論されているように、「鎮静剤の欠如」というモチーフは、毒ガスがアメリカで処刑に使われているということの延長であろう。電気処刑というモチーフは、これがアメリカで広く処刑に使われていたので、以前の連想にしたがったものであろう[80]。

アメリカの処刑で使われていた毒ガスもシアンであったので、このことはシアンガスが使われているという噂を説明しうる。しかし、シアンガスが公式のドイツの文書やこの時期の議論に登場していたはずであり、これが誤解を生み出し、とくに、その実験が噂の根拠になったという考え方もできる。

   ロシア侵攻直後、ドイツ国防軍は、赤軍が低空飛行機からシアン・ガスをドイツ軍部隊に散布する計画を持っていることを示す資料を入手した。このために、1942年1月、ドイツ軍はこのガスを使って家畜実験を行ない、致命的な結果が生じることを発見した。そして、シアンガスから身を守るFE42ガスマスク・フィルターが開発された。しかし、ドイツ軍は機密保持のために、これらの作業を秘密にした[81]。したがって、1942年初頭に、青酸ガスを使った秘密実験が行なわれ、これを防ぐ器具が作られたことになるが、この事件はドイツが人間に対してガス実験をしているという噂が登場する以前か、ほぼ同時期である。しかし、青酸ガスとの結びつきが登場してくるのは、この物質が東ヨーロッパの諸共同体を害虫駆除する作業で使われるようになったこととの関連である。だから、回り道ではあるけれども、ドイツの害虫駆除手順を検討しておかなくてはならない。

 

第3章 ドイツの害虫駆除手順

  歴史上、疫病は戦争や移住と手をたずさえて移動し、一個軍団以上を屈服させてきた。東ヨーロッパはこうした疫病のためにとくに恐れられた地域であった。クリミア戦争での連合軍、1812年のナポレオン軍は、とりわけチフスとコレラ、さらには腸チフスと赤痢といった疫病で多くの兵士を失った[82]。長らく、これらの疫病の原因は知られておらず、やっと19世紀末に、コレラ、腸チフス、赤痢は、汚染された水にひそむ細菌によって媒介されることがわかるようになった[83]。チフスを媒介するのがシラミであることがわかったのは第一次大戦直前であった[84]。

  汚染や劣悪な衛生環境が疫病を媒介するということは理解されていたので、正確な知識がなくても、ヨーロッパ人は防疫を試みていた[85]。

  19世紀末ごろ、ドイツは人間とその衣服を害虫駆除するために多くの措置を開発した。ここには、シャワー、殺虫のために石油その他を身体に塗ること、その所持品に蒸気をかけたり、煮沸したりすることが入っていた[86]。これらの措置は1880年代にテストされるようになった。

  チフスは東ヨーロッパ土着の疫病であり、コレラは19世紀に何回となくこの地域で荒れ狂った[87]。地元の住民は、とくにチフスにいつもさらされていたので、免疫を持っていた[88]。この地域に移植してきた者は、これらの疫病に簡単に感染した[89]。この地域を出た者はそれを運んでいったことであろう[90]。ロシア帝国西部とオーストリア・ハンガリー東部の住民、ユダヤ人やその他の非ユダヤ教徒は、ひとしく貧乏で、飢えており、当時の西ヨーロッパの衛生水準からすると、不潔であった[91]。この地域の住民の大半は、ひとたび凶作があれば、死に瀕してしまうといっても過言ではない[92]。

1881年に皇帝アレクサンドル二世が暗殺されると、この地域では反ユダヤ暴動が頻発した[93]。ユダヤ人はその他の非ユダヤ教徒同様に貧しく、空腹で、不潔で、禁欲的であった。その上、政府が自分たちの伝統的な生活様式に干渉してきていたので、彼らの忍耐は限度を越えようとしていた。その結果、多くのユダヤ人が移住を選択し、彼らは多くの場合にドイツを通過した[94]。ドイツで、彼らは標準的な害虫駆除措置を受けたが、これについては、メアリー・アンチンがその回想録のなかで次のように記している[95]。

 

「無人の広い野原の大きな庭のなかにある一軒家の反対側に、私たちの列車はついに止まりました。車掌が急いで降りるようにと乗客に命令しました。・・・（車掌は）私たちを家の中の大きな部屋のなかに急がせ、ついで庭へと急がせました。ここで、白い服を着た非常に多くの男性と女性が私たちを待ち受け、女性の方は女性と少女の乗客を、男性の方は男性の乗客を待っていました。

  うろたえ混乱するような光景でした。親たちは自分の子供たちと離れ、幼い子は泣いており、荷物はまとめて庭の片隅に無頓着に投げ集められました（このために、多くの損害が出ました）。白衣のドイツ人は命令を叫びながら、いつも『急いで、急いで』と言っていました。狼狽した乗客は意気地なしの子供のようにすべての命令に従い、ただ、何が起こるのかとときどき尋ねるだけでした。

  泥棒や殺人者のたぐいに捕まってしまったのではないかと考えたとしても不思議ではありません。一軒家だけがある寂しい場所に連れてこられたのですから。所持品は持ち去られ、友人は離されてしまったのですから。一人の男がやってきて、品定めをするかのように私たちを検査しました。奇妙な風采の人々が、無力で無抵抗な、口の聞けない動物のような私たちを追い立てました。ここからでは姿を見ることができない子供たちは、何かおそらしいことが起こっているかのように泣いていました。私たちは小さな部屋に追い立てられ、そこでは大きなやかんが小さなストーブの上で沸騰していました。衣服は脱がされ、身体が、滑りやすい物でこすられました。突然、警告なしに、温水のシャワーが私たちにふりかかりました。その後、別の小さな部屋に追い立てられ、そこで、ウールの毛布にくるまって座っていました。すると、大きな粗雑なバッグが持ち込まれ、そこから中味が出てきました。見ることができたのは蒸気の雲だけであり、聞くことができたのは『急いで、急いで』服を着るようにとの女性の声だけでした。それ以外は何も見ることも、聞くこともできませんでした。

  蒸気で何も見えないなかで、私たちは他人のもののなかから自分の衣服を探さなくてはなりませんでした。息が詰まり、咳こんでいたので、時間をくれるようにその女性に頼みました。『急いで、急いで、乗り遅れてしまいますよ！』ああ、私たちは殺されるのではないのだ。彼らは、危険な病気にかかることを防いでくれて、旅が続けられるようにしているだけなのだ。感謝します、神よ！」

 

  メアリー・アンチンは害虫駆除と検疫に当惑しているが、何のオリエンテーションもうけておらず、はじめてのことでもあったのだから、彼女の態度は理解できる。そして、そのような無理解からくる的外れな噂も十分に理解できる。しかし、このような措置は必要であったのである。メアリー・アンチンが1893年に旅をする前年、コレラがハンブルクを襲い、チフスとコレラがニューヨークを襲っていたからである[96]。

  ニューヨークでの大流行では、その後数十年間にわたって繰り返される多くの事例を見ることができる。移民たち、とくにユダヤ人は害虫駆除と検疫を恐れており、自分たちの愛する人々が屠殺場に連れていかれると信じていたこともあった[97]。彼らは衛生管理当局に不信感を持っており、結果として疫病をさらに広めてしまうことも知らずに、チフスにかかっていることを隠そうとした[98]。さらに、検疫にも問題があった。規則によると、チフスによる死者は焼却されることになっていたが、これはユダヤ法違反であった[99]。検疫ステーションはユダヤ教の掟に従った食物を準備しておらず、結果として、敬虔なユダヤ教徒が餓死することもあった[100]。ニューヨークの衛生管理当局とユダヤ人移民とのあいだの無理解はカルチャー・ショックと特徴づけることができるが、彼らをわかつ無理解と非順応の亀裂は非常に深かったのである。

  同じようなパターンは第一次大戦中にも登場する。しかもそれはユダヤ人のあいだだけではなかった。ドイツはトルコ軍を再編成するにあたって、チフスその他の病気の防疫のためにかなりの力を注いだ[101]。このための二つの主な道具が「可動蒸気害虫駆除トラック」（Dampfdesinfektionwagens）と、害虫駆除目的に改造されたトルコ風呂であった[102]。ドイツ軍がおもに使ったのは硫黄ガスであり、そこでは、硫黄を燃やしてガスを発生させる発生器（Vergaser）が必要であった[103]。すでに1914年、ドイツは燻蒸（bagasen ）の同義語として「ガス化、ガス」（vergasen）を使っていた[104]。

  地元住民の反応は様々であった。トルコ人は、アラーが禁止しているとの理由で、シラミを殺す理由を理解していなかったし、ギリシア正教徒とユダヤ人は宗教上の理由から、処置の一部である入浴と髭剃りに反対した[105]。

  1914－15年冬のセルビアでのチフスの大流行は国際的な救援活動を呼び起こし、そのなかには、初期の段階で防疫に努めたアメリカ救援隊も入っていた[106]。1915－16年、ブルガリアが同盟国側に立って参戦し、かなりのセルビア領を与えられると、防疫部隊が精力的に活動しなくてはならなくなった[107]。この関連で、1916年3月の『ロンドン・デイリー・テレグラフ』に、70万のセルビア人が窒息死させられたという記事が登場した [108]。ロベール・フォーリソンがうまく説明しているように、この噂あるいは虐殺説はこの地域での害虫駆除措置の適用に直接結びついていた[109]。前述したように、1942年に大量ガス処刑説がはじめて登場したとき、『デイリー・テレグラフ』は70万の犠牲者と述べていたが、それは偶然の一致ではありえない。この話は、可動蒸気害虫駆除トラックが、無知で恐怖を感じていた人々の心のなかで、簡単に移動ガス室へと変わっていったことを思い起こさせる[110]。

  防疫を担当したのがドイツであるか、アメリカであるか、イギリスであるかに関係なく、同じような反応がポーランドでも起こった [111]。ドイツは、ポーランド各地で、とくにチフスに対する防疫措置を広範囲にこうじた[112]。ここでは飴と鞭の政策が取られた。すなわち、ドイツはイェディッシュ語で書かれた丁寧な小冊子を使って、衛生管理の重要性、シラミの駆除の重要性を、トラーに言及しながら説明した[113]。他方、ドイツは銃剣を使って地元住民を強制的に入浴させたり、シャワーをあびさせた[114]。戦後、チフスがポーランドと西ロシア地方で大流行した[115]。アメリカとイギリスの専門家が防疫のためにポーランドに赴いた。彼らも住民を害虫駆除しようとした[116]。しかし、彼らも、とくにユダヤ系住民からの抵抗と不服従に遭遇した[117]。アメリカのやり方の特徴――のちに典型的となる――は、殺虫のためにビンづめのシアンガスを使うことであった[118]。

  1920年代、ドイツは、シアンガスを使うにあたって、ビンやいわゆるボンベよりも安全な媒体を開発した[119]。それはチクロンBと呼ばれ、粘土状の丸薬であった。ガスは圧力を加えられて液体として吸収されており、その後、缶に密封されたものである[120]。缶が開けられると、丸薬が撒き散らされ、ガスがゆっくりと放出される[121]。第二次大戦の頃までには、チクロンBは石膏を添加されることによって安定するようになり、室温でガスを完全に放出するには3時間ほどかかった[122]。これは殺虫剤としては理想的であった。

  この頃、ドイツは「害虫駆除室（Entwesungskammern）」も開発している[123]。煉瓦やコンクリートも使われたが、普通は鉄製であった[124]。約10平方メートルで、衣服が入れられると、チクロンの丸薬がそのなかにまかれる。この部屋あるいは装置には普通二つのドアがついていた。汚れた衣服が一つのドアから入れられ、害虫駆除された衣服が別のドアから出された[125]。ドイツはまた、シアンの放出温度かその近くの温度の空気を強制的に丸薬に吹きかけて、放出時間をスピードアップする複雑な装置も開発した[126]。このような空気循環技術（Kreislauf） は大規模な鉄道トンネルでも使われ、空気循環ガス発生装置（Kreislaufvergasungsapparaturen）によって、一度にすべての客車を燻蒸することができた[127]。

　チクロンBは害虫駆除に広く使われていたが、30年代と戦時中を通じて、その他の多くのガスや物質が害虫駆除に使われたことも指摘しておかなくてはならない[128]。チクロンに代わって広く使われたガスは、「Tガス」と呼ばれる酸化エチレンと二酸化炭素の混合物で、それは、鉄製のボンベに入れられて、パイプを介して、害虫駆除室に送り込まれた[129]。その他のガスには、Tritox、Ventox、Areginalがあった[130]。

  害虫駆除・殺菌駆除装置は、ドイツの都市防疫センター、ドイツ労働管理局の臨時施設、戦争捕虜や移送住民の通過収容所（Durchgangslagern）にも大規模施設として存在した。これらの三つの施設は汚染部門と清潔区画（reine und unreine Seite） に分かれており、脱衣室、シャワー室、二つのドアを持った標準サイズの燻蒸室をそなえていた[131]。それにはいくつかのバリエーションがあった。例えば、ダルムシュタットの都市防疫センターは、ポーランド人、ソ連軍捕虜、ユダヤ人といった東部地区からの労働者の流入にそなえて、第二次大戦中に拡張された[132]。その地下室は防空シェルターとしても使われるようにされた[133]。ドイツ労働管理局の標準的な施設はディーゼル・エンジン室を備えていた。ディーゼルは、これらの施設に動力源がなくなったときに、電力を供給することになっており、短時間で稼動したり、停止したりできるように設計されていたからである[134]。

第二次大戦中、ドイツはこれらの手段すべてを使って精力的に防疫対策をこうじた。ユダヤ人がゲットーに収容されると、疫病が発生し、ドイツは地元のユダヤ人当局に防疫措置をとらせようとした[135]。痛ましいことではあるが、多くのゲットーでは、人々は隠れたり、指示に従わなかったり、抵抗したりした。一方では、ヴィルナ（ヴィリニウス）のゲットーが戦争を通じて防疫に成功したという記録もある[136]。

  この分野でのドイツ国防軍の経験も、防疫に成功した事例をあげている。そこでは、浄化自動車や可動シャワー室が使われており、その多くはドイツ衛生医療部隊（Sanitatsdienst）のメンバーが改良したものであった[137]。

  もちろん、このような措置が適用されたなかで、もっとも悪名の高いものは強制収容所での措置であった。収容者は到着するとすぐに、普通は裸にされ、貴重品を検査され、ついでシャワーを浴び、消毒ずみの衣服を与えられた[138]。実際、「浴室・害虫駆除施設」で衣服を害虫駆除し、別の区画でシャワーを浴びるという手順は酷似していた。クルト・フォンネグートは、ドイツの収容所に入ったアメリカ軍捕虜でさえも、その奇妙な儀式に不安となり、恐れを抱いたことを次のように描写している。

 

「裸のアメリカ人は、白いタイルの壁に沿った数多くのシャワー・ヘッドの下に立った。自分たちがコントロールできる蛇口はなかった。何が起ころうとも、待っているほかなかった。ペニスは縮み上がり、睾丸は中に引っ込んでしまった。生殖行為は、夕方の主な仕事ではなかった。

　見えざる手がマスターバルブを開いた。シャワー・ヘッドからは、沸騰した熱水が雨のようにほとばしり出た。その雨は、暖めることのないトーチ・ランプのようなものであった。それは、騒々しい音を立てながら、ビリーの身体に降り注いだが、骨の髄まで冷え切っていた彼の身体を温めることはなかった。アメリカ人の衣服はその間、毒ガスに通されていた。シラミ、バクテリア、蚤が数10億単位で殺されていた。」[139]

 

　説明はまったくなされず、恐怖が支配するという状況は、50年前のメアリー・アンチンの時代からまったく変わっていなかったに違いない。まして、屈辱についてはいうまでもない。このようなことを確証する目撃証言もある[140]。

  ドイツの防疫措置は以上のようなものであり、これに対するユダヤ人の反応は、不服従・逃避からパラノイア的な恐怖にまでまたがっていた。こうした状況が、1942年から1944年夏のほぼすべてのガス処刑説に酷似しており、かなりの接点を持っていることがわかるであろう。

   例えば、ソビボルはドイツの文書では通過収容所（Durchgangslager）とされている[141]。しかし、通過収容所には、到着者にシャワーを浴びせ、所有物を消毒してから、さらなる旅に送り出す施設が必要であった[142]。そこで起こったことはそのようなことであるとする生存者の証言もある[143]。しかし同時に、ソビボルでは到着者はシャワー・ガス・焼却という連鎖過程によってたんに絶滅されているという噂が西側で流れており、またそのように述べる証言もある[144]。マルキニア防疫施設はわずか数キロメートル離れたところにあったのだから、同じ状況がトレブリンカに関する証言にもあてはまる[145]。

  マイダネクに関しては、この状況はもっと顕著であった。すぐ後に述べるように、浴室・害虫駆除施設Ⅱはソ連によって絶滅センターとされた。しかし、その建設様式を見ると、入所者を消毒し、所有物を殺菌駆除する労働管理局の標準的な施設とまったく同一である[146]。

  1942年から1944年春までのガス処刑説を検証すると、それらは青酸、シャワーと浴室、可動ガス室に言及しているので、われわれはドイツの防疫措置を検討してみた。すると、ドイツは第二次大戦の60年以上も前に、防疫のために、可動害虫駆除室、浴室・害虫駆除室、燻蒸室――シアンガスを内包するチクロンBを一般的な殺虫剤として使用していた――を使うという措置を工夫していたことがわかった。

  さらに、このような防疫措置に対しては、無理解あるいは伝統的な宗教的共同体の出身者のあいだで、またユダヤ人のあいだで、とりわけ、伝統的で孤立していた東ヨーロッパの出身者のあいだで、特徴的な反応があったこともわかった[147]。この反応には、逃避や不服従から、心配、恐怖、噂までがあった。最後に、当時行なわれていた害虫駆除措置が、当時流れていた大量ガス処刑の噂と非常に似ていることもわかった。

  それゆえ、われわれの分析は、大量ガス絶滅という伝説の進化をつぎのように説明する。害虫駆除措置が東ヨーロッパの住民、とりわけ東部に再定住したか、強制労働に引き入れられたユダヤ人に適用された。彼らは過去に虐殺を経験したことがあったので、絶滅と虐殺の噂を思い起こした。これらの噂が今度は、西ヨーロッパやアメリカのユダヤ人団体に伝わり、彼らはその噂をすぐに信じ込んだ。そして、この噂は、イェディッシュ語を含むイギリスのラジオ宣伝によって、ふたたびヨーロッパに戻り、広く信じられたわけではないとしても、1942年末までにヨーロッパの各地に広まるようになった。今度は、大量ガス処刑説の次の進化段階を検討してみよう。

第4章  アウシュヴィッツとマイダネクからの最初の報告

　1944年夏、大量ガス処刑の伝説は、ソ連政府が発表した一連の報告書、および合衆国政府のある機関が公表した報告によって、はっきりとした姿をあらわした。この段階で、ガス処刑説は権威のあるものとなり、その年の末までに、ドイツは明確にそれを否定しようとほどであった。公式報告書の発表を過大評価すべきではない。この噂はラジオやとりわけ出版物のような公式のメディアで何回も繰り返されており、かなりの信憑性を与えられてきたからである。だが、後述するように、これらの説には物的な証拠がそえられていなかった。

  重要な最初の資料は、7月初頭にスロヴァキアのユダヤ人サークルから届いたと思われる連絡である。以後、7月報告と呼んでおこう。この報告が注目に値するのは、はじめてアウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所に関する風説を完全に掲載しているからである。ギルバートはこの資料を掲載している[148]。ガス処刑説を考えると、この報告には、今日の定説と矛盾していないという意味で、正確と思われるデータが含まれている。すなわち、テシュ・シュタベノフ社が提供しているチクロンBが歪曲されたかたちで言及されており、入浴施設、ガスが投入される天井の穴についてが言及されているのである[149]。しかし、報告には、明らかに虚偽と思われる要素がある。例えば、穴の数（3）、処刑に必要な時間（1分）、焼却炉――その数も不正確に適切に描かれている――に向かうレールなどである[150]。

  別々の観察者が、目撃したことにショックを受けて、処刑時間、犠牲者の数を誤って見積もったこともありうると思われるが、観察者が計算・理解能力をいつも失っていたということはまったく別の問題である。それゆえ、ガス処刑の時間や犠牲者の数の相違をたいした問題ではないとする一方で、物理的な細部の誤りははるかに重要な問題であり、これらの事件を記述した人は、ガス室や焼却棟の近くに行ったことはないとも考えられる。報告を書いた人は噂を繰り返しているとも考えなくてはならないし、目撃者がそれを信じていたとしても、噂の存在は噂の内容を事実とする証拠ではないのである。したがって、7月報告が唯一明らかにしていることは、ガス処刑の噂が当時のアウシュヴィッツで広まっていたということだけである。

7月報告では、古い要素と新しい要素がまじり合っている。その連絡報告は、毒ガス源としてはじめてチクロンBを特定している。一方、前述したように、シアンが使われているとの噂は1942年夏に広まっており、のちには、宣伝のなかから姿を消した。シャワーのモチーフは、1942年末から共通の要素でありつづけている。シャワー・ノズルの穴から毒ガスが放出されるという連想はすぐに出てきたのであろう。前年に、トレブリンカでの蒸気による絶滅の噂があったからである。ガスが収容者の上に投下されるという考えは、ガスを投入するには頭上に穴が必要であるという考えを生み出していった。チクロンはシャワーヘッドを介しては投下することができず、もっと大きな穴が必要であるからである。

  収容者に石灰と塩素をふりかけたという事例がある。移送にあたっては普通のことであったが、これは別のモチーフを生み出してきた。すでにカルスキの報告は石灰によるガス処刑について記述しているからである[151]。この報告では、入浴者が部屋に連れてこられ、適切な室温になるまで、そこに数分間立たされ、ついで、パウダー状のガスがふりかけられたということになっている。もちろん、チクロンBはこのようなやり方では作用しないので、この記述は虚偽である[152]。

  ガス処刑伝説の進化において、次の事件は決定的である。ドイツの強制収容所がはじめて連合国に公開されたからである。ソ連の大攻勢が実行され、ドイツ中央軍集団を崩壊させたため、1944年7月末、マイダネクが解放された[153]。ソ連軍は1ヶ月間、そこを訪問することを許さず、8月末に西側のジャーナリストに短期間公開した[154]。その結果、『ニューヨーク・タイムズ』と『クリスチャン・サイエンス・モニター』がルポルタージュを掲載し、続いて、マイダネクに関するポーランドソ連特別委員会の公式報告が発表された[155]。

  マイダネクでのガス処刑の連鎖過程は、7月のアウシュヴィッツやその他の収容所についての記述とは異なっている。以前の記述では、犠牲者は服を脱がされ、シャワー室か浴室で死を迎えたと強調されていた。しかし、マイダネクでは、シャワーは、建物の最後の部屋で起こったガス処刑の前段階となっている[156]。大きな相違であり、この理由を検証しなくてはならない。

  ロシア人が目にした建物の配置にその理由があるようである。大半のガス処刑は、「浴室・害虫駆除施設Ⅱ」という名の建物でおこなわれたと考えられた。この施設は一連の部屋からなる細長い建物で、脱衣室、シャワー室、乾燥室（Trockenraum――シャワーの後に、収容者を乾燥させる暖房室）そしてはずれに、正方形の部屋（約4ｘ4メートル、それ以上）があり、そのうちの二つには、パイプで部屋に空気を送り込むボイラー装置が外部についていた（三番目の部屋は乾燥室とつながっていた）[157]。このなかのシャワーは実際に作動するので、ガス処刑の場所はここであってはならなかった。だから、煉瓦づくりで、鉄筋コンクリートで補強された、外側に面した小さい方の部屋と乾燥室がガス室となったのである。

  ここには別の特徴もある。乾燥室（部屋Aと呼ばれることもある）には天井にうがたれた木製の開口部があり、同じ部屋には、あきらかに鉄筋のついた木製の出っ張りがいくつかあった[158]。また、この部屋は、三つの二重方向取っ手のついた木製ドアを備えていた[159]。はずれにある小さい方の部屋には、やはり、二重方向取っ手を持つ、重い鉄製のドア、のぞき穴のついた気密ドアがあった[160]。さらに、部屋のうち二つには、床から約30cmの高さに、壁に沿って、外部パイプが走っており、部屋の外にある5つの鉄製ボンベとつながっているようであった[161]。一見すると、ガス気密ドアや天井の穴は、浴室・害虫駆除施設としては余分で特異なもののように見えるが、必ずしも、ガス処刑説の証拠となっているわけではない。

  世界中のマス・メディアに発表されたソ連のシナリオはこうである。人々は服を脱いで、それを一つの部屋に置くように命じられ、ついで、別の部屋に入ってシャワーを浴びる[162]。シャワーのあとで、「ガス室」の一つに誘導され、そこでチクロンBが、待機時間ののちに投げおとされる。一方、三つのボイラー室は、一酸化炭素ガス――パイプを介して部屋に放出される――を発生させるか、部屋を暖めるための暖気を送り込む。あるいは、ボンベにある一酸化炭素ガスがパイプを介して送り込まれる[163]。この間、ドイツ人はのぞき穴から、犠牲者が死んでいくのを観察していた[164]、というのである。

  このシナリオにはいくつかの問題点がある。ガス室とされている四つの部屋のうち、チクロンBを投入するための開口部が天井にあるのは一つだけ（部屋A）で、その他の部屋のうち二つにはコンクリートで補強されたところに粗雑にあけられた穴がある[165]。部屋の一つの天井にはまったく開口部はない。三つの部屋の外部にはボイラーがついており（「三つのガス室」という話の起源）、第四の部屋にはドア以外の開口部はない[166]。グラーフとマットーニョは、発見された5つのボンベのうち、残っているのは2つだけであり、しかも、一酸化炭素ではなく、二酸化炭素という標識をつけていると指摘している。二酸化炭素は、害虫駆除ガス（Tガス）発生に必要であるが、絶滅能力を持っていない[167]。こうしたことは、ボイラーの存在とともに、この部屋では、ときによって、チクロンB、Tガス、温風といったさまざまな害虫駆除物質が使われてきたことを示している。一方、のぞき穴と二重方向取っ手のついたガス気密ドアは外側からも内側からも開けることができた[168]。最後に、事前のシャワーはチクロンBの放出を容易にするという考えは、単純な誤りである[169]。ここでは、明らかに、事実が無理矢理、理論にあてはめられようとしているのである。

  これまで、ガス処刑物語の諸要素の多くは多かれ少なかれ自然発生的に生まれ、自然発生的に信じられてきたと論じてきた。しかし、マイダネクの事例では、ソ連が意識的にごまかしているというおそるべき証拠に直面する。すなわち、施設のなかの部屋Aは、天井に注意深く作られ、うまく細工された木の開口部を持っているが、部屋B、Cの開口部は、コンクリートで補強された屋根を粗雑にうがって正方形の穴を作ったものであり、しかも余分なはみ出し部分を取り除こうとさえされなかった穴だからである[170]。部屋Aの天井に開口部を作った腕前の職人が、同じく部屋B、Cの天井の穴を作ったとは信じられないし、さらに、部屋B、Cの開口部はガスを密閉することもできないのである。だから、後者の開口部は、毒ガス投入のためにその当時作られた開口部であるといわれているけれども、これはソ連の偽造であると断定しうる。

  マイダネク特別委員会報告の反響は大きく、ホロコーストのシンボルの大半の起源がここにある。すなわち、衣服、靴、毛髪の山といった類である。これらは150万の人間の絶滅に直接関連があるかどうかわからないにもかかわらず、そして、今日ではマイダネクの死者は10万以下というのが定説であるにもかかわらず、絶滅の第一の証拠とされている[171]。しかし、マイダネク報告のなかの最も悪名高い要素は、ドイツ人が犠牲者の死亡を観察したとされるのぞき穴付きの気密ドアである。この件が最初に明確に登場したのは、戦争難民局報告である。

  戦争難民局報告が1944年夏の終わりから秋の初めにかけて、どのくらいの期間、どのようなかたちで広まったのか正確にはわからない[172]。ガス処刑説が執拗に繰り返されたので、10月にドイツがこれを否定したことがわかっている[173]。最後に、1944年11月26日、戦争難民局報告が発表され、世界中のマスコミで報道された[174]。報告の内容は、今問題としているガス処刑室に関する限り、おおむね7月報告の資料を要約したものであるが、のぞき穴に言及している個所がある点で、マイダネクに関する特別委員会の影響を受けていることが確実である。

 

「1943年3月、最初の焼却棟の開所式には、ベルリンからの来賓が出席していた。8000名のクラクフのユダヤ人をガス処刑し、焼却するのが『計画』であった。来賓は、軍人、民間人とも結果に非常に満足し、ガス室のドアにつけられた特別なのぞき穴が、いつも使われた。彼らは、新しく建設されたこの施設を絶賛した」[175]。

 

  戦争難民局報告には、今日のこのテーマに関する学問水準から見ると、多くの誤りがある[176]。にもかかわらず、これは数ヶ月間で、シャワー・ガス・焼却という連鎖過程を宣伝しただけではなく、アウシュヴィッツ・ビルケナウを最大の屠殺場として宣伝したもっとも重要な文書となった。しかし、前述したように、多くの誤りがあり、大量ガス処刑に関する信頼すべき証拠とはなり得ない。実際、マイダネクに関するソ連特別委員会に影響を与えたり、影響を受けたりしている[177]。パニックにおちいっていた環境では、誠実な人は、これらの報告が酷似しているがゆえに、それらが真実のベールに穴をあけていると考えたに違いない。しかし、50年たってみると、そうではなかったようである。

 

第5章  東部地区収容所とゲルシュタイン陳述

  すでに1944年夏、ソ連の宣伝家イリア・エレンブルクは、ラインハルト作戦収容所からの証言を入手しはじめていた。このうちのいくつかは1945年にMerder fun Folkerのなかで発表された[178]。今日これらの証言を眺めてみると、ガス処刑説が繰り返されている一方で、その詳細についてはほとんど提示していないことがわかる[179]。だが、念頭においておくべきであるのは、ラインハルト作戦収容所（ソビボル、トレブリンカ、ベルゼク）は解体されて、ガス室の物理的証拠がまったく存在しないことである[180]。ガス室に関する命令書、通信、資料は当時提示されず、これ以後も、このような文書資料は存在していない[181]。これらの三収容所――200万近くが死んだといわれている――に関するわれわれの知識は、今でも、目撃証言とSSの自白にだけもとづいている[182]。これらの収容所が絶滅収容所であったという唯一の証拠は、いくつかの大量埋葬地の存在である。しかし、これらの大量埋葬地は、通常の見積もりからすると、数万の死体を埋葬できるにすぎない[183]。たしかに、このことは、ある種の殺人と大量処刑の存在を示唆しているかもしれないが、大量絶滅、まして毒ガスによる大量絶滅の存在を示唆してはいない。

  1月末、アウシュヴィッツは解放され、赤軍は、病気のためにドイツに移送できないとみなされていた6000名の囚人を発見した[184]。数百の子供も含む解放された収容者の写真には、老人や衰弱者の姿もあるが、飢餓や疫病に苦しんでいる姿はない[185]。このような収容者が生存していたという事実は、すでに定説となっていた考え方と明らかに矛盾している。のちに、SS隊員は、ヒムラーが前年の11月、正確には、戦争難民局報告が発表された1944年11月26日に、絶滅を中止するように命令したと自白している[186]。言うまでもないことだが、この自白を立証するような資料的証拠は存在していない[187]。

　同時に、ソ連は、民族主義的な宣伝機関紙『プラウダ』に解放されたアウシュヴィッツについて言及している。2月1日にちょっと触れた後に、レポーターのボリス・ポレヴォイの報告が、1945年2月2日の金曜日に掲載された。それは、収容所が解放されて1週間ほどあとで、アウシュヴィッツについての公式のソ連報告が発表されるまる3ヶ月前のことであった。

　ポレヴォイがマイダネク報告に影響されていることは明らかであるが、いくつかの相違もある。

 

「昨年、赤軍がマイダネクの恐るべき、おどろおどろしい秘密を全世界に暴いたとき、アウシュヴィッツのドイツ人は犯罪の痕跡を消し始めた。彼らは、収容所の東側にあったいわゆる『古い埋葬地』の土をならし、電気コンベアベルトを壊し、その痕跡を消した。そこでは、数百の人々が同時に電気処刑され、その死体はゆっくりと動くコンベアベルトの上に投げ捨てられ、溶鉱炉のてっぺんにまで運ばれて、そこに捨てられ、完全に焼却された。残った骨は、粉引きミルに運ばれて粉々となり、周辺の農場に送られたというのである。

　子供を殺すための特別な可動装置もあった。収容所東地区の固定ガス室はうまく作りかえられており、ちょっとした出窓や飾りもつけられていたので、なんでもないガレージのように見えた。」

 

　この話は、大きな驚きである。まず、ソ連特別委員会のアウシュヴィッツ報告とはまったく異なっている。この報告は、1945年11月26日の戦争難民局報告の影響を受けている。アウシュヴィッツについてのソ連の物語は、難民局報告のもととなったさまざまな匿名のレポートと内容を合わせるために、難民局報告にしたがって改訂されていった。一方、ポレヴォイ報告には、他の影響と関連性がある。

　例えば、「死の工場」という概念は、今日のホロコースト文献ではよく知られているが、それがはじめて登場したのはここである。そして、この概念は、工場システムを拒否するロシア、ソ連、西側の象徴主義と結びついている。チェーホフの短編、ゴーリキーの作品、さらにはドイツ表現主義の苦悩を参照していただきたい。一方、「犯罪の痕跡を消し去る」ドイツ人という概念は、すでに指摘してきたように、1943年のカチンの森の発掘にさかのぼる。

　言うまでもないことであるが、「電気コンベアベルト」はその後のアウシュヴィッツの物語にはまったく登場せず、この要素は、ベルゼクその他の巨大電気室に関する報告に結びついているであろう。「子供を殺すための特別な可動装置」はガス・トラックのことを指しているのであろう。クラスノダル・ハリコフ裁判がはじめて、その目的のために特別に使われたと証明しているからである。「固定ガス室」とは、ビルケナウの害虫駆除室BW5aと5bか、あるいは焼却棟ⅣとⅤのことを指しているのであろう。「ガス室」を「ガレージ」のように最初に表現したのは、マイダネクの「ガス室」についてである。

　ポレヴォイ報告でもっとも驚くべき点は、それが他の報告から派生したものであるとか、伝統的な虐殺記録を、まったく想像上の別の記録と置き換えているアウシュヴィッツのさまざまな物語のバリエーションであるということではない。ポレヴォイは名前を明らかにして、アウシュヴィッツについての報告を書いた最初の観察者であるが、彼の報告が今日通用しているアウシュヴィッツ物語ときわめて隔たっているということ自体が、この最初の報告が不正確なことだけではなく、その後の報告も捏造されたということを物語っていることなのである。

  ポレヴォイ報告が公表された直後、ソ連の尋問官は、トレブリンカの衛兵であったパーヴェル・レレコから供述を手に入れた[188]。翌1945年2月20、21日、レレコは二つの宣誓供述書をしたため、これが、トレブリンカでの大量ガス処刑説、およびラインハルト作戦収容所でのガス処刑説の根幹を作り上げた[189]。

  レレコ証言は、ガス処刑の手順に関して、次のように詳しく述べている。

1)　犠牲者は列車をおろされると、貴重品をすべて提出するように求められ、男女に分けられ、服を脱がされる。ついで、犠牲者は、ガス室のある別の区域まで歩かされる。

2)     ガス室には、四角形の花壇がある。犠牲者はドアではなく、敷物でできた重いカーテンを通ってなかにはいる。

3)    建物のなかには、長い廊下があり、両側に五つの部屋がある（全部で10室）。

4)    両側のそれぞれ四つの部屋がガス室であり、それは6メートル四方、高さ2．5ないし3メートルである。

5)     天井の真ん中には、架線のない照明設備と二つのシャワーヘッドがあり、ここからガスが部屋に放出される。

6)     壁、床、天井はセメントで作られている。

7)     ガス室には二つのドアがあり、外側への出口から死体が運び出される。

8)     一部屋につき500名が収容される（36平方メートルで500名）。

9)     10部屋のうち8部屋がガス室として使われ、残りの二つには、ガスを部屋に送り込む『強力なドイツ製のエンジン』が備えられている。

10)   一杯になると、ガス室は「気密ドア」によって密閉される。

11)   ガス処刑の進行は、各ドアについた「銃眼」から観察される。

12)   ガス処刑には15分かかる。

13)    20メートル離れたところに古いガス室の建物があり、そこには三つのガス室しかない。

14)    死体は、長さ20メートル、深さ1メートルのコンクリートの焼却壕に置かれる[190]。

 

  レレコの尋問は、ラインハルト作戦収容所でのガス処刑をもっとも詳しく描いているがゆえに、貴重である[191]。その他の証言は、ガス処刑の手順を描くにあたっては、明らかにレレコ証言と調和をとろうとしている[192]。

  レレコ証言は何も新しいことを提示していない。これが問題点である。すでにこの時点で、シャワー・ガス・焼却という連鎖過程は知られていた。だから、レレコの指摘は何か新しい事実を明らかにするというよりも、既存のものから導き出されたものであるといえる。興味深いのは、彼が架線のない電灯のバルブと二つのシャワーヘッドが各部屋にあり、そこを通じてガスが部屋に放出されたと指摘していることである。われわれは、シャワーとガスを結び付ければ、ガスがノズルから放出されたという考えを必ず生み出すと推論してきたが、レレコ証言はこれを確証している。もっとも、一酸化炭素は空気よりも軽いことを考えると、この方法は効果的とは思われないが。

   もっと重要なことは、建物の記述がマイダネクの浴室・害虫駆除施設と非常によく似ていることである。長い廊下があるとか、中くらいの部屋に数百の人々が裸で押し込められるとか、部屋はコンクリート、あるいは鉄筋コンクリートで作られているとか、部屋には二つのドアがあるとか、ドアは密閉されるとか、のぞき穴から死んでいくのが観察されるとかである。さらに、旧式の「ガス室」の数(3)も、マイダネクのガス室とされた部屋の数に対応している。

   最後に、レレコ証言をマイダネクと結び付ける決定的な点がある。エンジンのことである。前述したように、入浴施設の三つの部屋の外には、部屋に温風を送り込むボイラーがついている。これは、チクロンBやその他のシアン製品、あるいは二つの併用による温風殺菌駆除施設と完全にマッチしている。しかし、マイダネクに関するソ連特別委員会は、これらのボイラーは一酸化炭素ガスを発生させて、それを内部に送り込み、部屋の中にいる人々を殺したと主張した。（ソ連は、一酸化炭素ガスはパイプを介して別の部屋に送り込まれたとも主張している）[193]。レレコは、強力なドイツ製のエンジンが一酸化炭素を発生させ、15分で500名を殺したと証言しているが、これは明らかにマイダネク報告から出たものである。レレコの自白はエンジンの型を特定していない。この点は二ヶ月後のクルト・ゲルシュタインに委ねられる。彼の証言は、大量ガス処刑説に関して、もっと問題をはらんでいることを示唆している。

  クルト・ゲルシュタインはSS下級将校で、戦前から反ナチス活動に関与していた[194]。しかし、彼は技術者でもあり、害虫駆除目的でのシアンガスの使用に関与していた。

  彼は赤軍の侵攻を逃れ、1945年4月に連合国側に降伏し、5月6日にフランス当局に引き渡された[195]。この間、彼はいくつかの宣誓供述書あるいは陳述を書いている。これらは細部では異なるが、ベルゼク収容所でのガス処刑の様子を描いており、その他のラインハルト作戦収容所でのガス処刑の実行を証言している[196]。

  ゲルシュタイン陳述は、大量ガス処刑が起こったと主張する人々が最も広く引用する資料の一つであろう[197]。しかし、陳述全文には多くの誤りと、有りそうもないことが含まれているために、全文がほとんど引用されないのが問題である[198]。

1) ゲルシュタイン陳述は、ガス処刑その他に関して、以下のように要約できる。

2)  ベルゼクは1日に15000名の能力を持っている。

3)  ソビボル（見てはいない）は1日に20000名の能力を持っている。

4)  トレブリンカは1日に25000名の能力を持っている。

5)   収容所を統括するグロボクニクは、衣服を消毒し、古いディーゼル・エンジンを使っているガス室の効率を上げるようにゲルシュタインに指示する。

6)  グロボクニクは、ヒトラーとヒムラーが1942年8月15日に収容所を訪れたことをゲルシュタインに伝える。ゲルシュタインは、ヒトラーとグロボクニクとのあいだのまったく信じられない会話を記録している。

7)  翌日、ベルゼクで、ゲルシュタインは、浴室のことを書いている。

8)  外には、花が咲いている。

9)『浴室と吸入室へ』という指示板。

10) 建物には短い階段がついている。

11) 両側に「ガレージのような」三つの部屋があり、それは4ｘ5メートル、高さ1．9メートルである。

12) 輸送列車が到着し、順番に服を脱いで、貴重品の提出が強制される。

13) 髪の毛が刈られ、誰かが『それは潜水艦の特別用途、充填材料を作るために』とゲルシュタインに語る。

14) 人々がガス室に押し込められる。25平方メートルに700－800名。

15)ディーゼル・エンジンが始動しなかった。ゲルシュタインは遅れを自分のストップウォッチではかる。2時間49分であった。

16) 部屋の小窓から見ると、電灯の下で多くの人がまだ生きていた。

17) ガス処刑の開始から32分後、全員が死んだ。

18) 翌日、彼はトレブリンカへ行った。8つのガス室があった。

19) 35－40メートルの高さの衣服と下着の山があった。

20) BBC放送の数は低すぎる。2500万がガス処刑された。

21) 1942年6月8日、ゲルシュタインは、自分がチェコスロヴァキアのコリンで集めたボンベは人々を殺すためのものであるという噂を広めた。

22) 輸送中のシアンはボンベに入っている。

23) 殺人のもう一つの方法は、人々をはしごに登らせて、そこから溶鉱炉に落とすというものである[199]。

 

  これらの主張のいずれにも、物的・資料的な証拠はない[200]。誰かボンベに入ったシアンで殺されたとは通常は考えられていない。この説は歴史家によって正されている[201]。ヒトラーとヒムラーが1942年8月にこれらの収容所にいたことはない[202]。人々の数や衣服の山は、あり得ないような誇張である。だから、この資料を事実として分析する必要はなく、陳述のもとが何であるかを問題にした方がよい。

  ディーゼル・ガスに言及していることは、ソ連によるガス・トラックの暴露、あるいはトレブリンカに関してのソ連の議論と結びついているのであろう[203]。例えば、ガス室が「ガレージのように」見えるといった比喩は、マイダネクに関する前年夏のヴァースの記述、あるいは二ヶ月前のアウシュヴィッツに関するポレヴォイの記述によっているに違いない[204]。ゲルシュタインが人間に対してシアンガスを使っているという噂を広めることに本当に関与していたとすると、これらの噂が登場した時期（1942年6月8日）は、翌8月にスイスに届いたシアン使用の噂と一致しているが、これは興味深い。

  別の要素、すなわち2500万の犠牲者という要素はチクロンの使用マニュアルにさかのぼる[205]。衣服の山はマイダネクの報告に言及されている[206]。なかでも、陳述は、2月におこなわれたレレコの尋問と、同時期かそれ以前に行なわれたトレブリンカとソビボルに関する証言の影響を受けている。部屋の数、建物の配置、エンジン、のぞき穴、そして建物の前の花までもが、明らかに以前の話から出ているのである。

  ゲルシュタイン陳述に関する最大の問題は、資料からつまみ食いして選択すべきではないということである。ゲルシュタイン陳述の大半はたんに虚偽である。虚偽であるとするなら、その他の部分を信頼すべきかどうかという問題を当然にも提起しうるのである[207]。陳述のなかのほんの一部だけが引用され、明らかに真実とみなされているのは、すでに伝統的となっているシャワー・ガス・焼却という概念に関連している個所である。しかし、これは、ゲルシュタイン陳述の一部を使って、すでに知られていることを確認しているにすぎない。

  ゲルシュタイン陳述の最大の構造的な難点は、ディーゼル・エンジンを使って、ガス室用の一酸化炭素を発生させたという点である。1983年以来、フリードリヒ・パウル・ベルグ――専門的なエンジニアで環境問題のエキスパート――が、この方法は大量絶滅には適さないことを示してきた。ディーゼル・エンジンは実際にはほとんど一酸化炭素を発生しないのである[208]。この分析によって、ラインハルト作戦収容所でのガス処刑には大きな疑問が投げかけられた。ゲルシュタインに続いて、ディーゼル・エンジン――ソ連の戦車のエンジン、ときには潜水艦のエンジン――が、これらの三つの収容所でのガス生産の手段であると今でもみなされているからである[209]。

  ゲルシュタイン陳述の問題点は、それがラインハルト作戦の証言から派生したものであるとか、馬鹿げた点が数多くあるとか、ベルゼクでは60万人の大量殺害がおこなわれたとする記述が確証されていないという点にあるのではない。チクロンの専門家であるゲルシュタインが、自白することで、有罪を免れようとしており、そして、このことによって、チクロンBが大量殺人の凶器と当時みなされていたことが証明されている点にある[210]。免罪の面では彼は失敗した。彼の陳述が1945年7月に広く公表されると、フランスはゲルシュタインを戦争犯罪人として裁こうとし、彼は結局自殺した[211]。

 

第6章  教会法的なホロコースト

　ガス処刑説が今日のかたちを取った時期に焦点をあてれば、1945年4月13日から5月6日までの3週間であるといえるだろう。この時期に、西側連合国は多くの収容所を解放し、この時期の終わりに、ソ連はアウシュヴィッツ・ビルケナウに関する特別委員会報告を公表した。

　4月15日、イギリス軍はベルゲン・ベルゼン収容所を占領した。そこには数10万の囚人がいた[212]。イギリスの従軍写真家によるベルゼンのイメージは、拭いがたい印象を残した。裸で、変色し損傷した死体の山――その多くは腐敗しようとしていた――が建物の外に薪木のように並んでいた。囚人の詰め込まれたバラックは死者や瀕死の収容者で一杯であった。身体をねじまげられた死体でうまっている大量埋葬地。衝撃、恐怖、信じられないというのが一般的な反応であった。言葉では解放者が見たものを言い表せないというのが、共通したコメントであった[213]。

　やはり4月に、アメリカ軍がダッハウとブッヘンヴァルトを解放した[214]。これらの収容所も独自のイメージを提供した。ダッハウでは、一群の無蓋貨車の上に数百の囚人の死体が積んであり、ブッヘンヴァルトでは、入れ墨をしていた収容者の死体からはがされたと思われる人間の皮膚が、一握り発見された[215]。このような死と破壊に対するアメリカ人の反応は、少なくとも一つの事例では衝撃を通り越していた。ある将校は、ダッハウの死体を目撃して、数百のSS隊員（多くが若者）と解放の時に収容所にいた兵士を並べて、冷血にも機関銃で射殺したのである[216]。

　連合国兵士は、このようなおそらしい光景を目の当たりにして、自分たちの知識の枠内でこれを解釈した。彼らが、検証されたことのない3年間のプロパガンダから知っていたことは、ドイツが収容所でシャワー・ガス・焼却という連鎖過程を使って数100万の人間を殺害してきたということであった。シャワー、焼却棟、害虫駆除室が存在したことは、周知のガス絶滅説の第一の証拠となった[217]。裸で、変色し、損傷を受けている死体は、連合軍の到着直前にガス処刑された犠牲者に違いないとされた[218]。ここでもまた、死体は、すでに何年間もなされてきた告発の全体性の証拠である。そして、あるアメリカ人の表現では、ドイツ人は「うまくやり遂げる前に」、阻止されてきたという印象が生まれた[219]。

  問題は、このような感じ方がすべて誤っていたことである。連合軍が西部地区の収容所で発見したのは、「世界史のなかでのチフスの最後の大流行」の結果にすぎなかった[220]。戦争の最後の数週間、数ヶ月のあいだに、収容所の衛生施設、収容所への輸送・供給システムが完全に崩壊したことがこの大流行をもたらした[221]。死体が変色し、損傷を受けていたのは、腐敗が進んでいたためであり、裸であったのは、囚人が死ぬと、他の囚人が服を脱がせて、シラミのついた衣服を焼却したためであった[222]。この当時、西部地域の収容所のガス室として広く報道され、写真も撮られた施設は、標準の害虫駆除室にすぎなかった[223]。1960年、西部地域の収容所ではガス処刑はなかったことが定説となった[224]。だが、当時の西側の人々は死体の山しか目に入らず、それをドイツの悪行とナチス文化の証拠とみなしたのである[225]。西側の収容所、とくにベルゼン収容所のイメージは、ホロコーストひいてはガス処刑説の証拠として何十年も残った。

  終戦直前、ソ連は報告を発表し、その報告は絶滅計画の本質を、権威をもって確定した。アウシュヴィッツに関するソ連特別委員会は、その他のソ連の報告と同じように、比較的短いものであり、30頁の小冊子として刊行された[226]。ガス処刑説に力点を置いたこの報告には、新しい事実はほとんど含まれていない。二つの資料が引用されているだけである。一つは、焼却棟の建設に関するもの、もう一つは、焼却棟ⅣかⅤの特別目的の浴室に言及している資料である[227]。この証拠は有罪の証拠とみなされただけではなく、それだけで犯罪の証拠として十分であるという連鎖過程がこの当時、本質的なものとみなされており、どちらかの存在が他方の存在の決定的な要素とみなされていたことを示している。報告の内容は、ガス処刑説に関しては、次のようにまとめられる。

 

1)  四つの新しい焼却棟では46の燃焼室を持った12の焼却炉が利用できる。

2)  各燃焼室は3－5の死体を処分できる。

3)  焼却にはおよそ20－30分かかる。

4)  特別目的のための浴室、すなわち、人間の殺害のためのガス室は焼却棟に隣接した特別な建物の地下室にある。

5)  また、別に二つの『浴室』があり、ここで殺された人々の死体は戸外で燃やされた。

6)  犬が死を待つ人々を浴室に追いたてた。

7)  途中で、彼らは棍棒やライフルの銃床で殴られた。

8)  部屋のドアは密閉され、そのなかで、チクロンで毒殺された。

9)  死ぬまでに3－5分であった。

10)20－30分後、死体が除去され、焼却棟の焼却炉に連れて行かれた。

11)焼却の前に、歯科医師が死体から金歯をすべて抜き取った。

12)『浴室』とガス室の『生産性』は焼却炉の処理能力をはるかに超えていた。それゆえ、ドイツ人は戸外で大規模に火を燃やして、死体を焼却した。

13)戸外焼却のために、幅4－6メートル、長さ25－30メートル、深さ2メートルの壕が掘られた。

14)壕の底に溝が走っており、空気の供給のために使われた。

15)死体は狭軌の鉄道によって、火のところに運ばれ、壕の中に何層にも積み重ねられた。

16)オイルが注がれ、そして焼却された。[228]

 

  報告の末尾で、ソ連は、五つの焼却棟で焼却しうる死体の数を月279000名とし、ここから、最大焼却能力は500万以上であったと結論した[229]。にもかかわらず、報告の結論は、「技術委員会によると、ドイツの処刑人は、アウシュヴィッツ収容所が存在しているときに、ソ連邦、ポーランド、フランス、ユーゴスラヴィア、チェコスロヴァキア、ルーマニア、ブルガリア、オランダ、ベルギーその他諸国の少なくとも400万の市民を殺害した」というものであった[230]。

  ここから、アウシュヴィッツの400万という数字が誕生した。

  アウシュヴィッツに関するソ連特別委員会報告は、ガス処刑説に関するもっとも重要な資料であろう。たしかに、ガス処刑説が、この薄っぺらく、内容のない小冊子にさかのぼることができるのは、いささか衝撃的である。しかし、この当時には、この報告は、ガス絶滅説が事実であるとしただけではなく、最大の強制収容所でこの政策が実行されていたと断定したのである。しかし、ガス処刑説の証拠を提供しているわけではない。二つの状況証拠的な資料にもとづきながら、焼却の割合を勝手にかけ算することで、犠牲者の数を推定しているにすぎないし、大量の目撃証言に支えられていたにすぎない。しかも、その証言はガス処刑の手順を詳しく語ることができないのである。

この資料は、尋問、自白、戦争直後の裁判ですぐさま重要資料となった。最初の裁判は1945年秋にベルゼンで開かれた[231]。この裁判の目的は、収容所で捕虜となったSS隊員を裁くことであったが、多くのSS隊員と囚人が1944年末と1945年初頭に、ベルゼンからアウシュヴィッツに移されてきていたことが判明した[232]。その結果、ベルゼン裁判は、アウシュヴィッツでの事件の実態についての裁判ともなった。事実、審理はアウシュヴィッツについてのソ連の映画を上映することから始まった[233]。

　ドイツ人被告の大半は、以前はアウシュヴィッツの看守であった。ベルゼン所長ヨーゼフ・クラマーは、短期間ビルケナウの所長もつとめた。ヘスラーは女性収容所の長であった。イルマ・グレーゼはビルケナウの看守であった。全員がガス処刑への選別に関与したことで告発され、その関与を認めた。ソ連委員会報告が彼らの自白に影響を与えていることは簡単に読みとることができる。

 　1945年5月22日、ハインリヒ・ヒムラーがイギリスに拘束された翌日、ヨーゼフ・クラマーは長い陳述を行ない、ベルゼン、ビルケナウ、ナチヴァイラー・ストリュホフなど、自分の勤務した収容所の状況を物語った。彼は、アウシュヴィッツに「ガス室」が存在していたことを明白に否定していた[234]。翌日、ヒムラーが自殺した[235]。その後の尋問のなかで、クラマーは、自分の管轄ではないビルケナウに「ガス室」が存在したことを認めた[236]。彼は、自分が最初に否定したのは沈黙の誓約によってであり、ヒトラーとヒムラーの死によって、その誓約にはもはや拘束されないと証人席から発言した[237]。残念ながら、クラマーの第二の陳述の日時はわかっていないが、彼にガス処刑説を認めさせるにあたって、ソ連特別委員会報告が役に立ったことであろう。戦争難民局報告は1944年11月に、同じような告発をしているし[238]、ソ連のアウシュヴィッツ報告は2週間前に発表されていた。だから、クラマーがガス処刑説について沈黙していたということは信じがたい。ヒトラーは何週間も前に死んでいたのだから、誓約に拘束されていたので沈黙していたというのもナンセンスである。彼の上司ヒムラーもイギリスに拘束されていたので、クラマーが、尋問官が認めさせようとしていたことを否定していたこともありそうもない[239] 。

　ベルゼン裁判でのその他の被告も、曖昧なかたちではあるが、ガス処刑説を認めた。例えば、グレーゼは、囚人の噂からガス室のことを聞いたことがあると述べた。有罪となった45名のうちの11名が絞首刑となった[240]

　アウシュヴィッツ特別委員会報告は、その後の自白だけではなく、目撃証言の中味の枠組みを定めた。1945年9月初頭、アウシュヴィッツの政治将校であったグラブナーが、ウィーンで自白し、自分が離任する1943年12月までに、300万人が収容所で絶滅されたと述べた[241]。300万が1943年末までに死んだとすれば、1945年に解放されるまでに、あと100万が死んだであろうという点で、この自白はソ連の推定と一致していた。さらに、ベルゼン裁判では、アウシュヴィッツの囚人であったベンデル博士とアダ・ビムコはガス室の実在を証言し、とくに、ビムコは2個所で400万という数字を支持していた[242]。

　戦後の目撃証言と自白がソ連特別委員会報告と一致しているという事実を、この報告の正確さが立証されたことと受けとっている人もいる。例外は、とくに400万の犠牲者というまったくでたらめな計算の面では、ソ連報告は誤っていたと認められている点である（今日の定説は100万以下である）[243]。この数字は、焼却能力に関するソ連の計算から出てきているものであり、証言から出てきているものではない。しかし、この数字を支持しているいくつかの証言と自白もある。とすれば、数字が誤りであるとすると、この計算を支持している証言はソ連報告の影響を受けているということになる。

　もしも、証人や自白者が、広く公表された報告の陳述と一致するような陳述をしたとすると、物的・資料的な証拠には依然として疑問の余地があったとしても、この証人や自白者を、独自に真実を立証した人々とみなすことができるかもしれない。しかし、証人や自白者が虚偽の陳述と一致するような陳述をしたとすると、証人や自白者の陳述は、たんに報告から導き出されたものと推定しうる。言い換えれば、この陳述は、誤りを含んだ共通の資料に由来しているか、誤りを含んだ資料の権威がもたらしたある種の大衆ヒステリーに由来していると考えられるのである。

 　ガス絶滅説に関する目撃証言や自白を扱う場合、以上のような問題が生じている。とくに、その初期の時期にはそうであるが、もっとのちになってもあてはまる。大量ガス処刑説は1942年以降、広く広まり、1944年秋までには公式の権威を与えられていた。こうした状況のもとでは、「まわりに影響されない」証言や手垢の付いていない自白を手に入れることは不可能であろう。本来は、詳細を詳しく述べて、事実を確証するような陳述だけが採用されるべきなのであろうが、まさに、登場してこなかったのはこのような陳述であった。目撃証言と自白は、詳細に立ち入ると重大な誤りをおかしている。例えば、アダ・ビムコは、シアンガスが大きな丸いボンベに貯蔵されていたと考えている[244]。また、ヨーゼフ・クラマーは、ナチヴァイラーでのガス処刑は半パイントの塩を管に流し込むことによって実行されたと述べている[245]。

　アウシュヴィッツ特別委員会報告が権威を持つようになったのは、それを政府が発行したため、また、それと対立するような報告――カチン事件でのような――報告がなかったためであった。権威を持つようになったのは、法医学的、資料的、物的に広範な調査がなされたためではない。その結果、この報告は、そこで何が起こったのかを知ろうとする人々にとって基本的な資料となってしまった。証言をしようとする証人は、自分の記憶をリフレッシュするため、あるいは自分の経験を広い視野に置いてみるために、この報告を参照した。非常に重要なことは、連合国の役人がアウシュヴィッツ関係者を尋問するにあたって、真実と虚偽とを区別するために、この報告を参照しなくてはならなかったことである[246]。

　証人や自白者がソ連特別委員会報告と一致するような陳述をするとすぐに、これらの陳述は、報告と一致しているとの理由で、ソ連報告の権威を獲得した。時が経つにつれて、人々は、ソ連のアウシュヴィッツ報告自体ではなく、その影響を受けた証言や自白こそがアウシュヴィッツでの大量ガス絶滅の証拠とみなすようになっていた。こうして、ガス処刑説――教会法的ホロコーストと呼ぶこととする――が、実体のない報告をもとに作られた口承証言を介して、進化していった。その一方で、呪われたベルゼンのニュース映画が、当時の気まぐれな雰囲気のなかで、収容所から収容所へと上映され、ガス処刑説に確固とした根拠を与えていった[247]。

 

第7章　ニュルンベルク裁判

　ニュルンベルク裁判の起源は、連合国がナチスの指導部に復讐し、ドイツ国民を罰しようと願った1943年にある[248]。ドイツとの戦争はもはやありえないようにしようとするというのもその願望の一部であった。だから、初期の段階でも、数万のドイツの指導層を処刑するとか、ドイツ国民全体に不妊手術を施そうといった要求があったのである[249]。

  この敵意の一般的な側面は、ドイツ人が、少なくともその指導部が陰謀を企んでいると考える一つのパラノイアであった。このようなパラノイアのルーツに関しては様々に説明できる。一つには、戦争というものは、いつも疑惑と不安をつのらせ、それがトップにまで及ぶことがあるということである。例えば、1940年のドイツ軍の攻勢を受けて混乱し、錯乱したイギリス軍はベルギーの農夫の耕作方法のなかに秘密のメッセージを発見した[250]。もう一つの要因は、戦争による死と破壊である。おそらしい悲劇が、他者による秘密の陰謀のせいにされた事例は、歴史のなかに数多くみうけられる。例えば、ユダヤ人は、疫病・伝染病が流行したときに、たびたびスケープゴートになった[251]。ドイツ人に対する戦時の憎悪を考えると、このような事態は当然にももっと広がっていった。1918－1919年にインフルエンザが流行したとき、アメリカの役人は、ドイツの潜水艦がカイザーの命を受けて、このおそらしい疫病をアメリカに運んできたと考えた[252]。

  こうしたパラノイアを促進するもう一つの要因は、少数の特別なグループを邪悪な「第五列」とみなそうとする戦争ヒステリーが広まったことである。連合国による日本人、他のヨーロッパ人の収容、ソ連によるヴォルガ・ドイツ人とクリミア・タタール人の移送は、ドイツによるユダヤ人の移送と同様に、このようなヒステリーの影響をいくぶんか受けていたと思われる。

   このような陰謀説はシャーマニズム的な思考に先祖がえりしたものかもしれない。災難の直接の原因は、特別な邪悪なスパイに求められるという考え方である。ヨーロッパの歴史では、様々な魔女狩りが各地で起こった[253]。20世紀に入って、陰謀説がドイツ人に当てはめられると、ドイツの動機や行動に関する陰謀説が第二次大戦以前にすでに登場していた。国会放火事件や数百年もさかのぼることができるもっと邪悪な諸説でのことである[254]。

  こうした条件のもとで、戦後には、連合国はドイツ国民、少なくともかつてのその指導部を信用しようとはしなかった[255]。連合国は教会法的なホロコーストにもとづいて、ドイツ国民、少なくともSSがきわめて野蛮な犯罪に関与していた、彼らがそれを否定したとしても、関与しなかったなどということはありえないと確信していた[256]。たとえ一般の兵士であっても、ドイツ人が「何が収容所で起こっているか」知らなかったと述べると、それは嘘であるというのが普通の結論であった[257]。最後に、連合国が相手にしていたのは8000万という少数国民であるという事実が、パラノイアの広がりに寄与した。このような少数グループが多数派に自分の意志を押し付けようとした場合、陰謀説がよく出てくるのは、歴史が示すところである[258]。

  簡単に言えば、占領者と非占領者とのあいだには深淵があったのである。連合国のパラノイアはドイツの陰謀――大量処刑計画はその一つにすぎなかった――が確実に存在したと考えていた。ドイツ人は、何がなぜ起こったのかを連合国に話すとは信じられておらず、たんに話されたことを確認することを期待されていた。結局、何が起こったのかということに関する情報源で利用できるのは、ソ連政府のちにはポーランドの共産党政府が権威を持って公表した報告、および、すでによく知られていることを繰り返したにすぎない自白と宣誓供述書だけとなった。犯罪が犯され、陰謀が企まれていたという説が広まっている雰囲気のなかで、大量ガス処刑と絶滅説のプレゼンテーションが、陰謀、パラノイア、見世物裁判については長い経験を持つソ連の手に委ねられたことは不幸な事態であった。

   ニュルンベルクで起こったことを理解するためには、スターリンのもとでのソ連の司法制度の状況を理解しておかなくてはならない。1930年代、ソ連はいくつかの裁判を開いた。その多くは著名な共産主義者を裁いたものであったが、ソ連邦の破壊を企てたとされる「サボタージュ主義者」を裁いた裁判もあった[259]。今日では、これらの裁判での告発は虚偽であったことが認められているが、ドイツの陰謀の一部としてソ連農業をサボタージュしたと告発された被告の宣誓供述書の内容は、非常に示唆に富んでいる。

 

「当時、ドイツの情報機関が私に課した主な任務は、国内の穀物を駄目にするということでした。穀物の収穫とその保管とのあいだに齟齬を生じさせるために倉庫や穀物倉庫の建設を遅らせることでした。（ドイツのスパイが言うには）こうすることで、二つのことが達成されるというのです。一つには、穀物自体が駄目になり、もう一つには、穀物が駄目になることを知った農民たちが必ず憤るであろうということです。私に要請されたことは、害虫、とくにクワガタムシを使って倉庫を完全に汚染するということでした・・・。

  ドイツの情報局は、馬の飼育の分野での破壊活動を組織化することにとくに注目していました。・・・赤軍に馬を供出しないようにするためです。種まきに関しては、様々な種を混ぜ合わせてしまって、収穫量を下げるという計画を立てました。輪作に関しては、不正確な作付け地域を計画し、集団農場の農民が適切な輪作を実行することができず、草地や牧草地を耕さざるをえないようにするということが考えられました。これによって、収穫量が下げられ、農民は憤ることでしょう。彼らは、集団農場が家畜を成長させ、そのための馬草を必要としているのに、草地や牧草地を耕さざるをえない理由を理解できないからです。機械トラクター・ステーションに関しては、収穫コンバインと農業機械を使えなくし、機械トラクター・ステーションの財政状態を混乱させ、このために、ステーションに、役立たずの人間、悪い記録を持つ人間、とくにわれわれの右翼組織のメンバーを配置することが目的でした。家畜の飼育に関しては、優秀な血統を持つ家畜を殺すこと、家畜の死亡率を高くすること、・・・馬草の蓄積を妨げること、とくに、死亡率を高めるために様々なバクテリアを家畜に植え付けることが目的でした。・・・私は、（獣医局長）とバクテリア学局長ボヤルシノフに、レニングラート地域で丹毒をブタに感染させ、ヴォローネシ地域とアゾフ黒海地方で伝染病に感染させるように命じました。この二つのバクテリアを選んだのは、ブタは死んだ細菌ではなく、少し毒性を減らした生きた細菌を植え付けられるからです。ですから、人工的な感染を組織するのは、技術的な観点からすると非常に簡単なのです。・・・この目的のために、私は三つの工場を選ぶことを提案しました。・・・これらの工場で猛毒のバクテリアから血清が作られ、それに特別なシリアル・ナンバーがつけられました。ボヤルシノフにはこのシリアル・ナンバーが伝えられ、彼は、この件について信頼できる地方の獣医局長にそれを渡しました。ついで局長たちが獣外科医に渡しました。彼らは反ソ感情を抱いており、家畜の死亡率が高くなっても、大騒ぎしないからです。」[260]。

 

  公平な読者であれば、秘密の陰謀が途方もない規模となっており、ソ連農業の不振の原因がすべてこの陰謀に帰せられているという事実にまず気づくことであろう。当然、ソ連政府が途方もないごまかしを演出したに違いないということになる。しかし、これは、行き過ぎの解釈でもあろう。理性的な政府がすべて、自分の敵を抹殺しようとして[261] 、このような馬鹿げた告発を考え出すとは信じがたい。むしろ、トップからの理性的で意図的な情報によって、サボタージュという概念が、保安機関、尋問官、そして多くの被告のあいだにさえも生じてしまったと考えられる。言い換えれば、大衆ヒステリー現象の事例なのである。そこでは、ソ連社会は、秘密の「破壊工作者」が活動しており、彼らの活動はまったく物証を残さないように巧みに隠蔽されており、集団化・非クラーク化のプロセスでのすべての不幸の原因であるという噂に取り付かれていた。これが完全に意図的であったと言うのは、歴史からの分析に反する。モーリス・ルトヴェンが指摘しているように、魔女狩りの歴史は、審問官が意図的に虚偽を作り上げていたということを示しているわけではないからである[262]。

  際限もなく虐殺の物語が広がっていくというヒステリックな雰囲気がニュルンベルクも支配していたようである。アメリカ人は、刺青のついたブッヘンヴァルトの装飾品に六つの皮膚片を発見した[263]。ニュルンベルクでは、この奇怪な発見は収容所での本物の産業になった。ブラハ博士によると、ドイツ人はダッハウで人の皮膚から乗馬ズボン、手袋、「婦人用」ハンドバッグを製造したというのである[264]。証人ブラチョフスキイは法廷証言のなかで、本の装丁にも人の皮膚が使われたと述べた[265]。ついで、ソ連はなめされた人間の皮膚と主張するもののサンプルを提出し、人間石鹸といわれるものとともに展示した[266]。これらの説は一つとして検証されていないことを断言しておく。ソ連のサンプルはどこかに消え去ってしまった[267]。

  裁判での検察側の立証は大半が、宣誓供述人――出廷して証言することはなかった――からの様々な虐殺説を読み上げることであった[268]。（弁護側は反証のために、30万の宣誓供述書を半日で要約することを許されただけであった）[269]。ガス処刑説に関する重要資料はヘトル――のちに起訴を免れた――の宣誓供述書であった。それは、ヒムラーの秘密命令によって、絶滅計画がたてられ、アウシュヴィッツで400万が殺され、ユダヤ人は全部で600万人が殺されたと述べていた[270]。ヴィスィリセニイによる次の証言はヘトルの説を繰り返し、責任を、姿を隠し死亡したと思われていたアドルフ・アイヒマンにかぶせた[271]。当時も、そして今日でも、ガス絶滅の計画の立案、予算、命令に関しては、ひとつも資料は提出されていない。

  1946年2月の大半を費やしたソ連の陳述は、いくつかの点でやりすぎとみなされた。ドイツの司令官は自分の娘を楽しませようと、ユダヤ人の子供を捕まえて、空中に放り投げ、それを射撃したという宣誓供述書が提出されると、アメリカのパーカー判事は、「彼らはやりすぎている」と私的にコメントしたという[272]。マダム・ヴェイラン・コトゥリエとシェメゲロフスカヤがアウシュヴィッツでの大量ガス処刑に関して空想的な証言をしたとき、合衆国判事ビドルは、「私はこれについては疑問を抱いている」と私的に書いている[273]。そして、裁判長であったイギリス判事ビルケットは、個人的な疑念を表明している[274]。しかし、この当時のヒステリー的な雰囲気のなかでは、彼らも、そしてほかの誰もおおやけに異議を唱え、裁判の審理に理性を持ち込む勇気は持っていなかった[275]。

  1946年夏、ソ連は56頁の八つ折り版のパンフレットを提出し、そのなかでドイツはソ連の名誉を傷つけるために11000名のポーランド軍将校を殺害し、カチンの森に埋めたと主張したが、これはソ連の厚顔無恥が頂点に達したときであった。裁判憲章によると、このような報告を提出しただけで、それを「既知の事実」とするには十分であった[276]。ソ連のカチン報告に関して、心を暗くするような問題点は、それがマイダネク報告やアウシュヴィッツ報告よりも長文で内容のあるものであったことである[277]。この報告がまったくの虚偽であることは1952年以来よく知られており、ソ連邦も1989年に、カチンはソ連による虐殺であったことを認めている [278]。ソ連の主張は矛盾しているとする証拠を持っていたドイツ側は、この主張を検討し、いくぶんかもめたのちに、自分たちの証人を提示することができた[279]。法廷は最終判決ではカチンについては言及していない。つまり、この裁判では、正義と道徳は政治的なご都合主義に従ったことが明らかとなったわけである[280]。

  ソ連側検事の立証が終わると、弁護側の立証が始まった。その1週間後、ウィンストン・チャーチルはヨーゼフ・ゲッベルスの文句を借用して、ヨーロッパ大陸におろされた鉄のカーテンの話をした[281]。その1週間後、イギリスの憲兵隊はアウシュヴィッツの所長であったルドルフ・ヘスを逮捕した。

第8章  ルドルフ・ヘスの自白

  ヘスは、1946年3月13日、イギリス占領区の農場で逮捕された。彼はここで普通の労働者として数カ月を過ごしていた[282]。彼の宣誓供述書はとくに注目に値する。長年のあいだ、歴史家たちはヘスの宣誓供述書――普通1946年4月5日のもの――からの抜粋を、大量ガス処刑の証拠として引用し、それでこと足れりとしてきたからである[283]。ヘスは死ぬ前に、自分が拘禁の初期の時期にひどく殴られたと記している[284]。おもにロベール・フォーリソンが進めた、のちの研究では、彼は組織的に拷問を受けた、とくに寝させてもらえなかったことが明らかとなっている[285]。

  このような状況のために、1946年3月16日の彼の最初の宣誓供述書にはつじつまの合わない点があるのであろう。また、ベルゼンについて多く言及しており、イギリスの影響を受けていると思われる。もっとも興味深いのはアウシュヴィッツに送られた1800名のベルゼンの収容者に関する伝説――とくに神聖なホロコースト物語――である[286]。

  4月5日の宣誓供述書はもっとも引用されるものであり、また、様々なガス処刑説を整理したもののようにみえる[287]。この説は次のように要約できる。

 

1. 大量ガス処刑は1941年夏に始まり、1944年秋まで続いた。

2. 250万がガス処刑され、50万がその他の方法で殺され、合計300万が殺された。

3. ヘスは1943年12月にアウシュヴィッツを離れたが、その後も情報は得ていた。

4.『最終解決』とはヨーロッパのユダヤ人の完全な絶滅を意味していた。

5.  ヘスはヒムラーからの直接の命令によって、1941年6月、アウシュヴィッツに絶滅施設を作るように命じられた。

6.  ヘスは、一酸化炭素が使用されていたベルゼク、トレブリンカ、ヴォルゼクを訪れた。

7.  ヘスはチクロンBの使用を決定した。

8. 『われわれは、人々の叫び声がやんだので、彼らが死んだことを知った。』

9.  ガス室は一度に2000名を収容することができた。

10. 子供も必ず絶滅され、母親は子供を隠そうとした。

11. 絶滅は秘密にされたが、

12. 焼却による悪臭のために、周囲数マイルにいるものは誰も、絶滅が進行していることを知っていた。

 

  一見すると、この宣誓供述書は印象的で、信ずべきもののように思われる。しかし、丹念に分析すれば、この文書は、当時「既知の事実」としてすでに知られていたこと以外にまったく何も述べていないことがわかる[288]。注目すべきは、ヘスについてこれまで論じてきた人々すべてが、彼の逮捕までに、ニュルンベルク裁判の法廷で、ガス室の物語がほぼ完全なかたちをとっていたという事実を見過ごしてしまったことである[289]。

詳しく見ておこう。絶滅命令はヒムラーによって直接伝えられたというのは、1945年のヘトル供述書を繰り返しているにすぎない[290]。絶滅が1941年に開始されたこと、最終解決はユダヤ人の絶滅を意味するコード言語であることについては、1月におこなわれたヴィスリセニイの証言にさかのぼることができる[291]。子供の運命を強調していることは、1月と2月のシェメゲロフスカヤとヴェイラン・コトゥリエの証言の影響を受けている[292]。焼却による悪臭は、後述するように、1941年の安楽死キャンペーンに関する噂にまでさかのぼる古めかしい誇張である。犠牲者の数――250万がガス処刑され、50万がその他の方法で殺された――は前年9月のグラブナーの自白にさかのぼることができる。そして、双方とも、収容所が活動していた全期間で400万が殺されたと計算したソ連特別委員会報告――1943年までに300万であるとすれば、1944年に100万――の影響を受けている。興味深いことに、250万から300万という犠牲者の数の幅ならびにその他の詳細は、数週間前にハンブルクで開かれたテシュ・シュタベノフ裁判でのペリー・ブロードの証言と一致している[293]。一方、「ヴォルゼク」収容所なるものは存在せず、彼が査察したと主張する三つの収容所は1941年には存在していない。

  要するに、1946年4月5日のヘスの宣誓供述書はすでに知られていたことを確認したにすぎない[294]。それが述べていることに新しいものはなく、新しいものはまったく誤りである。それは、それが繰り返している説を立証したものでも、説明したものでもない。事実、10日後のニュルンベルクでのヘスの証言は、宣誓供述書の中味を確証できなかった陳述から成り立っている[295]。ヘスはカルテンブルンナーのために証言したのち、検察側から交差尋問を受けているが、彼は自分の宣誓供述書が読まれると、うなずくか、「はい」と答えるだけだった[296]。それは、ソ連特別委員会が提示した教会法的なホロコーストの内容を拡張し、確認したにすぎない。そのようなものであれば、歴史学的な観点からすると、それは実際には価値のないものである。

  数週間後、ヘスはポーランドに移送され、そこでふたたび裁判にかけられた[297]。11月、多くの宣誓供述書が用意された。これらは。彼が裁判中やその後に作成したその他の資料と組み合わされて、彼の「自伝」として刊行されてきた。これはすべて、ヘスに死刑判決が下されたのちに作成されたのだから、彼には嘘をつくか、真実を隠す理由はなかったとしばしば語られてきた[298]。これは正しくない。ヘスが死刑を宣告されたのは、1946年12月27日以降のことであり、彼がポーランドの刑務所でガス処刑についての詳しい話をした1ヵ月後のことである[299]（これは、それぞれイギリスとアメリカの刑務所で記録されている3月16日と4月5日の供述とまったく矛盾している。だから、イギリスの尋問官、アメリカの尋問官、ポーランドの尋問官は、それぞれの思惑で尋問したのであろう）。さらに、ポーランド人民法廷がヘスの死刑を確定したのは、1947年4月2日のことであった。これは、彼の死の2週間前であり、彼の回想録が執筆された2ヵ月後のことであった[300]。さらに、この回想録やその他の供述書のなかの彼の主張を立証するような物的・資料的証拠はまったくない。そして、この回想録は、内容に首尾一貫性がなく、矛盾をはらんだ文書の典型であり、多くの明白な虚偽を含んでいる。例えば、米英の爆撃で死んだ700万人のドイツ人を記録した秘密ファイルのことに触れている[301]。にもかかわらず、回想録は、ガス処刑説のリアリティーを立証する「公式」資料として依然として再三引用されている。実際には、回想録の存在自体が、問題をはらんでいる1946年4月5日の供述書に、あとからさかのぼって、権威を与えているにすぎないのであるが。

第9章  資料と戦後の文献の解釈

  ヘスの様々な自白、とくに1946年春の自白を検証すると、ニュルンベルク裁判に提出された資料的な証拠の質や中身はどうであったのかという問題にたどりつかざるをえない[302]。数千の資料が提出されたが、これらの資料は、理解を深めるというのではなく、有罪を証明するという観点から選別され、提出された。テイラーも何年か前にこのことを認めている[303]。

 

「ニュルンベルクでの戦争犯罪者裁判のために収集された証拠は非常に多い。こうした資料は膨大な書物となるほど圧倒的な量に見えるけれども、歴史家が利用するには危険な資料である。それらは、法律家の簡単な話をもとにして、急いで、そしてランダムに集められた。これは、歴史家のやり方ではない。法律家の目的は事件を立証することであり、歴史家は状況を理解しようとする。法律家を納得させる証拠が、歴史家を満足させないことも多い。歴史家の方法が法律家にはたんに不正確と見えることもある。しかし、法律家であっても、ニュルンベルクでの証拠には疑念を持たなくてはならない。資料は、被告の有罪を示すためではなく、検事側諸国の有罪を隠すために選別されている。・・・判決が裁判に先行していた。資料は、すでに定められている結論を補強するために提出された。もちろん、資料は本物である。しかし、それらは『仕込まれて』いる。だから、この資料に依拠する人は誰でも、この『仕込み』を逃れることはできないとわかるのである。」

 

  このような状況であるから、少々手を休めて、絶滅とりわけガス絶滅の証拠として提出された2、3の資料を検討することが適切であろう。

　驚くべきことに、供述書や証言を除外すれば、ガス室に触れている資料が国際軍事法廷の記録にはまったく入っていない[304]。われわれの手元にある数少ない資料の大半は、ニュルンベルク軍事法廷（NMT）が記録したものである。それは、1946年から1949年にかけてアメリカが行なった裁判であり、ナチス指導部に対する12の事件を扱っている。そのうち、ガス処刑説の点でもっとも重要であるのは、1947年の大半を費やしたケース4「強制収容所事件」である。検事側が提出した700の資料のうち、ガス室に触れていると思われるのはわずか4つと解釈できる。NO-4473のいわゆる「Vergasungskeller（ガス処理室）」書簡、「gasdichte Türme」として特定されている「3つのガス室」に関する書簡NO-4465、グロース・ローゼン強制収容所での「Entwesungskammern」として特定されている「絶滅室」の建設に関するNO-4344と4345である[305]。

　これらの資料のうち二つは明らかな誤訳であり、残りのものもその可能性がきわめて高い。すでに見てきたように、「Entwesungskammern」は標準的な害虫駆除室であり、絶滅ガス室とはまったく関係がない。同様に、「gasdichte Türme」も「ガス気密小塔」とか「ガス気密台」と訳すべきであって、「ガス室」とはまったく関係がない。最後に、すでに見てきたように、「vergasen（ガス処理する）」は、アウシュヴィッツの資料の中でさえも「begasen（燻蒸する）」の同義語であり[306]、絶滅ガス処刑とは必ずしも関係がない。これらの資料のうち少なくとも二つは、明らかに誤用されいるという事実は、戦後すぐの時期に、ガス処刑説が、ドイツ側資料をまったく文脈から切り離して、無知のまま誤用することによって支えられてきたという主張を立証している。

　このためであろうか、今日では、大量ガス処刑説を支持する議論は、上記のような誤りにあまり依存せずに、大量ガス処刑の実在を、直接ではないが、示唆しているような二次資料に依存している[307]。

　その一例はリガの状況に関するいわゆるヴェツェル・ローゼ書簡の下書き、ニュルンベルク軍事法廷にはNO-365として提出されているものである。下書きには、大量のユダヤ人を労働管理局に収容することが触れられており、適切な「vergasungsapparate（ガス処理装置）」をそなえた「Unterkünfte （宿舎）」を建設する必要性を議論している[308]。害虫駆除に関する文献のの文脈から見れば、これは明らかに、衣服の害虫駆除のための標準的な「害虫駆除室（Entwesungskammern ）」を備えた労働局管理局の建物に関するものである[309]。しかし、この資料は、このような解釈をする物的・資料的な証拠がまったくないにもかかわらず、また、リガにはガス室がなかったにもかかわらず、殺人ガス処刑計画の証拠としてしばしば提出されている[310]。

もう一つの事例は、1942年9月初頭にアウシュヴィッツに到着したクレマー博士の日記である[311]。日記は、「ブロックの燻蒸・ガス処理（vergasungs eines Blockes）」という明白な内容で、チクロンBに一回言及している。ついで、チフスが収容所に蔓延し、数千の人々を殺しているときに、西ヨーロッパのユダヤ人が次々と収容所に到着している様子を記録している。しかし、この資料は、曖昧な点はないにもかかわらず、大量ガス絶滅作戦の証拠としていつも提出されている。二つの個所がよく引用されている[312]。

 

「1942年9月5日、女性強制収容所（ムスリム）からの特別行動に参加。もっともおそらしい恐怖。軍医ティロは、世界の肛門であると私に話してくれたが、それは正しい。夕方8時ごろ、オランダからのもう一つの特別行動に参加。1/5リットルの酒、5本のタバコ、100グラムのサラミとパンが特別配給されるので、みんながこの行動に参加したがっている。」

「1942年10月18日日曜日、今朝、寒いなかで第11回特別行動（オランダ）に参加。おそらしい光景、3人の裸の女性がわれわれに命乞いをした。」

 

  クレマーがここで記述しているのは、病院への収容、害虫駆除、さらには安楽死のための選別のことであろう[313]。しかし、ガス処刑が記述されているとはまったく考えられない。例えば、特別行動は戸外で行なわれたようであり、SS隊員は特別配給を求めて、この仕事に殺到している。ペリー・ブロードの記述によると、これはまさに、新しい輸送の補助の報酬としてSS隊員に与えられたことに関する記述であり、大量殺害やガス処刑の補助に関しての記述ではない[314]。さらに、ガス処刑は戸外では行なわれず、また、多くの人員を必要としなかったはずである。すなわち、ガス処刑でのSSの役割は、チクロンの缶をシューターのようなものを通じて投下する1、2名に限られていたはずである[315]。

  大量殺人の噂に脅えるオランダ女性もいたはずである。トーマス・マンは9月27日にガス処刑（とくに列車でのガス処刑）の噂を放送で流していた[316]。さらに、アンネ・フランクは10月9日にオランダで「イギリスのラジオ」からガス処刑の噂を聞いている[317]。その他のヨーロッパのユダヤ人も、戦争中を回想して、BBCをいつも聞いていたと述べている[318]。だから、オランダからの移送者の多くが、この種の噂については知っていたに違いない。そして、オランダ系ユダヤ人は収容所制度の中で多くの生命を失っているので、これらの人々のその後の運命にかかわらず、この場合のオランダ女性の反応が、パニックとヒステリーの一種ではないかと疑う十分な理由がある。さらに、クレマー博士は、日記の戦後の所在を尋問官に話しており、その中身が自分を救うと信じていたという事実もある[319]。

  ガス処刑説の資料的な根拠が乏しいために、このような事例は、非常に多いというわけではないが、何回となく増幅されてきた。単純な事実だけが残っている。すなわち、ニュルンベルクやアウシュヴィッツ裁判では、大量ガス処刑が行なわれたとする多くの資料が提出されたが、その大半は、ドイツの害虫駆除・消毒殺菌手順に言及している既知の資料か、大量ガス処刑が起こったという解釈を生み出せる余地のあるような資料にすぎないのである。注目すべきは、これらの資料を、大量ガス処刑説を立証する手段として使っている人も、チクロンBが防疫に使われていたこと、ドイツの害虫駆除措置、あるいは疫病の大流行が収容所で数十万を殺したことをいくぶんか認めるようになってきたことである[320]。

  同じような事情が、絶滅計画自体を立証していると主張している資料にもあてはまる。これらの大部分は用語の置き換えをしている。ドイツは、ヨーロッパにおけるユダヤ人問題の最終解決（Endlosung） を達成するために、ユダヤ人を東ヨーロッパに移送し（Evakuierung zu dem Ost, umsiedlung）、特別行動（Sonderaktionen）――そこでは選別が行なわれる（Selektionen）――を介して、健康な者を労働に、不適切な者を強制収容所に追い立てる政策を実行していた[321]。しかし、ヘトルとヴィスリセニイの主張したがったガス絶滅にもとづく解釈によると、これらの用語はすべて、ガス絶滅を意味するコード言語であるというのである。

  しかし、その他の多くの資料はこのような解釈を否定している。例えば、以下の文章は、「最終解決」が1年中実行されていた1942年夏の資料からの抜粋である。

 

「のちにどのような措置が取られるにせよ、ユダヤ人を統制するために、ユダヤ人長老会議が設立され、それは、同僚のユダヤ人（Rassengenossen）を指導する点で治安警察と保安部に責任を負っていた。さらに、ゲットーへのユダヤ人の登録・収容が始まっていた。・・・このような措置によって、ユダヤ人問題の最終解決の基礎が、白ロシア地域（Weissruthenien）ですえられてきた。」[322]。

 

  また、ヒトラー自身も1941年秋にこう語っている。

 

「私は（1939年に）、国会の演壇から、戦争が必然であるとしたならば、ユダヤ人はヨーロッパから姿を消すであろうとユダヤ人に対して予言した。この犯罪者の人種は第一次大戦での100万の死者と、さらに今では数十万の死者について気に病んでいる。誰かが、同じようにわれわれはロシアの沼地に彼らを置き去りにすることはできないと私に語るようにしてはならない。誰がわれわれの部隊について心配しているのか。ところで、われわれがユダヤ人の絶滅を計画しているという噂があるが、それは悪い考えではない。テロルは有益な手段である。」

 

  このテーブルトークでヒトラーの話を聞いていたのは、ヒムラーとハイドリヒである。だから、この文章をそれが語っている以外のこととして読むためには、ヒトラーが反ユダヤ政策の二つの柱を偽っていると判断せざるをえない[323]。また、ロシアの「沼地」とは白ロシア（ベラルーシ）を指していると指摘しておくことも重要である。

  最後に、最終解決を大量殺害政策と解釈することも、ニュルンベルクについての最近のディヴィッド・アーヴィングの著作にある資料からも否定されている。このなかで、書記官のフランツ・シュレゲルベルクは、1942年春に、ハンス・ラムマース博士が電話で、ヒトラーは戦争が終結するまで最終解決は延期されると何回も語ったと教えてくれたと述べている。この資料は長年失われていた[324]。

  だから、これらの資料には絶滅計画が含まれていると主張するには、これらの単語がいつ絶滅を意味し、いつ意味していなかったのかを明らかにしなくてはならない。とすると、こうした条件のもとで、ドイツの官僚制度が機能することができたのかどうかという問題が生じるであろう。

これらの資料が国際軍事法廷に提出された1946年初頭、多くの目撃者の話が公表・配布されるようになった。オルガ・レンギルの『私はヒトラーの焼却炉から生き残った（5つの煙突）』、ミクロス・ニーシュリの『アウシュヴィッツ：医師の目撃証言』などである[325]。

  これらの文献を検証すると、水準の低い読者層に訴えるような、意図的にセンセーショナルなスタイルで書かれていることがわかる。例えば、レンギルの本は、イルマ・グレーゼ、彼女と悪名高いメンゲルレ（ママ！）博士との情事、グロテスクな医学実験、女性収容者のあいだでのレスビアン事件などのぞっとするようなゴシップに満ちている[326]。ニーシュリは際限もなく、様々な材料を提供して、大量殺害の存在を信じ込ませようとしている[327]。しかし、ニーシュリの本はすべてのホロコースト史家の重要な資料とみなされている。彼の本が西側で有名になった1953年には、彼は死んでおり、もはや、彼に反対尋問することはできなくなっていた[328] 。

これらの本は二つとも、偶然にもハンガリー人医師によって書かれているが、アウシュヴィッツに関するソ連特別委員会報告の影響を受けていることは明らかである。犠牲者の数（400万）だけではなく[329]、ガス室や焼却棟の配置、焼却壕の配置の記述[330]、多くの医学実験の記述からもはっきりとしている。事実、ソ連報告と関連させて読むと、これらの二つの本は報告を小説化したようなものに見える。しかし、ソ連報告が語っていない点、すなわち、ガス処刑の実際の配置と実行については、レンギルとニーシュリ両博士は誤りをおかしている。ニーシュリ博士は焼却棟とガス室の規模について多くを記しているが、それらは明らかに誤りである[331]。レンギル博士は、ガスの結晶は部屋の上の落し戸から投げ込まれ、ガラスののぞき穴が作業の進行を観察するためにこの落し戸につけられていたと記しているが、これは今日の定説と矛盾している[332]。

  このようなセンセーショナルで不正確な記述が、ガス処刑説に関する知識を広めていくにあたって、もっとも一般的な媒体であったことは疑いがない。しかし、前述したように、アウシュヴィッツその他の収容所に関するソ連特別委員会の教会法的なホロコースト論が、全面的にそうだとは言わないとしても、ここでの議論に影響したのである。だから、これらの記述の歴史学的な価値は当然低くなる。

   しかし、時間が経つにつれて実際に起こったのは、誇張された説が、センセーショナルな感情に訴えようとする人々によって、増幅され、ニュルンベルク裁判自体と同じような権威を持つにいたったことである。理由は単純である。十分な資料的・物的証拠もなく大量ガス処刑説を受け入れてしまえば、焼却される死体から集められた溶けた人間の脂肪の流れ――そこから石鹸が作られたり、焼却を早めるために汲み取られて、ふたたび投げ込まれた――という話を否定できなくなるからである[333]。

  1946年秋、国際軍事法廷は最終判決を下し、ガス処刑説と石鹸製造説を確証した[334]。これが歴史の記録のなかに公式に入ると、もはやこれ以上の証拠は余分であるとみなされるようになった。しかし、前述したように、証拠としてニュルンベルクに提出されたものはほとんどなかったのである。

  大量ガス処刑説の最大の問題点は、それはわずかな証拠の上に組み立てられている、あるいはまったく証拠がなくて組み立てられているということではない。むしろ、この説を立証するような証拠が、50年間もまったく提出されていないということである。過去数年間に多くの文書が研究用に公開されてきた。イギリス政府は、ウルトラ暗号の多くや、秘密に記録されたドイツ人囚人のあいだでの会話の記録を、研究用に公開してきた[335]。こうしたテープや暗号によると、大量射殺は1941年夏には知られていたこと、これに参加したSS将校の自白があること、アウシュヴィッツなどの秘密収容所の無線交信があることが明らかになっている。しかし、ガス処刑に関する記録はまったくないのである。

  このことは、歴史家にとっては深刻な問題であるはずである。ニュルンベルク裁判の資料だけをもとにしてガス絶滅説を維持することは、ガス処刑が、秘密の無線交信やオフレコの会話にさえも記録が残っていないほど、巧妙かつ狡猾に実行されたと主張することでもあるからである。ガス処刑説が広く広まっているために、それを否定することは、ガス処刑説を作り出した陰謀の咎でユダヤ人を告発することであるといわれてきた。しかし、真実は別のところにあるのであろう。証拠がないことを念頭に置けば、証拠のない理由を説明しなくてはならないのは、大量ガス処刑が起こったと主張している人々なのである。彼らこそが、大きな陰謀が存在したと主張することをやめるべきなのである。

第10章  安楽死キャンペーンにさかのぼる

  前述したように、1946年春を通じて、ガス処刑説は、権威のある報告、裁判所の「既知の事実」から重みをえながら、一般的なペイパーバック、写真誌、ニュース映画というメディアを介して直接広く受け入れられつつ、進化し続けていった。2年後、この説は、今ではよく知られているシャワー・ガス・焼却という連鎖過程にしがみつくようになった。そして、1944年夏初頭、この説は収容所という物理的事実にしっかりと結びつくようになった。1946年夏までに、大量ガス処刑説は、「一般常識の事実」として、すでに4年間も人々の意識の中に入り込んでいた。直接の物的・資料的証拠が提示されたことはまったくなかったにもかかわらずである。1946年7月に始まる次の進展は目を見張るものであった。ガス処刑説、とくにシャワー・ガス・焼却という連鎖過程は1942年春以前の時期にまで、とくに、民族社会主義者の安楽死計画にまでさかのぼってきたのである。

   1939年秋に始まる安楽死キャンペーンが存在したことには疑問の余地はない[336]。この計画はおおやけに議論されたものではなかったが、狂人、重症の精神病患者、重症の身体障害者、あるいは不治の病におかされた人を慈悲で殺害することを意味していた。また、この計画には、極度の障害を抱えた子供を安楽死させることも含まれていた[337]。犠牲者が重症の精神病患者あるいは重症の身体障害者に限られていたことに留意しておいていただきたい。安楽死シナリオは1946年秋に登場してくるからである[338]。

  安楽死計画は多くの噂を広め、ドイツ国民のあいだにも強い反対があったことを示している。1941年12月、トーマス・マンはBBC放送で、すでに1万人が安楽死計画にしたがって毒ガスで殺されたと論じた[339]。それ以前にも、1941年に噂が広まっており、カトリックの僧侶が計画に強く反対するコメントを出した。このなかでもっとも有名なものは、1941年8月3日のミュンスター枢機卿フォン・ガレンの説教で、精神病患者が死に追いやられているという説にふれて、それを強く非難していた[340]。どのような方法によってかということはふれられていなかったが、死者はすべて焼却されたという事実が人々の心に刻まれた。そして、これだけでも疑惑を生んだのである[341]。

  10日後、リンベルク僧正が司法大臣に手紙を書いているが、このことは噂が子供にまで伝わっていることを示している。そして、またもや、焼却が噂のもとであった。

 

バスが多くの犠牲者を乗せて、週何回もハダマルに到着した。小学生はこれらの乗り物のことを知っていて、「殺人バスが着いた」と話している。この乗り物が到着すると、ハダマルの市民は煙突から煙が立ち上るのを目にし、哀れな犠牲者のことを考え、風向きによっては、実にいやな臭いをかがなくてはならないことを知って、不安におちいった。子供たちは喧嘩をすると、「お前は太っているから、ハダマルのかまどに放り込まれるぞ」とののしったという[342]。

 

  焼却（火葬）からの悪臭と煙に言及していることは不正確な誇張であることに留意すべきであるが、焼却（火葬）について少し述べておかなくてはならない[343]

  1941年初頭に登場したのは、安楽死計画に関する噂であって、噂の焦点はいつもの連鎖過程のなかの焼却という要素であった。もっとさかのぼると、1940年からの噂があり、それは全体図を理解するのを助けてくれる。ウィリアム・シャイラーの『ベルリン日記』は1941年6月に刊行されているが、その1940年11月25日の項目に、次のような一節がある。

 

「最近、地方にいる情報提供者が、新聞に記載されている特別な死亡記事に注意を向けるように促してくれた。

  また、不幸な犠牲者の親族が、灰が戻ってきたとき――遺骸は返されなかった――、秘密警察から、説明を求めないように、誤った噂を広めないようにとの厳しい警告を受け取ったという情報もある。・・・

  厳しい検閲下のもとにある新聞の行間を読むことになれているドイツ人には、これらの（死亡）記事がきわめて疑わしく思われたのも不思議ではない。・・・なぜ最初に死体が焼却され、その後、親族に死亡が伝えられたのであろうか。なぜ完全に焼却されたのであろうか。なぜ、通常とは異なって、遺骸が返されなかったのであろうか。

  数日後、私は、犠牲者の家族が受け取った手紙を見た。そこにはこうあった。『政府の命令によって私たちの研究所に移送されたあなたの親族が突然他界されたことを謹んでお知らせします。私たちの医学的な努力は、残念ながら、無駄になってしまいました・・・伝染の危険があるために、私たちは、警察の命令で死者をすぐに焼却しなくてはなりませんでした。』

  これは、納得のいくような手紙ではなかった。・・・だから、何人かの親族がそれを受け取るとすぐに、グラフェネクの孤城に赴いた。・・・黒い制服を着たSS隊員が城を警備しており、入ることを拒否した。荒れ果てた場所にいたるすべての道や小道には新しくペンキで書かれた「危険、伝染病！」という警告標識があった。・・・・・・・・

  依然として不可解なのは、これらの殺害の動機である。ドイツ人は三つの説を出している。

  1．食料を節約するために実行されている。

  2．新しい毒ガス、死の光線の実験のために行なわれている。

  3．過激なナチスが自分たちの優生学的・社会学的思想を実行したために起こったことである。

  最初の説はまったく馬鹿げている。10万人を殺したからといって、8000万人の国民の食料を節約することにはならないからである。さらに、ドイツでは食糧は不足していない。第二の説は、私は疑問を抱いているが、有り得る話である。毒ガスがこれらの不幸な人々を即座に殺すために使われたのかもしれない。しかし、そうだとしても、実験は偶発的にすぎない。私が話したことのある多くのドイツ人は、身体を損傷する新しいガスが使われており、このために、犠牲者の死体が焼却されていると考えていた。しかし、これについても、まったく証拠がない・・・」[344]

 

  このようにみてくると、遅くとも1940年秋には、安楽死計画についての様々な噂が飛び交っていたことがわかる。犯罪的とみなされていた焼却（火葬）との連想があり、この連想が今度は、犠牲者の身体を損傷してしまう毒ガスと死の光線の噂を生み出している。しかし、これらは防疫に関係した話である。最初の話は、政府がすみやかな焼却を認めていたことと関連しており、シャイラー報告にある標識は、検疫の標識のことであろう。すでに見てきたように、よく知られている連鎖過程のうち焼却の要素がこの時期に登場してきており、この要素が今度はガス処刑の要素を広めていった。疫病と防疫措置への恐怖との連想は見てとれるが、まだシャワーの要素は登場していない。

  1946年7月、コンラード・モルゲンは、大量ガス処刑の責任からSSを免れさせようとする宣誓供述を行ないはじめた。この宣誓供述から、大量ガス処刑の手順を安楽死ガス処刑の噂に結びつけようとする試みが始まっている[345]。ここで提出された証拠は、その当時には十分なものとみなされていたが、直接の物的・資料的証拠ではなく、戦後の証言から作り上げられている[346]。

 

 「到着者の数は、40－150名と様々であった。最初に彼らが連れていかれたのは、脱衣室であった。ここで、男性と女性は別々の区画で服を脱がなくてはならないか、脱がされた。彼らの衣服や手荷物は山積みにされ、ラベルを貼られて登録された。ついで、裸の人々は通路を通っていわゆる受付室にむかった。・・・ついで、人々は二番目の出口から受付室に導かれ、そこから、鉄製のドアを通ってガス室に導かれた。ガス室にはほとんど調度品はなかった。木の床があり、木のベンチがおかれていた。のちに、床はコンクリート製となり、最後には、床と壁はタイル張りとなった。天井や壁の他の部分はオイルを塗られていた。部屋全体は、浴室であるかのような印象を与えるように作られていた。天井には三つのシャワーが付けられていた。換気扇が部屋の換気をしていた。第二の鉄製のドアは、ガス装置が設置されている部屋につながっていた。・・・ドアが閉じられ、勤務中の医師がガスをガス室に供給した。短時間で、ガス室のなかの人々は死亡した。

  約1時間半後、ガス室が換気された。この時点で、われわれ焼却人が仕事を始めなくてはならなかった。その話をする前に、ガスをガス室に供給することに関して、少々述べておきたい。ガス室の隣に小部屋があり、ここに多くの鉄のボンベがあった。このボンベにどのようなガスが入っていたのか、それがどこから来たのか、私は知らない。缶の中味はゴム管を通じて鉄管に供給された。ボンベの上には、圧力ゲージがあった。ガス室が満杯となると、医師がボンベのところにいってタップを開いた。ガスは直径15－20ミリのパイプを通ってガス室に送り込まれた。前述したように、ガス室とガス・ボンベ室のあいだには鉄のドアがあった。3番目のドアは、ガス室から庭に向かっていた。これらのドアの周囲は煉瓦であり、ガス室へののぞき穴があった。こののぞき穴から、ガス室で起こっていることを見ることができた。」

 

  この証言は1946年とそれ以降に広まったが、注目すべきことは、教会法的なホロコーストによる手順と酷似していることである。まず、バスか列車で人々が到着する。彼らは男性と女性に分けられる。彼らは脱衣室に導かれ、手荷物は分類・登録される。ついで、シャワー室に案内され、そこでガス処刑される。最後に、彼らは焼却される。もう一つの注目すべきことは、その内部構造の記述が、マイダネクの害虫駆除施設と非常によく似ていることである。のぞき穴を持った鉄製のドア、どこにもつながっていない小さな管――ここではゴム管でボンベの一酸化炭素とつなげられている[347]――、ガス室につながるのぞき穴を持った二つの鉄製のドア――そのうちの一つは、明らかな理由なく、外に向かっている――、コンクリートの建物の表面を覆う煉瓦である。

  こうした証言には、二つの根本的な問題点がある。一つは、この当時すでに普及していたシャワー・ガス・焼却という連鎖過程をたんに繰り返しているにすぎないことである。もう一つは、絶滅手順についての考え方に論理性がまったくないことである。

  ここで、東部地域に移送される人々を絶滅するために、シャワー・ガス・焼却という連鎖過程が進化していったと仮定してみよう。その手順には論理性があるはずである。すなわち、狭い閉鎖されたスペースに人々を押し込むことができるように、犠牲者を欺く手段が必要であり、そして、害虫駆除手順が理論的には、こうしたごまかしをカバーするものであった[348]。しかし、こうした手順は安楽死計画の犠牲者には無意味なことであろう。多くの人々は合理的な思考をすることができず、こうしたごまかしは必要なかったであろうから。まして、多くの人々は立っていることもできなかったはずだからである。シャワー室にカモフラージュされた部屋でガス処刑を待って立っていることについては言うまでもない。

  ここには、ごまかしの混同が見られる。人々を部屋に誘導するごまかしは、人々が一酸化炭素ガスで死を予兆せずに、苦痛を感じずに処刑されるようにするごまかしとは同じではない[349]。シャワーという調度品は、安楽死計画の犠牲者を一酸化炭素で死に追いやるごまかしにはふさわしくないのである。さらに、絶滅ガス処刑される犠牲者が、死んでいくことを知らなかったとする証言もまったくない。

  その結果、安楽死計画の目撃証言には相互矛盾がある。一方では、犠牲者はシャワー施設に向かい、その後数分のあいだに、ベンチに横たわって、知らないうちに死の眠りへと向かうという話がある[350]。また一方では、死の苦しみは10分間それ以上つづき、おそらしい光景が生じたという話がある[351]。そして、矛盾が別の矛盾をもたらしている。ドイツでの安楽死計画の犠牲者は、疫病が蔓延している地域を通過しているのではなく、多くの場合、精神病院やサナトリウムから移送されてきているにすぎない。害虫駆除手順は必要ないのである。明らかに、あれこれの理由から、シャワーはベンチとともに備えられたのである。言い換えれば、証言の記述によれば、シャワー室はスチーム・バスに改造されたのである。しかし、スチーム・バスのシャワーヘッドの目的は何であろうか。

  にもかかわらず、医師団裁判での連合国検事にとっては、これは意味を持っていたに違いない。国際軍事法廷の判決によって、東ヨーロッパの数百万の人々が、シャワー・ガス・焼却という連鎖過程で絶滅されたことは裁判所の顕著な事実となっていた。そして、数千が安楽死計画のなかでガス処刑され、焼却されたとの証言が登場する。だから、シャワーという要素が安楽死計画にもなくてはならなかったのであり、必要なことは被告から――裁判では命と引き替えに――これらの事実に関する自白を引き出すことであったに違いない。ニュルンベルク裁判では、ヴィクトル・ブラク博士の尋問の最中に、奇妙な尋問がある。

 

 「 質問：これらの人々は、シャワー浴室に行くと思っていたのですか。

  ブラク：考える能力を持っていたとすれば、そう思っていたに違いありません。

  質問：彼らは、服を持ってシャワー室に入ったのですか、それとも、裸であったのですか。

  ブラク：裸でした。

  質問：いつでもそうでしたか。

  ブラク：私が見たときには、そうでした。」[352]

 

  こうした証言の時期の順番がどうであったか、そしてシャワー・ガス・焼却という連鎖過程がどのように進化したのかを考えると、安楽死計画でのシャワー・ガス処刑の記述は明らかに、別のところから移植されたのである。すなわち、収容所からのシャワーという要素が、実際には適切ではないにもかかわらず、別の状況にさかのぼってあてはめられたのである。

   同じようなことが第一次大戦の戦争プロパガンダでも起こっている。当時、ドイツ兵がベルギーの子供たちの手を切り取っているという伝説が生まれた[353]。もちろんこの説は虚偽であり、さらに、このようなことをしなくてはならない論理的な理由も明らかにされなかった。しかし、20世紀への転換期にさかのぼってみると、似たような話のもとを発見することができる。1903年、ロジャー・ケイスメントは、ベルギー領コンゴでレオポルド国王の大土地所有者たちが行なっている残虐なやり方を暴露した[354]。ここには、殺した証拠を提示したと思われる狩人が関係している。犠牲者の手がその証拠であった。ここから、戦利品としての手が入った袋に関する話が、このスキャンダルでは有名になった。このやり方はグロテスクではあるが、現地の状況では、それなりの意味を持っていた。この話が、ベルギー領コンゴから1914年にはベルギー本国に持ち込まれ、それを行なった犯人がドイツ兵に変わってしまった。しかし、話が伝わっていくにつれて、その話は非論理的になっていった。

  安楽死計画が存在しており、ガス処刑計画を暗示していたために、安楽死計画のシャワー・ガス・焼却という連鎖過程が、年代的には遅いが、噂の面では早かった大量ガス処刑説の強力な証拠となった[355]。しかし、安楽死計画の連鎖過程の記述の方が時期的に遅く、すでに教会法として定説になっていたシャワー・ガス・焼却という連鎖過程の影響を受けており、またも、物的・資料的・物理的証拠はまったくないのである[356]。

  しかし、安楽死の噂には、その後の事件の進行の影響を受けていると思われる要素もある。焼却棟からの悪臭と煙、「殺人トラック」の二つである[357]。安楽死計画に対してフォン・ガレン僧正が抗議していたときに、ガス処刑の噂がポーランドでなされており、この二つとも6月に発表されたシャイラーのガス処刑に関する噂に続いていることは重要である[358]。防疫措置が安楽死計画を隠し、焼却を正当化するためにとられたと考えられ、20世紀への転換期からの害虫駆除の噂に類似した噂を呼び起こしたのかもしれない[359]。しかし、機密保持と焼却のために防疫措置を実行することは外の世界に向けられてのものであったことは明らかである、このような入念な細工を計画の犠牲者自身にほどこし続けることにはまったく理由がない。だから、シャワーという要素が安楽死計画に存在することは無意味なのである。

  このように見てくると、ガス処刑という要素が安楽死計画に存在していることに立ち戻らざるをえない。知ってのとおり、ガス処刑は、身体を損傷させ、その痕跡を隠すために焼却を必要とするために、1940年秋には噂にのぼっていた。ガス処刑には、その他の理由もなく、その他の証拠があるわけでもない。だから、焼却の疑惑と毒ガスによる損傷の恐怖が、当時のガス処刑説の本当の源なのである。したがって今度は、1930年代の焼却と毒ガスに対する社会的・文化的反応を検討しなくてはならない。

 
第11章  毒ガスと焼却（火葬）への恐怖

  焼却（火葬）を支持する近代的な主張が登場したのは、民族社会主義者の独裁が始まる60年ほど前のことであった[360]。二つの要因が焼却という措置を支持していた。埋葬地の慢性的欠乏、および防疫を含む衛生学的な必要である[361]。一方、キリスト教徒もユダヤ人も遺骸への配慮を望み、死後の世界に希望を託したので、これに強く反対し、暴力的な反対が起こることもあった[362]。このために、20世紀に入っても、焼却の普及は緩慢であった[363]。

  焼却（火葬）を支持する声は19世紀末から20世紀初頭にかけて高まっていった。とくにドイツでは、合理性、近代性、公共衛生と結びついていた[364]。1920年代初頭には、ドイツの死者の2％以下が焼却されていたが、1930年には、その数は7％以上となった[365]。民族社会主義政府は、焼却を伝統的な埋葬と同じレベルにおく1934年の法律によって、その普及を支援した[366]。その後、多くの人々が、このやり方の急速な普及についてコメントし、それは「近代生活の完全な機械化」であると指摘した[367]。伝統的な生活からの決別というわけである。しかし、ここで考えておかなくてはならないのは、庶民の生活の急速な変化が、庶民の生活感にどのような影響を与えたかである。焼却に対する恐怖は、伝統的な信仰に衝撃を与えた急激な文化的変化と関連していたに違いない[368]。1884年に、ドイツの社会民主主義者アウグスト・ベーベルは「近代世界は反キリスト教的世界である」と書いているが、彼は遺言にしたがって、1913年に火葬に付された[369]。

  焼却に対する懸念があったためであろうか、このやり方は多くの珍説の焦点となった。その一つは、死体を焼却してしまうと、死因の調査が不可能となってしまうので、焼却には疑惑があるというものであった[370]。だから、あらゆる殺人、毒殺その他を秘密に実行できるというのである[371]。ドイツ国民の疑惑をかき立てたのはこの要素であった。とくに、民族社会主義政府が、人口過剰のドイツのために火葬を奨励しただけではなく、すべての収容所でそれを義務づけたのちにはなおさらであった[372]。

  焼却についての第二の側面は、リサイクルに関するユートピア的空想と結びついていた。1932年、オーダス・ハクスレイは、否定的なユートピアを描いた『勇敢な新世界』のなかでこの考え方をはっきりと表明している。

 

「彼らの目は、（列車）の南コースに続いて、暗い平原の向こう側のスロウ焼却棟の堂々とした建物に向けられた。夜間飛行中の飛行機の安全のために、その四つの高い煙突にはおびただしいほどの光が注がれており、そのてっぺんには赤い危険信号が付けられていた。それは標識であった。

  『なぜ煙突の周囲にはバルコニーのようなものが付いているの』とレーニナが尋ねた。

  『燐の回収。ガスは煙突を上るにつれて、四つの段階を経過する。酸化燐は煙突からすぐに出てくる。その98％を回収する。成人の死体に1キロ半以上。イギリスだけで400トンの燐を作り出している』とヘンリーは電文のように説明した。ヘンリーは、まるで自分のことであるかのように、幸せなプライドを持って、心から、その成果を喜びながら話した。『死んでからも、社会的に役に立つことができるなんて、何と素敵なのだろう。植物を生長させるなんて。』」[373]。

 

　焼却は、リサイクルやさまざまな悪意のある動機付けと結びついていただけではない。この手順についての一部の諸説は、大戦中や終戦直後に登場したドイツの技術的革新ひいては医学的革新に関する空想的な諸説と容易に結びついてしまった。たとえば、ソ連はニュルンベルク裁判で、ドイツの医師は注射を使って癌を移植する技術を完成させたと主張しており[374]、パットン将軍は、自分の回想録の中で、ドイツの医師は脳を肉体から切り離したまま、生かすことができたという説をまじめに受け取っている[375]。ドイツの宇宙ステーション計画が発見されたとき、それは、ドイツの宇宙計画の中でのみ意味を持つはずなのであるが、アメリカのマスコミでは、太陽光線を凝縮して地上にはねかえす巨大な鏡を使って、都市を焼き尽くし、「海の一部」を沸騰させる計画として報道された[376]。ドイツがいわゆる「太陽光線銃」を開発していたのではないかという憶測は、連合軍パイロットのヒステリーと符合していた。1944年秋から連合軍パイロットは、ドイツ上空で自分たちの飛行機の後を追う小さなボールのようなものを報告し始めていた。これらの「Foo　Fighters」や「ドイツ野郎のボール」は、セント・エルモの火程度のものであったかもしれないにもかかわらず、ドイツが連合軍飛行機の電気システムを妨害するために発射した遠隔操作の飛行物体という話となった。

　焼却は、ドイツの焼却棟が持っているとされた空想的な焼却能力のために、技術的な迷信を生み出していった。終戦直後には、ドイツの焼却炉は、わずか1日で数千の死体を焼却できた[377]とか、ドイツは燃料を使わずに、戸外で数千の死体を焼却する「特別な手段」を案出していた[378]とか主張する証言は普通のことであった。また、「ドイツ的な手段」を使って、普通ならば数百しか収容できないスペースに、ガス処刑のために、数千の人々を詰め込んだというような証言もある[379]。

　一つの文書資料に依拠して、死体を15ー20分で灰にできたという焼却率についての説があるが[380]、イタリア人研究者マットーニョによると、事実はまったく逆である。死体の焼却には、たんぱく質の焼却に40分ほどかかり、骨を灰にするにはさらに20―30分かかるのである[381]。このような事実を考慮し、さらに、最近イギリスの焼却専門家が行なった実験にもとづくと[382]、実際的な方法で推定したドイツの焼却棟の1日の処理能力は、数千ではなく、数ダースであるとの結論にたどり着かざるを得ない。焼却棟の存在は絶滅の意図が存在した証拠であるとの主張が、今日まで、何回もなされているけれども、以上のような考察をすれば、そうではありえないのである。

　連合国がドイツの技術的進歩について誇張された考え方を抱くようになったことには、ドイツの指導部にもかなりの責任がある。驚異的な兵器が戦争の流れを変えるであろうと語り続けることで、銃後の士気を維持することができたからである。一方、ドイツ兵器技術は、ジェット機、ロケット機、巡航ミサイル、誘導ミサイルなどを実際に開発してきた。このために、連合国は、『ファシストの技術の最後の言葉』[383]にはまったく限りがないと信じるようになり、どのような主張でもありうることと考えられるようになった。たとえば、自然の法則を無視することができる焼却棟、すなわち「ガス炉」などである[384]。

　ナチス指導部、とくにヒトラーが、ドイツの技術力を誇張することで、心理的に優位な立場に立とうとしたこともある。たとえば、1940年5月に、ドイツ軍がベルギーに侵攻したとき、24時間でエベン・エメール要塞を占領したが、そのことは連合国を驚かせた。ヒトラーは、この成功をAngriffsmittelのおかげであると演説したが、その中身を明らかにしようとはしなかった。彼があいまいに公表したために、連合国では、この驚異的な兵器についての不安や憶測が生まれた。液体酸素爆弾、あるいは非致死的な神経ガス爆弾ではないかと考えられた[385]。実際には、このAngriffsmittelは、とくに複雑なものではなく、特定方向に爆発する爆弾に過ぎなかったのであるが、だからといって、当時の憶測が歴史家にとって無意味であるというのではない。それどころか、このような憶測はその当時の雰囲気を反映しているがゆえに、ドイツの技術・科学革新に対して広い信仰が生まれていたこと、毒ガスも含む特定の兵器に広く関心が向けられていたことを明らかにしているのである。

  毒ガスは、焼却以上に恐れをかきたてた。第一次大戦では毒ガスが広く使われ、そのために、100万以上が負傷したが、この恐れがこのことに直接関連していたに違いない[386]。第一次大戦では多くのガスが使われたが、そのなかでも、とくに二つのガスが人々の想像力をかき立てたようである。その第一は一般にはマスタード・ガスとして知られている水膨れガスあるいは小胞発生ガスであり、それは犠牲者の身体を損傷し、傷跡を残してしまう点で悪名高い[387]。安楽死計画の噂が広まったとき、ドイツ国民がまず思いうかべたのがこのガスであったに違いない。

  第二は、シアン化水素あるいはシアンガスであった。戦争での使用はうまくいかなかったが、このガスは無臭で、目に見えず、人を即座に殺し、それゆえ、苦痛のないガスであるという奇妙な楽天主義が生まれた[388]。1924年にアメリカ合衆国が死刑にシアンガスを採用したことも、この楽天主義に影響を与えた[389]。

  両大戦間の文化を一瞥すると、毒ガスやその使用が文化的な風景の一部となっていたことがわかる。オーストリア人ヴィッキ・バウムの小説『大ホテル』――のちの1932年に映画化されて有名になった――はベルリン・ホテルでの事件を描いている。その語り手は医者であり、その顔は第一次大戦でのマスタード・ガスによってひどくただれていた[390]。パプストの『友情』（1931年）は、フランス人の仲間を助けるために勇敢にも国境にトンネルを掘るドイツ人鉱夫たちを描いた映画であるが、その映画のクライマックスには、傷ついたフランス人が、自分を救い出そうとするドイツ人を、ガスマスクを付けて、採炭用のヘルメットをかぶりながら、ガスの雲から姿を現した兵士とみなす幻影にとらわれる場面がある。この映画には、鉱山でのガス爆発の場面もあり、その爆発によってフランス人はドイツ人鉱夫の共同シャワー室に落ち込んだのである。ここにも、シャワーとガスとの連想という広くいきわたっていたイメージを発見する[391]。

  『ヴェルトベーネ』の批評家クルト・トホルスキイは、ドイツのブルジョアジーを攻撃した文書のなかで、反対派のガス処刑に言及し、家のなかに浸透して、子供、女、そして男を殺すガスのことを冷笑的に描いている[392]。そしてエルンスト・クレネクは、催眠術で国民を統制する独裁者のことを描いたオペラ『デア・ディクタートル』（1926年）のなかで、毒ガスによって盲目になった人物を描いているが、この人物は、身体の損傷と変色を強調しながら、毒ガス攻撃のおそらしさを歌いあげている[393]。

  1935年、イタリアがエチオピアに対してマスタード・ガスを使った空襲を実行した。このことは広く広まり、おそらく誇張されていると思われるが、毒ガスに対する意識をいっそう鋭敏にした。H.G.ウェルズの『来たるべきこと』――1938年の映画バージョン――も、毒ガスを使った空襲を描いている[394]。

　1938年秋、このころ、ヨーロッパは、ミュンヘン危機によって戦争の恐怖におののいていた。空襲への恐怖はひときわで、とくに、空からの毒ガス攻撃への恐怖はただならぬものであった。イギリス政府は、3800万のガスマスクの配布を準備し、艦隊が「黒い水曜日」に動員されたときには、ガスマスクの配給がパニックとなった[395]。これ以外にも、この危機のときの大衆の動きについては、二つの点が注目に値する。ひとつは、秋の霧の雲が毒ガスのように見えるかもしれないという噂が広まったこと[396]。もう一つは、塩素ガスを東ロンドンにばら撒く飛行隊の噂が、実際に何名かの病人を生み出してしまったという精神病理学的な反応である[397]。政府の精神学者委員会は、戦争が起これば、空襲と毒ガス攻撃による200万の死者に加えて、500－600万人がパニックやヒステリーの犠牲者となるであろうと見積もっていたのである[398]。

  1938年10月にラジオ放送された『宇宙戦争』は、近代の大衆ヒステリーのなかの有名な例であるが、ここでも、毒ガスへの恐怖が一定の役割を果たしている[399]。すでに、ミュンヘン危機があり、航空戦争を描く演劇が好評を博していた。こうした雰囲気のなかで、最新のフィクションにもとづく放送がニュージャージーへの火星人の襲来を放送し、それは、全国で数十万の人々にパニックを引き起こしたのである[400]。この放送では二つの点が注目される。一つは、人々は口を合わせたように、おそらしいほどの損傷を受けた、焼かれた死体を発見したということであり、もう一つは、毒ガスの雲がマンハッタンを移動して、それに触れた人々を殺したと放送が伝えたことである[401]。翌日の『ニューヨーク・タイムズ』の記事は、大衆の反応を考察する上で興味深い[402]。

 

「ラジオ聴衆、パニックにおちいる、戦争ドラマを事実と受け取る

　ヨーロッパでは戦争の脅威が迫っているとの脅しがなされており、ラジオはしばしば定時放送を中断して、チェコスロヴァキアの情勢を報道している。このような時期に行なわれた放送番組は、『放送内容』が空想的なものであったにもかかわらず、放送地区で恐怖とパニックを呼び起こした。

　最初、番組の中身を検証しようとした人々も多くいた。しかし、多くの人々は恐怖にかられて、どのようにしたらラジオ放送の忠告にしたがって、町から逃げることができるのか、地下室や屋根の上にいれば『ガス攻撃』に対して安全なのかどうか、子供たちをどのようにしたら守れるのかどうかを尋ねた。ミュンヘン協定が締結される前の緊張した時期に、ロンドンやパリの住民が心配して尋ねた質問であった。

 

『ニュージャージーが空襲！』

 

　ジャージー市警察は、このような電話を受け取った。一人の女性は勤務中のティモシー・グルーティ刑事に、『窓を閉めたほうがよいでしょうか』と尋ねてきた。一人の男性は、『警察は余分なガスマスクを持っているのでしょうか』と尋ねてきた。電話をかけてきた人々の多くが、放送番組がフィクションであるとなだめられても、誰を信じたらよいのかわからない様子で、何回も質問してきた。

　ニューヨークのヘデン・テラスとホーソーン・アヴェニューの事件は、この地区でもっともドラマティックな事件であり、地区周辺での交通渋滞を引き起こした。明らかに『ガス攻撃』を信じていた20以上の家族が移動しはじめ、警察に連絡した。救急車、3台の無線車、8名の警察緊急部隊が吸入装置を持って現場に出動した。

　これらの家族は、ヒステリーに顔をゆがめて、濡れた衣服をきていた。警察は彼らをなだめ、自動車に家具を積み込もうとしていた人々を制止し、しばらくしてから、交通渋滞をおさめることができた。

　イースト・オレンジ警察には、『ガス』を逃れる方法を問い合わせる200以上の電話がかかってきた。」

 

　当時のメディアも、ラジオが『宇宙戦争』という放送番組を広げるにあたって果たした役割を的確に指摘している。『ニューヨーク・ワールド・テレグラム』の編集局は、11月1日に次のように書いている。

 

「数千のアメリカ人が、おだやかな日曜日の夜に自宅でくつろぎながらも、H.G.ウェルズの小説『宇宙戦争』のラジオドラマ番組によって、正気を失い、恐怖にかられてしまうことは、奇妙であり、心配なことである。

　ウェルズ氏は、意図的に聴衆を不安に陥れようとしたわけではなかった。しかし、実際の戦争と災禍の恐怖――それもほとんど信憑性がないが――に神経が苛立ってしまっていたので、数多くのアメリカ人の聴衆が、火星人の集団がやってきたというまったく信憑性のない『ニュース』を信じるようになってしまった。」[403]

 

　コラムニストのヒュ―・ジョンソンは次のような意見を述べている。

 

「この事件は非常に重要である。大衆の精神状態を劇的に物語っている。多くの人々は、あからさまな宣伝によって、空襲や新兵器の新しい能力、魔術的な能力を信じてしまうのである。」[404]

 

　コラムニストのドロシー・トンプソンは、もっと強い論調である。

 

「事件全体を理性的に考察すれば、第一の教訓は、どのような政治団体も、いかなる状況のもとであれ、ラジオを独占してはならないということである。

　第二の教訓は、たとえ教育のある人々のあいだにあっても、わが国の初等中等教育・大学教育は、理性と論理を訓練することに失敗しているということである。

　第三の教訓は、科学的知識の大衆化は、懐疑的精神や科学的態度よりも、だまされやすい姿勢、新しい迷信を生み出してきたということである。

　第四は、大衆的宣伝の力は、今日では、もっとも強力な勢力であり、政治的デマゴーグはあらゆる経済的な勢力よりも強力であるということである。」[405]

　

　火星人の襲来の「生存者」の回想を読むと、ドイツ人、毒ガスその他についての一般的な態度を知ることができる。一人はこう回想している。

 

「アナウンサーは、火星から隕石が落ちてきたといいました。そして、彼は隕石だといっているが、それはカモフラージュではないかと考えました。すなわち、隕石のかたちをしたツェッペリンのような飛行機なのです。ドイツ人が、ガス爆弾で私たちを攻撃しているのです。」[406]

 

　また、あるカリフォルニア人はこう回想している。

 

「妻と一緒に北カリフォルニアのアメリカ杉の森をドライブしていたときに、自動車のラジオから番組が流れてきました。最初、ニュージャージーだけのことだったのですが、すぐに、物体はカリフォルニア全域に着陸しました。逃げ場所がありませんでした。ロサンゼルスに戻って、もう一度子供たちの顔を見ることだけを考えました。そのときがきたら、子供たちと一緒にいたかったのです。森の真中で、ガソリンがなくなりました。何もすることがありませんでした。私たちは腕を組んで、火星人という怪物が木のてっぺんに現れるのを待ちました。オーソン・ウェルズがこれはハロウィンの冗談ですといったとき、ガス室に向かう途中で刑の執行を停止されたような気分となりました。」[407]

 

  こうした恐怖は第二次大戦、とくにノルマンディー上陸作戦の頃にも伝えられていったに違いない。スラプトン海岸での予行演習の際に、連合軍はガス攻撃の可能性を想定していた[408]。そして、この恐怖はオマハ海岸での大失敗にも関係していたようである。海岸に釘付けにされたアメリカ兵は、茂みからの射撃を毒ガスの雲とみなしたのである[409]。1ヶ月後、ウィンストン・チャーチルは、覚え書きを口述し、そのなかで、これらの事件と、マスタード・ガスでドイツの都市と軍需センターを攻撃する可能性を論じている[410]。

  したがって、戦時中の人々が毒ガスへの恐怖心におそらしいほど取り付かれていたことには疑問の余地はない。しかし、毒ガスは、その他の毒と同じように、その実体がなかなか理解できないために、パラノイア的、ヒステリー的な反応を呼び起こしやすいということも指摘しておかなくてはならない[411]。

  例えば、臭いをもつガスを想定すると、どのような異臭も死のガスであると考えられてしまいがちである。バートン・ルーチェは、1971年にフロリダの学校でおきたヒステリー反応の事例を研究している。新しいカーペットが敷かれ、異臭を放つと、若い女性がインフルエンザにかかっていたために気絶した。すると、1時間のあいだに、数十名の学生が、毒にやられたとの病状を訴えたのである[412]。悪臭と毒との結びつきは、西ヨーロッパの文化に深く根ざしている。それは病気に関するしょう気理論や、女性のヒステリーの原因は「蒸気」であるというヴィクトリア時代の信仰と結びついているからである[413]。

  一方、目に見えない無臭のガスを想定すれば、毒ガスという言葉が出ただけで、それが使われたという話になってしまいがちである。湾岸戦争でイラクのスカッド・ミサイルがイスラエルに撃ち込まれたときに、このようなことが起こった[414]。

  最後に、身体を損傷するガスを想定すれば――これが第二次大戦中に人々が考えていたことである――、腐敗あるいは損傷した死体が発見されると、それは毒ガスが使われたためであるということになりがちである。このことは、連合軍の侵攻以後のドイツで起こった[415]。アメリカ軍とイギリス軍の兵士が西部地区の収容所を解放して、このような光景を見たとき、彼らは同じ理由から毒ガスが使用されたと疑ったに違いない[416]。

  西ヨーロッパでは、毒ガスの使用への恐怖は、第二次大戦以前に広まっていた。毒ガスは目に見える雲のかたちをして現れるとか、空から落とされるとか、無臭で目に見えないとか、人を即死させて、その身体を著しく損傷させるとか、というようなことが信じられていた。だから、毒ガスの使用を非難する文化が培われていたのである。しかし、このようなガスは空から運ばれてくるというのが恐怖の焦点であったのだから、ガス防衛が、ドイツの民間防衛の顕著な特色であったと予想しうる。そして、実際にもそうであった。

 
第12章  ドイツの民間防衛

  ドイツは数億ドルを防空シェルターの建設にそそぎ込んだ[417]。最初から、ドイツの防空シェルターはすべて、爆弾とともに、ガスからも人々を保護するように設計されていた[418]。その結果、特別な防空シェルターのドア――通常は鉄製――が発達した。そのドアには、破損を防ぐために穴の開いた鉄板でカバーされた丸いのぞき穴が付いていた。のぞき穴は、気密状態を保ったままドアを開けないでも内部を観察できるようにするために付けられていた[419]。

  毒ガスへの関心が高かったために、その他にも、多くの措置がとられた。都市防空隊の一部は清掃浄化部隊として組織されており、その制服や装備は、死体処理も含む衛生対策に適するものとなっていた[420]。マスタード・ガスへの恐怖がとくに大きかったので、都市害虫駆除センター、浴場、洗濯場は、ガス攻撃があった場合、死体とその所有物を清掃浄化できるように改装された[421]。

  ドイツは、様々なタイプのシェルターを数多く開発し、とくに、防空・対ガス・シェルターが開発され、西側連合国にはそれに匹敵するものはなかった[422]。すべての地下室（ケラー）も、必要なときにはガスにそなえる防空壕として二重に使えるように考えられた[423]。

  歴史の皮肉であるが、100万のドイツ民間人の4分の3を殺した連合国の爆撃は、その犠牲者の大半をガス処刑し、焼却した[424]。大半の犠牲者は、建物の地階のシェルターのなかで、爆弾や火災が発生する一酸化炭素ガスを逃れることができなかった。一酸化炭素ガスは、その粒子が小さいのでフィルターでは濾過されず、実際に人々をガス処刑してしまったのである[425]。そして、火災による高熱は、ときに1000度以上にもなることがあり、犠牲者の死体を熱だけで効果的に焼却した[426]。しかし、戦後、ガスと火を使ったドイツ国民の絶滅は、ガス処刑と焼却に対する連合国の訴追のなかでは完全に無視されているのである。

 

第13章  強制収容所での民間防衛

  強制収容所もかなりの民間防衛施設を備えていた。その理由は三つである。第一に、1940年秋以降の防空シェルター建設のガイドラインは、とくに軍需産業部門で新しく建設される収容所が、（密閉された）防空シェルターを備えていなくてはならないと定めていた[427]。第二に、強制収容所システムは、軍需産業にとって、非常に重要な労働力の源であった[428]。第三に、1943年2月8日のハインリヒ・ヒムラーの指令によると、SSは強制収容所システムへの空爆の可能性についてとくに関心を抱いていた[429]。

  強制収容所で発見された主なシェルターは、地面を掘り起こした塹壕のようなものであった[430]。しかし、民間人のあいだでの関心を考慮すると、収容所でも、とくにガス戦にそなえた措置がとられたに違いない。 当時の写真や資料をざっと眺めるだけでも、強制収容所で空爆とガスに対する防衛措置が広くとられていたと推論できる。例えば、アウシュヴィッツ所長の住居には、換気パイプとともに、建物の右側に気密シャッター（ブレンデ）が付いている[431]。マイダネクの浴室・害虫駆除施設Ⅱには、様々な場所に防空シェルターのドアが付いており、この施設がガス攻撃を受けたときには、清掃浄化センターとしても使われるとされていたことがわかる[432]。ビルケナウの中央「サウナ」の青写真は、地下室に非常出口を備えていたことを示している。収容所の建物をもっと詳しく分析すれば、防空シェルターとガス気密の証拠がもっと発見されるであろう[433]。

　マイダネクの浴室・害虫駆除施設Ⅱは、防空シェルターとガス気密説を支持する多くの特徴をもっている。ベルリンのアウアー社は、戦時中のドイツに防空シェルター設備を提供した主要な会社であったが、のぞき穴を持つガス気密ドアは、同社製の防空シェルターのドアである[434]。施設にあるその他のドアは、木製の粗雑なガス気密ドアのようである。アウアー社はそこで発見されたCOガスマスク・フィルターも製造しており、それは、防空シェルターの使用にとくにあわせて作られている[435]。前述した部屋Aの天井の開口部は、ガス気密ドアの発注と同時に建設されており[436]、防空シェルターの非常口の建築についてのドイツの産業基準（DIN）に合致している[437]。

　もちろん、すでに指摘したように、害虫駆除目的に対応している特徴もある。全体的な建築配置、外部ボイラー、パイプ、二酸化炭素ボンベ、のぞき穴にある温度計などである。しかしながら、このような特徴は、空気の浄化の点で、防空シェルターにも当てはまる特徴である。すなわち、空気浄化のためには温風が適切であり、ガス気密ドアが必要であり、温度を測るための穴が必要なのである[438]。さらに、ドイツ国防軍ガス防衛局が戦時中に発行した小冊子も、既存の建物を空気浄化に適合させる仕様をあげている。

　マイダネクの浴室・害虫駆除施設Ⅱは1942年秋に改築され、害虫駆除施設としてと同時に、防空、ガス防衛、および空気浄化施設としても使われたというのが、簡明な説明である[439]。ドイツはワルシャワ・ゲットーのユダヤ人住民に、防空シェルター用の資材を提供していた。その資材は、実際には、1943年5月に、ドイツ軍に対抗する塹壕のネットワークをつくるために使われた[440]。その同じ時に、占領下のポーランドのマイダネク収容所では、上記のような改築が行なわれていた。その事実も、前述の議論を確証している。収容所の建物をもっと詳しく分析すれば、防空シェルターとガス防衛の証拠がもっと見つかるに違いない[441]。

第14章  プレサックの「犯罪の痕跡」

  強制収容所の防空シェルターとガス防衛という問題を考えると、フランス人ジャン・クロード・プレサックの重要な研究のテーマとなっているビルケナウ焼却棟でのガス室の証拠なるものに行き着く[442]。

  プレサックの研究は、厳格に物的・資料的証拠にもとづいてビルケナウの4つの焼却棟はガス室を備えていたことを立証しようとしている。この目的のために、彼は、ビルケナウの焼却棟で大量ガス処刑が起こったというテーゼを支持するような物的・資料的証拠を3ダースほどの「犯罪の痕跡」のなかで編集している[443]。（アウシュヴィッツのそれ以外の場所でガス処刑がおこなわれたという物的・資料的証拠はまったくない）[444]。

  われわれには、資料的証拠のこの部分を検証する機会がこれまでなかった。大半が1946年、1947年のポーランドによるアウシュヴィッツ裁判の時に提出されたものであり、それ以後、書庫のなかに閉じこめられてしまったからである[445]。西側では、2、3の例外をのぞいて、これらの資料は、大量ガス処刑説を支持する証拠としては使われてこなかった[446]。やっと、1980年代末に、修正主義者による批判がガス処刑説の信憑性に大きな疑問を投げかけると、これらの資料的痕跡が発掘され、大量ガス処刑説の権威ある、最終の証拠であると提出された。

  しかし、これらの「犯罪の証拠」を検証してみると、結局、ガス室の証拠を発見することはできない。ドイツの民間防衛に関する研究と照らし合わせながら、「犯罪の痕跡」を眺め見ると、プレサックは不本意ながらも、ビルケナウの各焼却棟は密閉された防空シェルターを備えており、これらのシェルターにはシャワー室と浴室のかたちで衛生浄化施設も付属していたことを立証したにすぎないことがわかる[447]。この点で重要なことは、中央収容所の焼却棟が防空シェルターとして使われていたことである。もっとも、そのガス防衛施設についてはほとんど言及されてこなかったが[448]。

  強調しておかなくてはならないのは、物的・資料的証拠のすべてが、広い文脈においてみれば、密閉・防空・対ガス・シェルターのことを指している点である。少なくとも、二つの痕跡――ガス検査器とおそらく（Vergasungskeller）という用語は、害虫駆除も含むその他の措置にその起源を持っているとしても[449]。これらの空間が、絶滅ガス室として設計された、まして使われたという説を支持する物的・資料的証拠はまったくない。

  アウシュヴィッツ・ビルケナウの犯罪の痕跡のすべてを、都市の防空、害虫駆除、その他の技術の用語を使って説明できる。とすれば、第一に、大量ガス処刑が起こったとする資料的・物的証拠はもはや存在しないことになる。前述したように、その他の収容所、例えば、ソビボル、トレブリンカ、ベルゼクでのガス絶滅に関する資料はこれまで提出されたことがないので、この点は重要である。第二に、もともとのアウシュヴィッツ裁判を取り仕切ったポーランドの共産主義者は、害虫駆除や都市防空措置に関係している資料を、文脈から切り離して利用した。知らず知らずに文脈から切り離して利用したということは有り得るかもしれないが、都市防空と害虫駆除に関係する資料が明らかに誤用されたという事実は、そもそも、絶滅ガス処刑説にはいかなる価値もないことを示している

   言い換えれば、民間防衛および害虫駆除に関する文献は、大量ガス絶滅に関するすべての資料、物証といわれているものよりも、多くのことを解明している。これらの資料が明らかに誤用されてきたことを考えると、ポーランドとソ連の共産主義者たちが意図的に詐欺をおこなってきた可能性に直面する[450]。

第15章  シャーロック・ホームズのガス室

  すでに見てきたように、第二次大戦でのガス絶滅という告発の底流にはシャワー・ガス・焼却という概念があった。さらに、この告発を立証する物的・資料的証拠も登場していない。したがって、今度は、この説がまったくのフィクションではないかという問題に、当然にもぶつかる。

   ここで、ガス処刑に関する話の抜粋を見てみよう。

 

「ついで、私たちは浴室・害虫駆除Ⅱという標識を付けた大きなバラックの前に立ち止まった。『ここは、多くの到着者がまず連れてこられた場所だ』と誰かが言った。このバラックの内側はコンクリートで作られており、蛇口が壁からでており、部屋のまわりには脱いだ衣服を置き、『あとで』それを集めるためのベンチがあった。・・・入浴が終わると、次の部屋にはいるように言われた。この時点で、まったく疑いを持たなかった人でさえも疑い始めたに違いない。『次の部屋』は正方形のコンクリートの小部屋からなっており、それは浴室の4分の1ほどの大きさであったが、浴室とは異なって窓がなかったからである。裸の人々（最初は男性、次に女性、最後は子供）が浴室からこれらの暗いコンクリート・ボックス――約5平方ヤード――に追い立てられ、200－250名が一つのボックスに詰め込まれた。天井に小さな天窓と、ドアにのぞき穴があるだけで、まったくの暗闇の世界であった。ガス処刑が始まった。まず、温風が天井からポンプで送り込まれ、ついで、チクロンの小さな青白い結晶が人々に振りかけられた。湿った温風のなかで、それらは蒸発した。2－10分で全員が死亡した。両側に6つのコンクリート・ボックス――ガス室――があった。『ほぼ2000名がここで同時に処理されました』とガイドの一人が語った。・・・最初は、想像力の助けなしでは、理解はまったく困難だった。陰鬱なコンクリートの建物が多くあった。ドアがもっと幅広ければ、どこにでもあるガレージと見誤ったかもしれない。しかし、ドアが問題であった。重い鉄製のドアで、重い鉄製のかんぬきを持っていた。ドアの真ん中に直径3インチの丸いのぞき穴が100個ほどあった。人々は死の苦悶のなかで、自分たちを見つめるSS隊員の目に気づいたであろうか。いずれにしても、SS隊員には恐れることは何もなかった。彼の目は、のぞき穴の上にかかっている鉄製の網で十分に保護されていた。その信頼性を自慢する製造業者と同じように、ドアの製造業者は、名前をのぞき穴のまわりに記していた。『アウエルト、ベルリン』。ついで、床の青いしみが私の目を捉えた。非常に薄くて、ぼんやりしていたが、それでも読むことができた。誰かが、青いチョークで（vergastガスで処理された）と書き、その上に頭骸骨と大腿骨の交差を描いていた。」[451]。

 

  次に、別の抜粋を見てみよう。

 

「私は、ベルリン近郊のブランデンブルク精神病院での最初の安楽死実験に参加するように、ブラクから命令されました。1940年1月の前半に、精神病院に行きました。このための増築がすでに始まっていました。シャワー室に似た部屋があり、3ｘ5メートル、高さ3メートルでタイル張りされていました。部屋の周りにはベンチがおかれており、直径1インチの水道管が10センチほど離れて壁を走っていました。この管には小さな穴があり、ここから一酸化炭素が放出されました。ガス・ボンベは部屋の外にあり、主要な管とすでにつながっていました。・・・精神病院には、死体を焼却するための可動焼却炉がすでに2台存在しました。防空シェルターのドアのように作られている入り口のドアには長方形ののぞき穴があり、それを介して、怠慢者が観察できるのです。ヴィドマン博士が個人的に最初の実験を実行しました。彼はガス・タップをひねって、ガスの量を調整しました。・・・最初の実験では、18－20名が、看護スタッフによってこの『シャワー室』に連れてこられました。これらの人々は前の部屋で服を脱がねばならず、全裸でした。ドアが彼らのうしろで閉じられました。彼らは穏やかに部屋に入り、動転しているような様子はありませんでした。ヴィドマン博士がガスを作動させました。私はのぞき穴を介して、10分後には人々が倒れるか、ベンチに横たわっているのを見ることができました。まったく騒動はありませんでした。その5分後、部屋は換気されました。」[452]

 

  さらに、第三の抜粋を見てみよう。

 

「ここでご覧のような、鉄のドアとシャッターを付けた部屋――密閉された部屋という考えが浮かびました。二つの事実を結びつけてごらんなさい。どういうことになるでしょうか。・・・私が発見したものを観察してください。幅木にはガス管がありますね。よろしい。それは壁の隅にあり、コーナーにはタップがあります。その管はがっしりとした部屋につながってきて、天井の真ん中の漆喰のところで終わっており、そこは装飾で隠されています。その終わりは広く広がっています。外側のタップをひねれば、ガスが部屋に充満します。ドアとシャッターが閉じられ、タップが全開されれば、この小部屋に閉じこめられた人が意識を失うのに2分とはかからないでしょう。彼がどのような残酷な装置で彼らをここに誘導したのかわかりませんが、ひとたび、ドアの中に入ってしまえば、彼らは彼の慈悲のままです。だから、この小部屋に閉じこめられれば、2分しか生きていられませんが、ドアの反対側からあなたを嘲笑している悪魔を見ることはできます。どうしますか。・・・ここを見てください。幅木の真上に、消すことのできない紫色の鉛筆で『われわれ、われわれ』と書いてあります。それだけです。」[453]。

 

  これらの話には相違点があるであろうか。みんな同じ様にみえる。最初のものはアレクサンダー・ヴァースからの抜粋で、1944年9月にマイダネクのガス室の作動について記述したものである。前述したように、彼が犯罪の証拠とみなしている気密ドアは防空シェルターのドアにすぎない。第二の話は、安楽死計画のガス処刑に関する証言である。そこには、すでに見てきたように、シャワー・ガス・焼却概念がさかのぼって当てはめられたようである。最後の話は、アーサー・コナン・ドイル卿によるシャーロック・ホームズの物語『引退したカラーマンの冒険』（1924年か1925年）からの抜粋である。

  ホームズの物語は、二つのことを思い出させてくれる。第一は、ガス処刑に関する小説的な――リアリスティックになろうとしているが――記述は、ほぼ20年間前に、ガス処刑の物語を見越していることである。コナン・ドイルの冒険は、シャーロック・ホームズの物語が当時世界的に有名であったことを念頭に置くと、その後の二つの話に、ディーテールを与えていたと考えられる。

  第二のことは、こうした概念の究極の起源についてである。われわれが関心を抱いているのは、毒ガスという考えだけではなく、害虫駆除と焼却という概念でもあり、これらが西ヨーロッパの精神のなかでどのように進化し、結びついていったかである。そのうえ、これらの概念が、ホロコースト、すなわち、上層部の命令によって秘密に実行され、あらかじめ決まった数のユダヤ人犠牲者を焼き尽くした絶滅計画と結びつけられてきたことにも注意すべきである。

   こうした調査を実行するには、たんなる文芸学的な分析から、ある種の文献考古学の領域に進まなくてはならない。そして、糸口を解きほどくには数年を要するであろうが、これらの様々な概念のルーツを示唆することはできる。

   19世紀以降、「ガス」は、いくつかのおそらしい災害を引き起こしてきた炭坑のガス爆発と結びついてきたと思われる[454] 。一方、ガスは、外科や歯科の麻酔で使われたために、医療にも関連していた[455]。H.G.ウェルズは1898年の『宇宙戦争』のなかで、爆発製のガスは火星人の乗り物の推進力となっているだけではなく、強力な武器にもなっていることを描いているが、それはこの鉱山概念に起因するのであろう [456]。ガスの使用は1913年のエドガー・ライス・バローの火星人物語にも姿を現している。もっとも、ここでは、結びつきは窒素酸化物と関係しているようであるが[457]。ガスに対する庶民意識には、ガス灯やガスかまどが関係しており、ともに第一次大戦後には自殺目的で使われた[458]。したがって、ホロコーストの研究者は、ガス処刑説の構成を検証するにあたって、ガスに関するできるだけ多くの連想を知っておかなくてはならないだろう。

航空戦でのガス戦争がヨーロッパ人の心に姿を現したのは、われわれが考えているよりももっと前のことであろう。すでに1912年、ライプツィヒの新聞記者は、バルカンでの政治的な光景を振り返って、「毒ガス爆弾」を開発しなくてはならないと論じている[459]。そして、1932年には、未来の戦争を描いた小説が、パリ爆撃に始まり、ガス攻撃で終わる様子を活写している[460]。

  この点で興味深いのは、コナン・ドイルが、様々な種類の毒ガスおよびシアンの話の本物の源であるということである[461]。とくに興味深いのは、1913年の『毒の帯』である。それは、惑星地球が、すべてを殺しつくす毒ガスの雲に突入してしまい、5人の生存者にとっての唯一の希望は、マダムの私室を酸素ボンベで満たされた対ガス・シェルターにかえることであったという話である[462]。

  もっとも注目すべきことは、ガスでの殺人に関する1930年代の話が、1940年に登場した話と非常によく似ていることである。1937年のエホバの証人の出版物は、ドイツの収容所で毒ガスが使われているとすでに伝えているし、シンクレア・ルイスの『ここでは起こりうるはずがない』（1936年）も、20名のユダヤ人がシナゴーグの地下で、ボンベの一酸化炭素で窒息死したというエピソードを伝えている[463]。

  すでに、民衆の文化のなかにある害虫駆除措置と焼却について言及してきた。一例として、ハクスレイやメアリー・アンチンの回想をあげたが、もっとあるに違いない。ソ連の詩人マヤコフスキイは、未来主義的戯曲『浴室』（1926年）のなかで消毒殺菌ステーションというモチーフを使って、追放と浄化、「イデオロギー的害虫駆除」のプロセスを描いている[464]。

  ホロコーストに関するユダヤ人の考え方にとって重要な概念に移ると、「絶滅」という用語がどのように使われるようになったのか、調査・探求しなくてはならない。この点で、この用語が1880年代初頭からの東ヨーロッパのユダヤ人に対する迫害と苦難を描くにあたって、非常に安易に使われていることに驚かざるをえない。例えば1882年、合衆国下院の演説は、「ヘブライ・ロシア問題は数語に要約されてきた。すなわち、ユダヤ人であるという理由で、250万の人間が絶滅されている」と結論している[465]。さらに、1939年の書簡のなかで、伝説的なユダヤ人史家シモン・ドゥブノフは、ドイツの状況について、「ヒトラーの『絶滅システム』はハマンの計画を、すべてのユダヤ人を破壊・虐殺・滅亡させることにたんに言い換えたものである。ヒトラーは彼の計画をほとんど実現した。ドイツ、オーストリア、チェコスロヴァキアの100万のユダヤ人が破壊され、略奪され、手足を切り取られた」と述べている[466]。ロシアのポグロムの初期の波と水晶の夜の効果がおそらしいほどの行き過ぎを生み出したことを差し引いても、現代の解釈からしても、「絶滅」という用語は誇張であり、無責任である。しかし、それでも、「絶滅」という用語が、1930年代と大戦中には今日と同じ様な意味を持っていなかったことは明らかである[467]。

「600万」のユダヤ人が「絶滅」によって危機に瀕しているという考え方も、1919年のニューヨーク州知事の演説にまでさかのぼることができる。その演説はロシア・ポーランド戦争とチフスの大流行を念頭に置いたものであった[468]。アーサー・バッツがはじめて指摘したように、民族社会主義者の迫害によるユダヤ人の損失の最終的な数は、正確な計算ができるようになるはるか以前に、戦争初期にすでに定められていた[469]。伝統的な研究と、生命の損失――共同体の損失ではないとしても――はもっと少なかったとする修正主義的研究の双方をふまえながら、この数字が確定されていった過程を調査しなくてはならない[470]。

  最後に、ユダヤ人歴史家が歴史的な原因をどのように把握しているのか理解するために、彼らの業績を研究することも重要であろう。簡単に言えば、ユダヤ人歴史家がポグロムやその他のユダヤ史での災難を説明するとき、かならず、支配エリートのメンバーによる陰謀的なたくらみという説明が登場してくる[471]。自然発生的な暴力事件を生み出してしまうような社会的緊張があったとか、ユダヤ人の利害が非ユダヤ人の利害と衝突しており、それが緊張を高めて、悲劇的な事件をもたらしたというような説明はめったに見られないようである。

  ユダヤ人を完全に破壊するように悪魔に駆り立てられたヒトラー＝ハマンがホロコーストを個人的に追求したというように、ホロコーストを単純な一つの原因で説明しようとする傾向があるが、前述したような社会的な諸要素はとくに重要であろう。このような説明に聖書の根拠を与えようとするやり方は別として、このような説明は歴史上のその他の事件を説明するのにふさわしくない。さらに、このような説明はこの時代の複雑さ、あるいは、スターリン体制、戦後のポーランドの体制、その他の東ヨーロッパの政府による迫害と解体の本質を説明していない[472]。ホロコーストの罪をヒトラーという人間だけに負わせることは、悪魔ヒトラーという戯画を振り回しているにすぎない。そして、このような歴史観は、将来のホロコーストを防止するには役にたたない。逆に、このような歴史的判断を下すことは、最初はヒトラーに、ついでナチスに、そして最後にドイツ国民に非難の嵐を投げかけることにすぎない[473]。こうした道徳的な非難は魂の苦難を和らげるかもしれないが、われわれの理解には何も与えないし、さらに言っておかなくてはならないが、和解に何も与えないのである。

第16章　結論

  本小論の目的は、ガス処刑説が、戦争宣伝というかたちで登場した1942年春から、事実としての地位を獲得したニュルンベルク裁判の終了の時期までに、どのように進化したのか概観することであった。これらの物語の進化をたどることによって、物語の様々な要素がどこでどのようにして進化したのか正確に調査できるというのが、おもな仮説であった。もちろん、もし物語の進化が確固とした資料的・物的根拠を持って終わるならば、大量ガス処刑説は事実を述べていることが確証されたことになる。しかし、検証してみると、二つのことが発見された。

 

  (1) ガス処刑説には物的・資料的根拠がまったくない。大量ガス処刑の間接証拠として提示されていたものは、その実、ドイツの害虫駆除措置かドイツの民間防空措置に関係しているものである。

  (2) 第二次大戦のガス処刑説に類似したガス処刑説は、ドイツがこの計画を開始したとされるはるか以前に、何回となく作られていた。

 

  ガス処刑説は、信頼できる物的・資料的証拠とは無関係に進化し、戦争勃発の前にかなりの進化を遂げることができたので、ガス処刑説は、どの時代にもあった大きな妄想の一つであると認めることができる、というのがわれわれの結論である。

  この結論に対する批判は、二重のものとなっている。第一に、数百（実際には数十）の目撃者や自白者が嘘をついているはずはなく、ガス室に関する真実を話していると批判する人々がいる。これらの人々が嘘をついているとしたならば、自分たちの物語を首尾一貫したものにするために、彼らのあいだでは多くの協力関係があったという仮説を立てなくてはならないので、彼らのガス室についての記述は真実に違いないというのである。

　このような言い方にはいくつかの問題点がある。もっとも重要なのは、シャワー・ガス・焼却という連鎖過程の噂が浸透していた雰囲気の中で行なわれた証言や自白の文脈をまったく無視していることである。証言や自白は「証拠として首尾一貫している」といわれるのであるが、それは、一つの経験が一般化された噂にもとづいているのである。証言（たとえば、ベンデルやビムコ）、回想（たとえば、レンギルやヴルバ）、自白(たとえば、グラブナーやヘス)は、たとえ意図的に虚偽を語ろうとしていないとしたとしても、非常に不正確であり、真実ではないことを見てきた。したがって、このような証言や自白に依拠することはまったく説得的ではないのである。

  すでに見てきたように、シャワー・ガス・焼却モデルに体現されているガス処刑説の本質は、ヨーロッパへのラジオ放送などを介して、戦時中に広く広まっていたからである。文芸学的に言えば、1945年時点で、誰でも大量ガス処刑シナリオを作ったり、想像したり、その実在を証言できたのである。実際に、証言と自白はその詳細の面では矛盾していても、シャワー・ガス・焼却という連鎖過程に関してだけは、共通に持っている。

連鎖過程の3つの要素が、防疫措置、毒ガスの使用、焼却に対する20世紀初頭の不安と恐怖を広めていった要素であることは偶然ではないであろう。この角度から眺めると、シャワー・ガス・焼却というシナリオは、真空室、電気処刑板、電灯のかさ、石鹸、医学実験、ナチス指導部を楽しませたとされる処刑と大量殺害のフィルムと同様に、20世紀の地獄の神話をたんに表現したものにすぎない[474]。

 

「申し訳ありませんが、どうか酒を続けてください。気分がよくなりましたか。地獄についての進歩的な考え方を持ち、改革派と歩調を合わせていますか。硫黄で満たされた哀れな罪人のための普通のお釜のかわりに、すぐに沸騰するやかんと高圧ボイラーがある。罪人はマーガリンのなかで揚げられ、電気で動くグリルがある。蒸気ローラーは数百万年にわたって罪人を押しつぶす。歯ぎしりが、特別な道具を持った歯科医の助けで作り出され、うめき声は蓄音機に記録され、そのレコードは正義の娯楽のために上階に送られる。」[475]

 

  多くの証人や自白者が誤っているはずがないという異議申し立てに戻ると、このような異議申し立ては、エイリアンによる誘拐事件の実在性を主張する人々の説と不気味なほど似ている。「エイリアンによる誘拐事件に関するおもな話しのすべては、共通の特徴を持っており、たがいにその信憑性を確証するような関係となっている。事件の非常に細かい点も何回も確証されている。事件の時間的配列、組み立て、論理があり、それが事件に意味を持たせている。そして、その話の中身は、際立った一貫性を持っていた」とディヴィッド・ジェウコブスは記している[476]。しかし、エレーネ・ショワルターは、自著『歴史叙述』のなかで、このような話の類似性のなかにお化けの証拠以上のものを見ている人々にこう対応している。

 

「しかしながら、文芸批評家は、二つの物語の類似性は、それらが共通の現実を映し出していることを意味してはいないし、書き手がたがいの文章を読んだことさえも意味していないことを理解している。すべての話と同様に、歴史叙述（歴史事件の物語を意味するショワルターの用語）には、独自の慣習、ステレオタイプ、組み立てがある。書き手は共通のテーマ、組み立て、人物、イメージを受け継ぐ。批評家はこのような共通の要素をインターテクスチャリティ（intertextuality ）と呼んでいる。」[477]

 

  ガス処刑説は第二次大戦の数十年前にすでに庶民文化のなかに存在していた。このことを考慮すると、この説は、「インターテクスチャリティ」のなかから、もっと簡明に言えば、時代の常識のなかから生まれてきたといえるのである。

   大量ガス処刑説は文化的な概念として説明しうる。とすれば、心理学、群集・社会心理学、社会学から借用した方法を使えば、もっとうまく説明できるということになる。

   ホロコーストの文献のなかでは、「死のベルト・コンベヤ」という想像がしばしば登場してきているが、ガス処刑説をこの文脈の中で検証することも一つのアプローチであろう[478]。社会学的な観点からすると、このような想像は、この当時の東ヨーロッパの姿を完全に変えようとしていた工業化と近代化に対する拒否反応と考えられる。このような変容が、手工業や農業を土台としていた社会の「もっともらしく思われていた仕組み」、あるいは信仰の仕組み、とりわけ、宗教的に正当化されていた仕組みを破壊してしまうことは、社会学と知識社会学の常識である[479]。宗教的な献身へと向かおうとしていたこのような感情は、「死のベルト・コンベヤ」やガス処刑説を多くの人々に吹き込んできた。この感情は信仰と社会の危機と結びついているに違いない。

一方、ガス処刑説をごまかしと特徴づける人々がいる。ごまかしであったとしても、戦争直後の安っぽい、猥褻なゴシップ――残念ながら、広く読まれているものの大半がそのような特徴を持っているが――に限られる[480]。この大きな悲劇は、長年にわたって厚い空想の沈泥を生み出してきたが、だからといって、戦争中に移送を経験し、愛する人々を失った人々の誠実さや苦痛に疑問をはさんでもいいということにはならない。しかし他方、ガス処刑説は、自分の心の奥底にある願いを実際に現実のものとしたいという人々の願望に答えているようであり、この意味では、ほんとうのごまかしでもある[481]。この説はごまかしであるとしても、意識的なものではなかったのであろう。だまされた人々の数の方が、だました人々の数よりも多いことを強調すべきである。

　次に、ガス処刑説はどの程度噂と呼ぶことができるのか、伝説と呼ぶに値するかどうかを自問しなくてはならない。ガス処刑説が噂として始まったことには疑いはない。この説の形成過程は、混乱と不安という一般的な基準にマッチしている[482]。しかし、この説はわれわれの集団的な文化意識のなかで伝説として残るのに十分な価値を持っているであろうか[483]。こうしたことを考えると、ユダヤ民族にとってのホロコーストの根本的な価値という問題にぶつかる。

  われわれの基本的な立場は、1914－1945年それ以降の東ヨーロッパの覇権をめぐるスラヴ諸国とゲルマン諸国の二つの戦争という文脈のなかでのみ、ホロコーストは理解されうるというものである。そして、この衝突は、それ以前の数十年間にわたる、この地域の社会的、経済的、人口動態的な変容という観点からだけ理解しうる。このような文脈で考えると、ホロコーストは一方ではロシアのおそるべき農業集団化、他方では東部地区のドイツ人の追放とのあいだに位置するために、その意義は低下せざるをえない。しかし、このような理解の仕方は、20世紀のヨーロッパ史をよりグローバルにかつ包括的に捉えるという点で適切ではあるに違いないが、ヨーロッパの個々の共同体の要求を満足させることはできないだろうし、ユダヤ民族の要求も満足させることはできない。言い換えれば、あるグループが自分たちの判断を、多元的な社会において最終的な判断としようとすると、何らかの混乱が起こるに違いないけれども、どのグループも自分たちの歴史と裁定が独自のものであるとみなす権利は持っているのである。

それゆえ、次のような問題が生じるだろう。ユダヤ民族はホロコーストをどのように理解しなくてはならないのか。長いスパンから見ると、東ヨーロッパのユダヤ人共同体の払拭と破壊は、ポーランド分割の頃から進んでいたが、これらの共同体が終末をむかえるだけではなく、テロルと恐怖のなかで根絶されたのが20世紀であることは疑いがない。しかし、1881年以降のポグロム[484] 、戦前のポーランドの反ユダヤ主義[485] 、多くの大虐殺への非ドイツ人の関与[486] 、1940年のソ連による大量移送[487] 、戦後のソ連での反ユダヤ主義と迫害[488] という長い歴史を考えると、「ヒトラーがいなければ、ホロコーストもなかった」と主張することはナイーブすぎると思われる[489]。この地域の指導者や思想家が無慈悲な変容が進行することを偏愛していたことを考えると、ヒトラーが登場しなかったとしても、別の国の別の人物が別の最終解決を考え出したかもしれない。経験だけにもとづくと、ヒトラー、民族社会主義、ドイツ国民だけに焦点を当てることは、まだ依然として理解できていない破壊のプロセス、宇宙の神の意志と調和していない破壊のプロセスに対して、一つの答えと都合のよいスケープゴートを捜し求めることになるに違いないのである。

  ユダヤ教の理性的な伝統は、ユダヤ人共同体の思考する男女が、経験的な根拠を欠いているように見える説をいつまでも確証し続けることに疑問を投げかけている。だから、われわれは、普通問題となっているホロコースト概念が、様々なやり方で解釈され、記憶されることがありうると理解しなくてはならない。ユダヤ人の歴史家は、ヒトラーの対ソ連戦争以前に「絶滅」を強調していた。このことを、ユダヤ人の性格との共同体的・社会的性格と関連付けてみなくてはならない。言い換えれば、絶滅は死を意味しているわけではないが、それがユダヤ人共同体の破壊を伴っているという意味で、ほとんど死と同じことを意味しているという考え方に留意すべきである。だから、犠牲者が数百万であったにせよ、数十万であったにせよ、彼らが、ドイツのゲットー、ソ連の収容所、チフス、銃弾、ガス室での毒ガスで死んだにせよ、それが計画的に実行されたにせよ、あるいは、計画が徐々に登場して生じたにせよ、ユダヤ民族が第二次大戦中におそらしいほどの流血と共同体の完全な損失を経験したことは疑いない。われわれはそれをホロコーストと呼ぶことによって、ユダヤ教徒と非ユダヤ教徒との関係についての特別な考え方、特定の政治的イデオロギー、すなわちシオニズムに権威を与えてしまうことを理解している。ホロコーストと呼ぶかどうかは、歴史的分析の範疇の枠外である。しかし、それをホロコーストと呼ぼうとジェノサイドと呼ぼうと[490]、破壊の全体的様相は明確であり、否認できない。われわれはまず、この点を尊重しつつも、この困難な時期にドイツ国民が人道性を示したことも主張する。そして、事実がそのことを明らかにするであろう。

  自称批評家の異議申し立てにかえろう。事実関係に関するわれわれの解釈に疑問が提示されることもありうるであろう。例えば、乏しい資料的・物的データに関するわれわれの分析は間違っているとか、実際に、建物はガス室であり、資料も大量ガス室に言及しているというものである。この議論に答えるには二つの方法がある。

  その第一は、これらの資料が犯罪を立証する意味を持っていることが本当ならば、このような解釈は確証なしにはあり得ないと言うことである。そして、まさに、欠如していたのはその確証である。

大量ガス処刑が起こったと主張したい人々は、この主張が害虫駆除措置のまでさかのぼることができること、第一次大戦中にも同じ様な主張がなされたことを認めることから、自分たちの分析を始めなくてはならない。さらに、彼らは、実際には存在しなかった毒ガス使用に対する文化的な不安にルーツを持つ大量ガス処刑という告発が、1930年代とソ連侵攻以前のドイツにすでに流れていたことも認めなくてはならない。彼らは、とくに毒ガスの噂が、第二次大戦前、大戦中、大戦後に大衆ヒステリーの原因であったことを認めなくてはならない。最後に、彼らは、西部地域での連合軍＝解放軍の共通の反応もヒステリックであり、ガス処刑がおこなわれたという虚偽をいくつか生み出したことも認めなくてはならない。

将来、ホロコースト史家は、連合国の放送、とくにBBCが大量処刑の噂を、1930年代にさかのぼることのできる噂と混ぜ合わせながら、ヨーロッパに逆輸出し――少なくとも、ひとつはイェディシュ語で――、そして噂に正統性を与えたことも認めなくてはならない。こうしたことを認めたうえで、彼らは、大量ガス処刑が起こったこと、ナチスはラジオでそのように告発された以後でさえも、まったく秘密にガス処刑を実行しようとし、この作戦の物的・資料的な痕跡を消し去ることに成功したと主張しなくてはならない。もちろん、ある陰謀がいかなる痕跡も残さずに、邪悪なおこないを実行しうるという仮定を気軽に信じることもできるであろう。しかし、敵のラジオ放送からそのように実行すべきなのかの指示をおおやけに受け取ってから、このような規模の陰謀を組織し、実行しうると主張することは不可能に違いない。

このように考えると、のちの世代の判断という第二の論点に行き着く。歴史家はだまされやすいが、ずっとだまされ続けているわけではない。歴史家は天性のストーリー・テラーである。だから、自分たちが事件を生き生きと描写している、あるいは多彩に描いていると考えたものにもとづいて、歴史の細部を描こうとする。しかし、いつの日か、歴史家でさえもガス処刑伝説の細部に立ち入らなくてはならないであろう。そしてそのとき、彼らはこの説には経験的な実体がほとんど、あるいはまったくないことを知るであろう。そして、この点で、歴史家は資料的な記録を検証せざるをえないし、それが存在しないと発見することは、ガス処刑説から離れる第一歩となることであろう。だから、今日、ガス処刑問題での修正主義者の説が正しいとか、間違っていると述べることはたいしたことではない。要点は、将来の歴史家はかならず、ガス処刑説を否定するであろうということである。検閲を提案し、のちの世代に配慮しているとする人々は、自分たちの歩みを考え直すべきなのである。

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  ホロコーストのガス処刑説の起源は、ごまかしと検閲の複合にある。この二つの傾向がどのようにお互いを補強しあってきたのかを要約することができるようになった。ガス処刑という伝説は、第二次大戦前の数年間すでにヨーロッパに広まっていた。このとき、秘密に実行されていた民族社会主義政府の安楽死計画と結びついて、ガス処刑の噂が広く広まった。1942年春に、ドイツが大規模な移送を始めるやいなや、害虫駆除に関する典型的な噂が生まれた。この噂はすでに以前に生まれていたが、今度は、ガス処刑説に焦点を当てるようになった。これらの噂はBBCを通じて伝えられ、今度は、BBCがこの噂に権威を与え、この説をヨーロッパにフィードバックさせて、さらに進化させた。この点で、ガス処刑に関する噂の広まりと『宇宙戦争』が呼び起こしたようなパニック現象とを区別すべきである。つまり、あとのケースでは、すぐさま、噂がおおやけに否定されたからである。しかし、前のケースでは、絶滅の噂がおおやけに公表されたわけではなく、これらの説がたんに繰り返されただけであった。

   西部地区の収容所でのおそらしい疫病の光景が、アウシュヴィッツ報告などのソ連特別委員会報告と混じり合ったことが、この物語に封印を押し、教会法的なホロコーストを生み出した。教会法的なホロコーストは、その機能の面で、魔女狩りあるいは大審問の時代の尋問マニュアルとほとんど変わらない。教会法は戦後の裁判でも進化し続けた。この裁判では、大量ガス処刑と絶滅のプレゼンテーションは、それまでの20年間の急速かつ強制的な工業化と近代化による様々な国内危機に対処するにあたって、すでに精神分裂病的な症状を見せていた国家の手に握られていたのである。このような急速な変化は、当然のことながら、無秩序、混乱、その他の社会的な病理現象をもたらし、これらは東ヨーロッパのユダヤ人に大きな影響を与えた。彼らはこの時期に永続的な迫害にさらされただけではなく、大規模な社会的経済的変容につきものの混乱と社会的分裂にもさらされたのである。

大量ガス処刑と絶滅説が登場し、全面的に開花したのはこのような環境のもとでであった。

  少しでも想像力と感性を持っていれば、どのようにしてガス処刑伝説が生まれたのかを理解できるが、決定的な要因は、検閲につきものの情報流通の制限と、責任のある理性的な発言――破壊的な噂がヒステリックな反応を呼び起こす前に、それを打ち壊すことができる――が沈黙してしまったことである。

この意味で、情報を注意深く監視する独裁体制のもとにおちいったドイツが、どのようにして、抵抗を作り出していったのかを理解できる。検閲によってありのままの真実から遠ざけられていたドイツ国民は、推測することで知識のギャップを埋めようとした。この面では、彼らは他の国民と同様であった。1930年代後半に、戦争の脅威が現実的となり、強制収容所システムが拡大しはじめ、第三帝国が安楽死計画で悲しくなるような実験を始めたとき、ドイツ国民は自分たちの憶測のなかに、恐怖と無知とを混ぜ合わせてしまった。結果として、ガス処刑説の芽が生まれた。

1942年、ドイツがヨーロッパ・ユダヤ人のすべてを東部地区に移送するという公認の目的を実行しはじめると、ガス処刑の噂は、新たな装いを持って再登場した。今度は、すでに以前から害虫駆除措置が生み出していた不安にさかのぼることができるような装いを持ちながら。そしてこの噂は、フィルターをかけられながら、西側の数十名の著名なシオニストに還流していった。彼らは、自分たちの民族に何もしてやれないことに苦しんでいた。もちろん、彼らは、ドイツ国民が安楽死計画で何が起こっているのか知らなかったのと同様に、何が起こっているのか正確に知ることはできなかった。ガス処刑の噂はもっともらしいものであり、文化的な台本にマッチしていた。西側のシオニスト、とくに有名なアメリカ系ユダヤ人と合衆国の役人がこれを受け入れたのは、驚くべきことではない。

東部戦線では、大量ガス処刑説は、政治的な利害関係と手をたずさえながら、進化していった。カチン事件を暴露されたことで傷ついていたソ連にとっては、もっと非道な犯罪を敵に押しつけることは役に立ったし、人権を尊重するふりをしていたイギリスとアメリカにとっても、ソ連を進歩的勢力と描き出すことは役に立った。しかし、ソ連を進歩勢力と描き出すことができるのは、ドイツを徹底的に邪悪であると描き出すことによってだけであった。1944年春の終わりから、シオニストでさえも、絶滅論の一般的有効性を受け入れつつ、それを政治的目的のために利用しはじめたようである。

戦争が終わると、ガス処刑説は西側ではしだいに消え去った。それは東側でだけ主張され、鉄のカーテンによって守られた。そして、東側諸国との関係が緩和され、修正主義者がガス処刑説の信憑性に厳しく挑戦しはじめると、今度は、自由世界の政府が一つまた一つと、修正主義者の発言を検閲しはじめた。

二つの結論が明らかとなる。第一は、ホロコーストのガス処刑説は検閲のおかげで生まれたということである。第二は、ホロコーストのガス処刑説を維持できるのは検閲という手段だけによってであるということである。だが、検閲は虚偽の信仰を長続きさせる以上のことを行なっている。検閲は人々を情報へのアクセスから遠ざけるために、陰謀的な思考、したがって不信、ステレオタイプ、偏見、他集団への憎悪をつちかってしまう。検閲は政府が個人の権利を抑圧することをともなうために、個人の無力、無能力、憤り、憤懣をつちかってしまう。そして、国家が横暴にも、自由な人々による意見の表明を妨害することになるがゆえに、ゆっくりと、絶えず、押さえつけられながらフラストレーションを紛らす以外に、フラストレーションの出口がなくなってしまう。自分たちの利益を守ってくれるはずである国家から切り離された個人は、社会に背を向け、そのことによって、今度は、市民社会がしだいに崩壊し、アトム化された個人を国家の恩情にだけしがみつかせるようにしてしまう。

ホロコーストのガス処刑説は、検閲の虚偽の所産であったに違いないが、20世紀のヨーロッパの庶民のホロコーストは、国家があまりにも干渉しすぎ、庶民の権利をほとんど尊重しなかったことの直接の結果であった。ホロコースト修正主義者に対する検閲を認めることによって、われわれははからずも虚偽の信仰を認めているのである。そして、また、本当のホロコーストが将来起こることを招いているのである。

 

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[1] 本小論は、二つの専門的論文のもととなっている。Technique and Operation of German Anti-Gas Shelters: A Refutation of J. C. Pressac's 'Criminal Traces', Defending Against the Allied Bombing Campaign: Air Raid Shelters and Gas Protection in Germany, 1939-1945, Parts 1 and 2. これらの論文は本小論の12章から14章に対応している。本小論は独自の構成を持っているが、実際には、幅広い諸研究の外観でもある。だから、本小論はそれらの諸研究の要約ともいえる。

[2] 最初の修正主義者にはまず、1948年から活動し始め、かつてブッヘンヴァルトに収容されていたフランス人ポール・ラッシニエ（1960年死亡）（彼の著作集Debunking the Genocide Myth, Institute of Historical Review, Newport Beach, CA: o.p.参照）と1962年以来J.G．ブルグというペンネームで執筆しているジョセフ・ギンスブルグ（彼の家族は第二次大戦中に迫害を受け、移送された、1992年死亡）がいる。修正主義の史学史を手軽に概観するようなものはないが、Arthur R. Butz, The Hoax of the Twentieth Century, IHR, Newport News, CA:1983,pp.10-12,pp.317-334には若干の情報がある。

[3] これに関しては、バッツの著作と、皮肉に満ちたシェルマーの著作Shermer, Why People Believe Weird Things, W. H. Freeman, NY., 1997, pp. 173-252がある。ラッシニエとブルグ以降、「ホロコースト修正主義」は本質的にアーサー・バッツから始まり（彼の著作は1976年に、イギリスでは1977年に刊行された）、フランスのロベール・フォーリソン、ドイツのヴィルヘルム・シュテークリヒがほぼ同時に登場した。1970年代末、『歴史評論誌』（以後JHRと略）がデビューし、それは、修正主義文献の英語機関紙となった。80年代には、ジェームズ・G・マーチン、フリードリヒ・ベルグ、マーク・ウェーバーの重要な著述が登場し、90年代には、カルロ・マットーニョ、ジョン・ボールたちがここに加わった。1988年のツンデル裁判では、イギリスの歴史家ディヴィッド・アーヴィングが修正主義者の隊列に加わったことが明らかとなった。もっとも、彼はホロコースト自体のテーマにはそんなに取り組んではいないが。ロンドンのフォーカル・ポイントから出版されている『ゲッベルス』（1996年）と『ニュルンベルク』（1996年）を参照。

[4] Shermer, Michael, Why People Believe Weird Things, W. H. Freeman, NY:1997, pp. 173-252 は、修正主義者の立場、あるいは彼が呼ぶところの「ホロコーストの否定」を、（1）人種的な理由による意図的な虐殺、（2）ガス室と焼却棟を使った「ハイテクで組織化された」計画、（3）500－600万の死者を否定するものと定義している。シェルマーの扱い方は多くのものを積み残しているにもかかわらず、修正主義者を邪教徒扱いしていない点で評価すべきである。ホロコースト以外には、事実が概念の前提条件としてあらかじめ設定されている歴史的な事件はない。さらに、必ずしもすべての修正主義者が、先の3「条件」を等しく重視しているわけではない。本小論では、われわれは（1）と（3）の中味に関して疑問を持っているが、歴史学的に興味深いものとは考えていない。一方、少なくともそのように述べられている内容での（2）は虚偽であることを確信している。

[5] Lipstadt, Deborah, Denying the Holocaust: The Growing Assault on Truth and Memory, Penguin Books [Plume], NY:1994のなかにある修正主義者の特徴づけが典型的である。とくに、その序文では修正主義者は不適切にもペストをばらまくねずみと特徴づけられている。

[6] 修正主義は、フランス、ドイツ、スイス、イスラエルで非合法である。

[7] 1985年、1988年にエルンスト・ツンデルにたいして二つの裁判が行なわれた。バーバラ・クラシュカが『600万人が本当に死んだのか』と題して二番目の裁判記録の要約を編集している。これはインターネットのツンデルのサイトでも利用できる（以降、DSMRD）。

[8] トニー・ブレアの約束は1996年10月16日と1997年1月30日のニューズ・リポートにある。

[9] 例えば、Raul Hilberg's Destruction of the European Jews, Quadrangle, Chicago:1968がそうである。この本は、ガス絶滅というテーマについては、かなり編集された二人のナチの証言――きわめて異なった状況のもとで手にいれらている――、二つのあいまいな資料、強制収容所収容者の戦後の大量に供述だけに依拠している。

[10] 法医学的なアプローチは、すでに70年代に、ポーランドのガス処刑施設を合衆国のガス処刑技術と比較しようとしていたフォーリソンの発明である。1980年代後半、二回目のツンデル裁判の準備過程で、合衆国の処刑技術専門家ロイヒターが、ポーランドのガス処刑現場の報告を執筆するように依頼された。「ロイヒター報告」（1988年）は、ビルケナウの焼却棟をガス処刑に使うことはできないというその結論には、多くの異論が寄せられているにもかかわらず、ホロコーストの法医学的研究での一里塚であった。ロイヒターの科学的結論は、焼却棟をガス処刑に使ったと考えると、そこにシアンの痕跡はいちじるしく低いというものであり、その結論は修正主義者、反修正主義者によってしばしば引用されてきた。しかし、痕跡があまり存在しないか、まったく存在しないという事実の解釈は、多様であり、一つの結論には達していないようである。シアン残余物に関するもっとも厳格で、徹底的な研究は「ルドルフ報告」である。ドイツの化学者ゲルマール・ルドルフが1992年に発表し、その後改訂された。ルドルフは、エルンスト・ガウスというペンネームを使って、重要な論文集Grundlagen zur Zeitgeschichte, Grabert Verlag, Tübingen:1994　[hereinafter Grundlagen]、および修正主義者の雑誌Viertelsjahrhefte für freie Geschichtforschung [hereinafter VffG], 1997-presentを編集している。

[11] 前者の事例として、Walter Laqueur's The Terrible Secret: Suppression of the Truth About Hitler's 'Final Solution', Little, Brown & Co., Boston:1980をあげることができる。この本は、占領下のポーランドからのすべての情報を絶滅政策の証拠とみなしている。

[12] Laqueur, Walter, Fascism: Past, Present, Future, Oxford UP, New York:1996, p. 141.

[13] ソ連特別委員会および同時代の報告は、死亡者を次のように確定している。トレブリンカ：300―350万、アウシュヴィッツ・ビルケナウ：少なくとも400万、マイダネク：150万、ソビボル、チェルムノ：数十万、ベルゼク：60万。上記の数字よりも少々多い1946年の死亡者見積もりについては、Aroneanu, Eugene, Inside the Concentration Camps, translated by Thomas Whissen, Praeger Publishers, Westport, CT: 1996, pp. 143-144参照。

[14] Ibid.,これは正確ではないかもしれない。Aroneanuの証人によると、ユダヤ人は、合計が同であれ、全体の90％を構成していたという。しかし、これは非論理的である。また、ナチスが非ユダヤ人の絶滅政策をとっていたというのも非論理的である。

[15] Butz, Arthur R., The Hoax of the Twentieth Century, Institute for Historical Review, Newport Beach, CA: 1992;, Gilbert Martin, Auschwitz and the Allies, Henry Holt & Co., NY:1982 を参照。ギルバートの論文"What Was Known and When", in Gutman, Y. & Berenbaum, M., Anatomy of the Auschwitz Death Camp, Indiana UP, Bloomington:1998、Martin, James J., The Man Who Invented 'Genocide', Institute for Historical Review, Newport Beach, CA: 1984; Dawidowicz, Lucy, ed. A Holocaust Reader, Behrman House, West Orange, NJ: 1976、Laqueur, Walter, The Terrible Secret, Little, Brown, Boston:1980.もこの章で有益である。

[16] Gilbert, op. cit., p. 40.しだいに明らかとなってくる理由から、ブンド報告の全体のテキストがワルシャワで編集されたものであるかどうか明らかではないようである。全文はDawidowicz, Reader, pp. 316-318 に掲載されている。これに先立つ最初ガス処刑物語がある。フォーリソンは、1942年12月22日のストックホルムのJewish Telegraphic Agency Bulletinに言及している。「ワルシャワ・ゲットーに密集していた1000名以上のチフス患者が、ガスで殺されている。」［Grundlagen, p. 10nに引用されている信頼できる資料による］。しかし、ラカーの伝統的な研究書は、ポーランドのさまざまな地下新聞、書簡などで広まっていた1942年初頭からの多くの報告を引用しているから、この話を信用していない。

[17] Gilbert, op. cit., pp.40-42

[18] Harris, Whitney R., Tyranny on Trial, Barnes & Noble, NY:1995 [orig. SMU Press, Dallas, TX: 1954], p. 352ffに掲載されている、特別部隊裁判でのオーレンドルフの証言を参照。

[19] Gilbert, op. cit., p. 43　この噂は、12月の説に明らかに由来している。上記の注参照。

[20] Dawidowicz, Reader, p. 215

[21] op. cit., p. 216

[22] 編集局の巻頭記事の全文はop. cit., p. 294f.注目すべきことに、オリジナルの記事を分析すると、虐殺行為が数え上げられているのは、ドイツの占領に対するブンドの抵抗を正当化し、ユダヤ人会議の協力を非難するためであることがわかる。この点に関しては、とくに、Trunk, Isaiah, Judenrat, University of Nebraska Press, Lincoln: 1996 とRingelblum, Emanuel, Polish-Jewish Relations During the Second World War, Northwestern UP, Evanston, IL: 1992 を参照。

[23] Ibid.後述するように、70万という数字がはじめて登場するのは1916年の記事である。see Laqueur, op. cit., p. , and Faurisson, cited below.

[24] Gilbert, op. cit., p. 43, passim. ブンド報告の目的はシオニストの共感を引き出すことではなく、むしろ、連合国による対ドイツ復讐を要求することであった。この傾向は、ガス処刑説を信じたのは一般的に亡命しているポーランド系ユダヤ人であったということを証明している。

[25] Gilbert, op. cit., p. 44

[26] Gilbert, op. cit., p. 43

[27] Gilbert, op. cit., p. 44

[28] Gilbert, op. cit., p. 46

[29] Gilbert, op. cit., p. 44

[30] Gilbert, op. cit., p. 45

[31] Ibid.

[32] この推理は、ブンド報告にはオスヴィエチム（アウシュヴィッツ）が言及されていないという事実にもとづいている。しかし、3月16日の地下アピールには言及されている。Dawidowicz, Reader, pp. 215-216.しかし、7月1日の記事にあるアウシュヴィッツに関する詳細は以前の通信にはない。

[33] HimmelfahrtについてはHarris, op. cit., p. 334.を参照。

[34] この推理は、BBCのイェディッシュ語放送が虐殺説を報道するに当たって優先権を持っており、後述するように、BBCは占領下のヨーロッパで広く聴取されていたという事実にもとづいている。BBC放送の分析がぜひ必要である。このフィードバック効果の証拠は後述される。Shermer, op. cit., p. 100fも参照。

[35] Gilbert, op. cit., p. 51

[36] Ibid.

[37] テキストはロンドンでアングロ・アメリカ人の聴衆がガス処刑のイメージを理解しやすいように書き換えられたであろう。彼らにとっては、毒ガスが容易に処刑と結びついたからである。毒（青酸）ガスは1924年から合衆国で使われていたからである。see Crowell, Samuel, "Technique an Operation of German Anti-Gas Shelters" at site referenced above, and is also available in German in Germar Rudolf's translation as "Technik und Arbeitsweise deutscher Gasschutzbunker im zweiten Weltkrieg" in VffG, I, 4, (XII, 1997), pp. 226-241, also incorporating some elements of "Defending Against the Allied Bombing Campaign."。Crowell, Samuel "Technique an  Operation of German Anti-Gas Shelters" at /incon/.inconpressac.html

[38] Gilbert, op. cit., pp. 56-58

[39] 「ガスかまど」という定式はゾンマー博士による。もっとも、彼が、のちに西側に伝えられたメッセージを作成したかどうかは定かではないが。Gilbert, op. cit., p. 56, 58n.

[40] Gilbert, op. cit., loc. cit.は、二つのメッセージには一つのもとになるもが存在し、「青酸」という要素をシュルテ氏に由来するものとするのは、リチャード・ブライトマンによるという議論を繰り返している。

[41] 約100万が、一般的な殺虫剤であったチクロンBからのシアン・ガスで絶滅されたというのが定説である。これについては後述する。その他の200万のガス処刑は、排気ガス、とくにディーゼル・エンジンからの一酸化炭素ガスで殺されたとされている。

[42] Gilbert, op. cit., p. 64f

[43] Stäglich, Wilhelm, Auschwitz: A Judge Looks at the Evidence, Institute for Historical Review, Newport Beach, CA: 1990, p. 112f (an English translation by Thomas Francis of Der Auschwitz Mythos, Grabert Verlag, Tubingen: 1979) から引用。

[44] この推論は Frank, Anne, Diary of a Young Girl (Definitive Edition), Bantam Books, NY:1997, p. 53にもとづいている。1942年10月9日の項目で、彼女は「イギリスのラジオ」でガス処刑の噂を聞いたと書いている。以下でもこのことを検討する。

[45] Gilbert, op. cit., p. 93f

[46] Martin, op. cit., p. 40. In The New York Times the following day, that is, 26 November 1942　参照。詳細は同一である。

[47] Gilbert, op. cit., p. 94

[48] Ibid.

[49] Martin, op. cit., p. 41

[50] 前述した1942年3月16日の通信とRothschild, Sylvia, ed.,Voices from the Holocaust, New American Library, NY:1981を参照。ここでは、ポーランド系ユダヤ人生存者が、すでに1942年にザクセンハウゼンの浴室に入る恐怖について回想している。p. 159, and habitual BBC listening by others, p. 129, 153.この証言は、この当時、シャワー・ガス処刑説＝噂が広く広まっていたことも指摘している。これはBBCのフィードバック効果という推論の根拠となる。

[51] この説の究極は、the Black Book of Polish Jewry, published in 1946 ,　Porter, Carlos Whitlock, The Holocaust: Made in Russia, Historical Review Press, n. p.:1988, p. 381に引用されている。

[52] Weber, Mark, "Jewish Soap" in JHR, vol.11, no 2.を参照。また Hilberg, Raul, The Destruction of the European Jews, Quadrangle Books, Chicago:1968, pp. 331, 470と比較していただきたい。戦争中の石鹸製造の噂を否定することと、ドイツは1944年頃にシュトットホフで石鹸製造実験を行なったというニュルンベルク国際軍事法廷でのソ連の主張とは区別されるべきである。後者は否定されていない。ウェーバー論文参照。読者はこの説を支持する宣誓供述書（Portal,op.cit.,pp.368-376に掲載されている）に直接目を通して、自分自身で判断したほうがよい。

[53] Martin, op. cit., p. 46

[54] Hilberg, op. cit., pp. 331, German propaganda division reports October, 1942, and NO-1660.

[55] Hilberg, op. cit., p. 331

[56] Martin, op. cit., p. 44

[57] Gilbert, op. cit., p. 130

[58] 「弾丸布告」については、Harris, op. cit.,参照。この用語の本当の意味については、Porter, Carlos Whitlock, Not Guilty at Nuremberg, Historical Review Press, Brighton, Sussex, UK:n. d., pp. 15-16,「ペダルでこぐ頭脳破壊器」については、Porter, Holocaust, p. 15, 378-380.を参照。

[59] Porter, Holocaust, p. 408

[60] Hahn, Fritz, Waffen und Geheimwaffen des deutschen Heeres, 1933-1945, Bernard & Graefe Verlag, München:1992, "Windkanone", vol. 2, p. 136fを参照。

[61] Paul, Allen, Katyn, Naval Institute Press, Annapolis: 1996; p. 210 ドイツは1943年4月13日にこの物語を発表した。

[62] Paul, op. cit., p. 254, ソ連の報告書の長さは38頁であった。

[63] 連合国の反応についてはPaul, op. cit., p. 222,とくに pp. 301-315, Martin, op. cit., pp. 65-69を参照。

[64] ドイツによるカチン事件の扱い方についてはPaul, op. cit., p. 208-210, 228-231, 270-273を参照。

[65] Gilbert, op. cit., p. 149. この裁判は、1943年7月14-17日に開かれた。See The People's Verdict: A Full Report of the Proceedings at the Krasnodar and Kharkov German Atrocity Trials, Hutchinson & Co., London:1944.「ドゥシェグプキ」は、殺人を意味する中性名詞「ドゥシェグプストヴォ」――文字通りには精神の破壊・崩壊（「息をする」という動詞から）――の女性名詞複数形である。だから、窒息という単語も同系統からの派生である。

[66] Weckert, Ingrid, "Die Gaswagen -- Kritische Wurdigen der Beweislage" in Grundlagen,がこの説を詳しく分析している。人民裁判での証言を検証すると、ガストラックについてのドイツ人被告やその他の証人の自白は、一字一句同じであるが、図面や現物とまったく関係付けられていないことが分かる。クラスノダル裁判に始まるこのテーマは、その後次のように発展していった。ドイツ人は、ソ連が「ガストラック」資料を入手したことを知ると、秘密の維持に躍起となった（PS-501資料のうちもっとも重要なものは、ソ連が作成した。see Weckert, op. cit., loc. cit.）。ヒトラーは1943年7月に個人的に、「ガストラック」情報の抹殺を命令した。死体は、犯罪の「痕跡を消し去るために」焼かれたというのである。

[67] Butz, op. cit., p. 82

[68] Butz, op. cit., p. 89,  "Babi Yar: Kritische Fragen und Anmerkungen" in Grundlagen, by Herbert Tiedemannも比較参照。

[69] 修正主義者は、ドイツ人とその補助者が射殺したユダヤ人の数、および、これらの射殺の理由を熱心に議論している。少なくとも数十万のユダヤ人を殺戮したことを示してる大量の文書記録を信用するに足りないとする理由はほとんどないようである。次の問題は、これらの射殺の理由に関係している。反パルチザン活動に関連している事例もあれば、復讐や懲罰活動に関係している事例もある。また、すべてのユダヤ人を殺害せよというナチス司令官のイデオロギー的関与に関係している事例もある。IMTとNMTの判決が支持する伝統的な説は、200万のユダヤ人男性、女性、子供が射殺された、そして、ユダヤ人であるというだけの理由で射殺されたというものである。100％信頼できる現存資料から引き出すことのできる総数は、約100万である。修正主義者は、射殺による絶滅説がガス処刑説と結び付けられているのと理由で、それを反駁している。もっとも、大量射殺の証拠は、ガス処刑の証拠とはまったく異なった規模を持っており、信憑性を持っているといわなくてはならないが。射殺説は独自のかたちで、もっと広く扱わなくてはならない。報復射殺というドイツの伝統という文脈と照らし合わせてみるべきであろう。そして、ユダヤ人の虐殺もその伝統に由来しているのである。

[70] The People's Verdict, p. 90.

[71] Ibid., p. 90, 91f

[72] ソ連検事団は、ニュルンベルクでの陳述の中で、この時期のウクライナ人移送者に対する性的な屈辱と侮辱を強調している。

[73] また注目すべきことに、ギルバートはAuschwitz and the Allies のなかで、ハリコフ裁判、The People's Verdictのことに触れており、アウシュヴィッツについての情報がどのように獲得されたのかを検証しようとしているにもかかわらず、アウシュヴィッツについてのハイニシュの証言を無視している。さらに、後述するように、ハイニシュの話は、1944年のアウシュヴィッツの物語よりも先行している。一次資料にせよ、二次資料にせよ、その他の資料を検証してみると、アウシュヴィッツに関するハイニシュとゾーマンの話にはまったく触れていない。

[74] Butz, op. cit., p. 146

[75] Butz, op. cit., p. 147．この話は、1944年のその他のアウシュヴィッツの話と同様に、ブラチスラヴァのヴァイスマンデル・サークルから登場したようであるが (cf. Dawidowicz, A Holocaust Reader, pp. 318-327)、6ヶ月前のハイニシュの証言を考えると、そこから派生したものであろう。

[76] Gilbert, op. cit., passim

[77] 例えば、Butz, op. cit.である。バッツは、「ごまかし」という単語を、それ意味しているよりは微妙に使っている。バッツの著作の議論を参照していただきたい。「ごまかし」という概念をもっともよく使っている修正主義者はフォーリソンである。

[78] Gilbert, op. cit., p. 66, and esp. 67, 135, 136 [Ziegelboym's suicide], Morgenthau, Henry III, Mostly Morgenthaus, Ticknor & Fields, NY:1991, p. 366, [Henry Morgenthau Jr.'s comment]

[79] Gilbert, op. cit., p. 56-58

[80] Trombley, Stephen, The Execution Protocol, Anchor Books, NY: 1993

[81] Gellermann, Günther W., Der Krieg, der nicht stattfand, Bernard & Graefe Verlag, München:1986, p. 186f

[82] このテーマに関する優れた修正主義的研究は、フリードリヒ・ベルグの二つの論文である。"Zyklon B and the German Delousing Chambers" 、"Typhus and the Jews"である。二つとも そのオリジナルはJHR に発表されたが、今日では、CODOH のサイトで利用できる。http://www.codoh.com/gcgv.html。疫病とその歴史での役割については、Marks, Geoffrey and Beatty, William K., Epidemics, Scribners, NY: 1976; Cartwright, Frederick F., Disease and History, Barnes & Noble, NY: 1996; McNeil, William, Plagues and Peoples, Anchor Books, NY:1976; Rosenberg, Charles E., The Cholera Years, University of Chicago, Chicago:1962; Zinsser, Hans, Rats, Lice, and History, Black Dog & Leventhal, NY: 1963; Dixon, Bernard, Magnificent Microbes, Atheneum, NY:1979; Schimitschek, Erwin, & Werner, G. T., Malaria, Fleckfieber, Pest, S. Hirzel Verlag, Stuttgart:1985, Hobhouse, Henry, Forces of Change, Arcade, NY:1990が有益である。

[83] Carwright, op. cit., inter alia がとくに水に媒介される疫病について詳しく議論している。

[84] Schimitschek, op. cit., p. 90

[85] Rosenberg's book, op. cit.は病原についての明確な理解がないままに予防医学が発展したことについて詳しく扱っている。また、下記のEvansも参照。

[86] Encyclopedia Brittanica, [hereinafter, EB] 12th Edition (1922), Typhus, vol. XXXII, p. 825-827, と下記のEvans参照。

[87] Zinsser, op. cit.,, Marks op. cit., Hobhouse, op. cit.を参照。また、[110]に引用したGoodall参照。

[88] チフスの重要な特徴はDixon, op. cit., p. 201fに引用されている。

[89] Ibid., またGoodallも参照。

[90] ここで重要なことは、初回の感染後長年経って生じうるチフスの再発は、穏やかな発熱をもたらすことである。しかし、「ブリル・ツィンザー病」を患った人がシラミの蔓延している共同体に暮らしていると、 シラミを介して、疫病と死を共同体にもたらす。ツィンザーのコメントZinsser, op. cit., p. 235, 235-239を参照。このなかで、彼は、二種類のシラミが媒介する病気を概説している。腸チフスに関しては、犠牲者の約１％（女性だけ）が、病原菌を胆嚢のなかに永遠に保有しているようになることが知られている。「腸チフス・メアリー」参照。

[91] Starkenstein, E., "Hygienische und sanitäre Verhältnisse Polens. Ein Beitrag zur Ostjudenfrage" in Archiv für Soziale Hygiene und Demographie, 1 & 2 Heft, 12.VI.1917, pp. 19-38, が特徴的である。ユダヤ教徒以外の住民も同じ問題を抱えていた『エンサイクロペディア・ブリタニカ』のチフスに関する項目参照。

[92] ロシアでは作物の生長と収穫に時期が短かく、収穫率が3:1を越えることはないというようなその他の要因のために、このことはロシア史の自明の理であった。Hobhouse, op. cit.が詳しく論じている。

[93] これは「ポグロム」と呼ばれ、ロシアの内乱が終結するまで続いた。この反ユダヤ活動の起源は様々である。宗教的な反ユダヤ主義（すなわち、血の名誉毀損非難）によるものもあれば、ユダヤ人だけではなくすべての少数民族が影響受けた「ロシア化」政策によるものもあれば、他の民族（ギリシア人、ドイツ人）との経済的競合によるもののあれば、  東ヨーロッパのユダヤ人が農民層――解放されたばかりで、社会的、経済的、人工的な諸条件に適応しようと努力していた――と対立していたという特殊な立場によるものもある。このうちのいくつかは、ホブハウス前掲書にある。簡単に言えば、当時および問題としている時期の反ユダヤ的暴力をもたらした環境は、きわめて多様であり、共通していることは、ロシア帝国のなかで大きな、根本的な変化が起こっていたことであり、それによって、ロシア帝国は1917年の革命に急速に向かっていったのである。後述することになろうが、多くのユダヤ人の観察者は反ユダヤ的暴力の原因をたんにユダヤ民族に対する憎悪で説明し、また、ユダヤ人歴史家も、その勃発を政府による教唆とみなしがちであった。

[94] Howe, Irving, World of Our Fathers, Harcourt, Brace, Jovanovich, NY: 1976, pp. 29-38で扱われている。

[95] Antin, Mary, The Promised Land, Penguin, NY: 1997, p. 138f この本は元々1912年に出版され、メアリーが1893年春にプロツクからボストンに着いた直後に、ロシアにいる伯父にイェディッシュ語で書いた手紙をもとにしている。この文章は、Howe, op. cit., Markel, cited below, and Jan Van Pelt and Deborah Dwork, Auschwitz: 1270 to Present, W. W. Norton & Company, New York: 1996.にも引用されている。

[96] ハンブルクについては、Evans, Richard J., Tod in Hamburg, a magnificent social history of the Free City (in German translation from the English), Rowohlt, Reinbek bei Hamburg: 1996を参照。ニューヨークについては、Markel, Howard, Quarantine!, Johns Hopkins UP, Baltimore and London: 1997を参照。

[97] Markel, op. cit., p. 52, 50

[98] Markel, op. cit., p. 54, p. 44f.チフスを発病させるのは患者の血液のなかのリッケチアであり、血液からシラミに伝わり、シラミから別の人間に伝わる。1892年には、シラミが媒介者であるとは理解されていなかった。だから、シラミが発生している環境で、隔離を拒否すれば、この疫病は簡単に広まった。

[99] Markel, op. cit., p. 63

[100] Markel, op. cit., p. 65

[101] Becker, Helmut, Äskulap zwischen Reichsadler und Halbmond, Helmut Becker, n. p., 1990 は第一次資料や回想録からの抜粋を多く含む広範な研究である。

[102] Becker, op. cit., p. 3, and compare discussion of Badeanstalten to control typhus, p. 126, Use of petroleum, p. 191, discussion of Apparat, p. 361-362, etc.

[103] Ibid.

[104] cf. "Ihm lagen zugrunde die Erfahrungen, die ich bei der Typhus- und Ruhrbekämpfung in Nordchina und bei der Genickstarrebekämpfung in München gemacht hatte. Sie lautete kurz: Heraus aus den versuchten Häusern, in weit angelegte, gesund gelegene, womöglich weit entfernte, auf Bergen gelegene Lager, vorher aber energische Reinigung aller Personen, Desinfektion aller Kleidungs- und Wäschestücke, die neuen Lager nur mit völlig gereinigten und neu gekleideten Truppen betreten lassen. Einschränkung des Dienstes, aber doppelte Rationen. So geschah es auch. Die Desinfektionswagen führen vor die Kasernen, Truppenteil für Truppenteil wurde gebadet. Dann die neue Kleidung empfangen, und sofort nach dem Zeltlager abgerückt. In der Kaserne wurde dann die alte Kleidung, Wäsche, Bettzeug desinfiziert, die Zimmer mit Formaldehyd und gegen die Läuse mit schwefelige Säure vergast." quoted from Meyer's memoirs, Becker, op. cit., p. 38

[105] Becker, op. cit.

[106] EB, article Typhus, loc. cit.

[107] Becker, op. cit.はこの時期のヨーロッパ・トルコ領での精力的な害虫駆除措置の記述から推測している pp. 368-388。また、鉄道の害虫駆除トンネルに関する議論も参照p. 374.

[108] "Request for Additional Information on the Myth of 'Gassings' of Serbs in World War One", Robert Faurisson, JHR, vol. 11, no. 2

[109] Ibid.

[110] ドイツ軍が第二次大戦中に可動消毒室をもっていたことについては、Crowell, Samuel, Technique and Operation of German Anti-Gas Shelters参照。

[111] 第一次大戦中のドイツの害虫駆除措置については、Blumberg, Dr., "Über behelfsmäßig herstellbare Anlagen zur Entlausung und Desinfektion im großen" in Öffentliche Gesundheitspflege, Heft 10, 1918, pp. 353-364; Wolf, Dr. "Das Desinfektionsverfahren mit Blausäure" in Öffentliche Gesundheitspflege, Heft 2, 1919, pp. 54-66; Wolf, Dr. "Das Desinfektionsverfahren mit Blausäure (Zusammenfassende Übersicht II)" in Öffentliche Gesundheitspflege, Heft 4, 1922, pp. 126-130; イギリスの措置については、Goodall, 1919年のアメリカのチフス救援隊については、Cornebise, Alfred E.,Typhus and Doughboys, University of Delaware Press, Newark, NJ:1982

[112] Celarek, Dr., "Über die unter der Zivilbevölkerung Lublins im Jahre 1915/16 herrschende Fleckfieberepedemie und ihre Bekämpfung" in Öffentliche Gesundheitspflege, Heft 11, 1917, pp. 597-602; articles by Starkenstein above, and Frey, below.

[113] Frey, Dr. "Die Bekämpfung der Fleckfieberepedemie in der Zivilbevölkerung des Generalgouvernements Warschau in den Jahren 1915/16", in Öffentliche Gesundheitspflege, Heft 1, 1917, pp. 12-30, （イェディッシュ語の指示は、ドイツ文字を使いながら pp. 21-25にある。Fig. 11を参照。この論文は有益な写真を多く掲載している。次のHeftは論文の続きである）。

[114] Goodall, E. W., "Typhus Fever in Poland" in Proceedings of the Royal Society of Medicine,vol. 13, April 23, 1920に引用。

[115] Goodall, loc. cit., Cornebise, op. cit., Zinsser, op. cit. その他。

[116] Goodall, loc. cit., Cornebise, op. cit.

[117] Goodall, loc. cit., Cornebise, op. cit., passim!, しかし、p. 94, p. 96を見よ。（コルネビスはユダヤ人への不満を『反ユダヤ主義的』と特徴づけている。 p. 122.しかし、Isaac Bashevis Singer's historical novel, The Family Moskat, (Fawcett Crest, NY:1950, p. 376)には当時の状況を示す記述がある。「チフスの蔓延の恐れがあった。コレラの発生さえも報告されていた。当局は、民間人の害虫駆除用のバラックを急いで割り当てた。正統派のユダヤ人はひげと長いもみ上げを切らねばならず、女たちは髪を短くしなくてはならなかった。このような侮辱に耐えられない人々のために、賄賂を取って偽の害虫駆除証明書を手に入れてやる「フィクサー」グループがすぐに出現した。

[118] Cornebise, op. cit., p. 93, 96-97, 98-100, 115

[119] Berg, Friedrich, Zyklon B and the German Delousing Chambers

[120] Berg, Zyklon B

[121] ここで「ゆっくりと」と述べているが、本来、ガスの放出はもっと早い。このために、缶の貯蔵機関の問題を生じ、缶が開けられる前に液体が不安定になってしまうという危険をたびたびもたらした。ゲルマール・ルドルフの研究は、1930年代に、放出を引き伸ばすために、石膏が添加されたことを発見した。

[122] これは、1942年のR．Irmscherの論文に示唆を受けた。それによると、石膏（ERCO）が添加された丸薬からのシアンの放出は、華氏59度で3時間後である。この点と前述の点についてはルドルフ報告の最新バージョンを参照。http://www.vho.org/

[123] Berg, Zyklon B

[124] Berg, Zyklon B

[125] Berg, Zyklon B

[126] Berg, Zyklon B

[127] Berg, Zyklon B

[128] Handloser, Siegfried, ed. Wehrhygiene, Springer-Verlag, Berlin:1944, in the article by B. Schmidt, "Desinfektion, Sterilisation, Entwesung", lists several, including Zyklon, Ventox, Tritox, Cuprex, Formaldehyde.

[129] Ibid., p. 193f

[130] Kalthoff, u. a., Die Händler von Zyklon B, VSA, Hamburg:1999はその他のガスの詳細、およびハンブルクのテシュ・シュタベノフ社の害虫駆除活動にかかわる害虫駆除物質の歴史について記している。

[131] Kämper, "Die Umgestaltung und Vergrößerung der Desinfektionsanstalt der Stadt Dortmund" in Gesundheits-Ingenieur, 27.IX.41; Stangelmeyer, Josef, "Genormte, zerlegbare Rohrleitungsnetze für die gesundheitstechnischen Anlagen der ortsveränderlichen Unterkünfte des Reichsarbeitdienstes" in Gesundheits-Ingenieur, 25.VI.42; Konrich, Friedrich, "Über die Sanierungsanstalten der deutschen Kriegsgefangenenlager" in Gesundheits-Ingenieur, 19.VII.41; Puntigam, Franz, "Die Durchganglager der Arbeitseinsatzverwaltung als Einrichtungen der Gesundheitsversorge" in Gesundheits-Ingenieur, Heft 2, Jahrg. 1944, pp. 47-56; other references of relevance to World War Two include:(articles): Ruppert, Joseph, "Gesundheitsverhältnisse und Seuchenbekämpfung im Generalgouvernement", in Der praktische Desinfektor, June, 1941, pp. 61-74; Finger, Georg, "Grundsätzliches zur Läusebekämpfung mit Imprägnierungsmitteln" in Der deutsche Militarartz, June, 1944, pp. 295-297. Relevant titles include Haag, Friedrich Erhard, Lagerhygiene, J.F. Lehmanns Verlag, München-Berlin: 1943; Walbaum, Jost, Kampf den Seuchen! Deutscher Ärzte-Einsatz im Osten, Buchverlag "Deutscher Osten", Krakau:1941. 

[132] Kämper, loc. cit

[133] Ibid.

[134] Stangelmeyer, loc. cit.

[135] Walbaum, op. cit.はこの資料の一つである。Trunk, Judenratは、これらの措置に従うことに逡巡があったことを記している。Browning, Christopher, The Path to Genocide, Cambridge UP, Cambridge, 1992, pp. 145-168 といったホロコースト史家の著作もそのことを指摘している。

[136] Trunk, Judenrat, p. 165で議論されている。この本の第7章はここでも非常に有益であり、役に立つ。残念なことに、トルンクは後述するユダヤ人歴史家の傾向にしたがっている。すなわち、発生したすべての災難を、誰かの陰謀的な計画の一部であるとみなしているのである。だから、ゲットーで起こった疫病の流行は、ナチスの「悪魔的」計画の一部とされているp. 143。しかし、ドイツが防疫のために巨額を支出したことを考えると、この解釈は支持できない。

[137] Buchner, Alex, Der Sanitätsdienst des Heeres, 1939-1945, Podzun-Pallas,　Wölfersheim-Berstadt: 1995

[138] Rothschild, op.cit.とTrunk, Jewish Responses to Nazi Persecution, Stein & Day, NY: 1981, both passimで議論されている。

[139] Vonnegut, Kurt, Slaughterhouse Five, Dell, New York:1988, p. 84

[140] Rothschild, op. cit., p. 159とTrunk, Responses, p. 162を参照。トルンクの本には、このことに関するイェディッシュ語の証言が掲載されており、その多くは終戦直後のものである。

[141] Butz, op. cit., p. 212, Hilberg, op. cit., p. 619

[142] Puntigam, "Durchganglager" loc. cit.

[143] Novitch, Miriam, Sobibor: Martyrdom and Revolt, Holocaust Library, NY:1980

[144] Ibid.

[145] トレブリンカに関する標準的な研究は、シュタイナーの小説家的な記述、アンドリュー・アレンとマーク・ウェーバーの論文である。とくに、アルヌルフ・ノイマイアーの論文"Der Treblinka-Holocaust" は詳しく検討しており、収容所の活動を広い文脈の中で扱っている。

[146] 『現代史の基礎』276頁にあるマイダネクの浴室・害虫駆除施設の平面図を参照。

[147] トルンクとノヴィチの本には、西側からやってきた人々（とくにオランダ人）がソビボルについたときに、シャワーを歓迎したという証言がある。それが意味するとことは非常に明白であり、ポーランド系ユダヤ人のほうがよく知っていたということである。

[148] Gilbert, op. cit., pp. 262-264　 要約というかたちとなっている。後に戦争難民局報告にまとあげらるこの資料の変化については、Miroslav Karny, "The Vrba and Wetzler Report", in Gutman, Y. & Berenbaum, M., Anatomy, pp. 553-568.に詳しい。

[149] Ibid.7月報告は要約というかたちになっているけれども、11月の戦争難民局報告にはない誤り（例えば、「メガサイクロン」）、後の報告に含まれるようになる箇所（ 最初のガス処刑でののぞき穴）の欠落がある。Karny 論文は、報告にはその都市のあいだに手が加えられたと述べているが、オリジナル原稿は現存していないとも述べているので、彼がどのようにそれを要りえたのかを検証するのは難しい(Karny, op. cit., loc. cit., p. 564n5.)。

[150] Ibid.

[151] Martin, op. cit., p. 145

[152] チクロンはパウダー状では機能しない。詰め込まれた地下室では、最適な温度とはならない。パウダー状で機能するシアン製品もあるが、これはここで問題となっているものではない。

[153] バグラチオン作戦のことである。これはバルバロッサ三周年と、西側連合軍がノルマンディに釘付けになっていた時期にあわされていた。ソ連軍がこの進撃の過程で何に遭遇したか、どのような領域がカバーされていたのか正確に評価することは、戦争中にここで起きたことに関する諸説を検証する上で、きわめて重要である。

[154] Martin, op. cit., loc. cit. Jurgen Graf と Carlo Mattognoの最近の著作 KL Majdanek: Eine historische und technische Studie, Castle Hill, Hastings:1998は、この収容所についての徹底的で不可欠な研究である。

[155] Communique of the Polish Soviet Extraordinary Commission for Investigating the Crimes Committed by the Germans in the Majdanek Extermination Camp in Lublin, Foreign Languages Publishing, Moscow:1944 スタンフォードのフーバー図書館にあるこの資料は、Philip Traurigのおかげで、インターネットでも閲覧できるようになった。ソ連・ポーランド説の分析については、 Graf & Mattogno, op. cit., p. 119f 。当時の出版物の動きについては、W. H. Lawrence "Nazi Mass Killing Laid Bare in Camp", in Reporting World War II, Part Two: American Journalism, 1944-1946, Library of America, New York: 1995, pp. 267-273.

[156] Communique, op. cit., pp. 13-17

[157] Ibid.

[158] Aroneanu, op. cit.しかし、われわれがここで使っているCommuniqueのテキストではない。

[159] Graf & Mattogno, op. cit., p.

[160] Communique, op. cit., loc. cit.

[161] Graf & Mattogno, op. cit., p.

[162] Communique, op. cit., loc. cit.

[163] Communique, op. cit., loc. cit. 一酸化炭素のボンベについての記述はあるけれども、このテキストからは、一酸化炭素の源と（あるいは）ボイラーの機能については明らかではない。このために、のちに混乱が生まれた。合衆国ホロコースト記念館のウェッブ・サイトhttp://www.ushmm.orgの写真#0326は、このボイラーを、「一酸化炭素」を発生させる「炉」としている。

[164] loc. cit.マイダネクの「ガス室」のドアの写真参照。

[165] Grundlagen, p. 278 は、マイダネクに関して四つの非常に興味深い写真を掲載している。

[166] David Cole's "Forty Six Unanswered Questions About the Gas Chambers"は、マイダネクだけではなく、アウシュヴィッツ・ビルケナウを検討するにあたっても、重要である。CODOHのサイトにある。

[167] Graf & Mattogno, op. cit., p. , and see the discussion in Schmidt, in Handloser, op. cit.

[168] see Crowell, Defending Against the allied Bombing Campaign, Part 2

[169] 湿気と水分はガスの放出を妨げる。

[170] Grundlagen, photos on p. 278参照。

[171] op. cit., loc. cit., p. 277, 129n

[172] Gilbert, op. cit.

[173] Gilbert, op. cit.

[174] Gilbert, op. cit., for coverage in the NY Times, see Reporting World War II, John H. Crider, "U. S. Board Bares Atrocity Details Told by Witnesses at Polish Camps", pp. 553-559

[175] Dawidowicz, Reader, p. 119 

[176] compare Gilbert, op. cit., loc. cit., or Dawidowicz, op. cit., loc. cit.

[177] 戦争難民局報告がさまざまな噂を組み合わせたものであることは、1985年の最初のツンデル裁判で確証された。ここで、交差尋問を受けたルドルフ・ヴルバは、噂を繰り返したこと、自分が記述したことについての目撃者ではなかったことを認めた。さらに、逃亡した2週間後に、ユダヤ人に警告するという「切迫した必要に」かられて作成した1944年のアウシュヴィッツの記述の中の「誤りを良心に従って擁護する」という。"Book 'An Artistic Picture'", Dick Chapman, Toronto Sun, January 24, 1985

[178] Novitch, op. cit., passim

[179] Ibid.

[180] ドイツは自分たちの犯罪の痕跡を隠すために解体したというのが定説である。しかし、われわれの理論では、施設は使用後に解体された。

[181] 戦争直後に登場したこれらの収容所に関する「資料」のすべては、証言から成り立っている。セレニイのInto that Darknessには、1970年代初頭に行なわれた収容所長フランツ・シュタングルとのインタビューなるものが載っているが、このインタビューは、細部に関してはほとんど何も語っていないことは別としても、定説を立証するような証拠をまったく示しておらず、定説をたんに繰り返しているだけである。

[182] Ibid.

[183] Ball, John Clive, Luftbild Beweise, in Grundlagen, German translation of "Air Photo Evidence"これはボールのサイトhttp://www.air-photo.comでも読むことができる。

[184] 後述するSoviet Special Commission, USSR-8。

[185] Stäglich, op. cit.にはこのときのいくつかの写真が掲載されている。

[186] これは戦後のSS隊員の宣誓供述書によっているが、確証されていない。興味深いことに、後述するチェクは、この件を26日としているが、一日前（11月25日）には、焼却棟の解体を命じる出所不明の文書について言及している。

[187] 「ガス処刑中止」命令の背後にある事実については、"Himmlers Befehl, die Vergasung der Juden zu stoppen" in VffG, I:4 (XII:97), pp.258-259

[188] Documents of the US governmentはSheftel, Yoram, Defending Ivan the Terrible, Regnery, Washington, DC: 1996, p. 378に再掲載されている。レレコのインタビューはこの資料のなかでもっとも早く記録されたものであることを指摘しておかなくてはならない。しかし、ソ連が、レレコの尋問が始まる二ヶ月前にトレブリンカに関する自分たちの「特別委員会」報告を発表しており、これが事実を定めてしまっていると指摘しておくことも重要である。後述する「教会法的なホロコースト」参照

[189] のちの二つのレレコ供述は、イヴァン・デムジャンジュクの有罪判決をくつがえすうえで、決定的な役割を果たした。だから、広く知られており、広く引用されている。Nizkorのサイトhttp://www.nizkor.org.にもある。

[190] Ibid.

[191] その他の宣誓供述書が比較的重要でないためである。もちろん、この件を詳細にカバーしているその他の証言もある。

[192] 例えば、1950年からの様々なトレブリンカ裁判での説明やランツマンの『ショアー』 でのフランツ・ズホメル証言を参照。

[193] Communique, loc. cit.

[194] Roques, Henri, The 'Confessions' of Kurt Gerstein, Institute for Historical Review, Newport Beach, CA: 1989 は、ゲルシュタイン供述と彼の生涯についての標準的な分析である。 cf. P. 90.

[195] Ibid., p. 122f. ロックの研究は、クルト・ゲルシュタインの陳述の分析だけに厳格に向けられており、ガス処刑説やホロコーストのその他の側面に関心を向けていないことを指摘しておくのは重要である。

[196] Ibid.

[197] Ibid.Dawidowicz, Reader参照。このアンソロジーには、ガス処刑に関する部分だけが掲載されている。

[198] Dawidowicz, loc. cit.例えば、ロックはその他のいくつかの部分を引用しているop. cit., pp. 143-156.

[199] Roques, op. cit., 何と8つもの異なったバージョンの構成要素についての詳しい表がpp． 117-118にある。

[200] 収容所では60万が殺されたとするゲルシュタイン証言を唯一「確証」しているのは、同じくディーゼル・エンジンが2時間半故障したと述べている1946年のルドルフ・レーダーの本である。プファンネンシュティールの「自白」はあとに登場する。連合国による彼の尋問についての興味深い検証は、Roques, op. cit.を参照。

[201] Furet, Francois, Unanswered Questions, Schocken Books, NY: 1989, Adam, Uwe Dietrich, "The Gas Chambers", 35n, p. 350, 72n, p. 352 pp. 134-154

[202] のちに引用するNoakes, op. cit.も、ゲルシュタインを使う研究者の大半と同じく、自分が削除していない個所で注釈をつけている。

[203] ベルグは、もっと前のソ連の宣伝ではないとしても、ディーゼルというモチーフが1943年7月のクラスノダルでのガストラックにさかのぼると信じているけれども、このことは明らかなようである。

[204] ヴァースの話は第15章の冒頭で扱われる。

[205] Roques, op. cit.,NI-9912として知られている資料。この資料をフランス語に翻訳したことは、修正主義者としてのフォーリソンの初期の業績のひとつである。

[206] cf. Communique 

[207] ラッシニエはこれをDebunking, q. v.で非常にうまくまとめている。

[208] ベルクのThe Diesel Myth には様々なバージョンがあるが、Grundlagenのなかのバージョン、あるいはCODOHサイトの同じ資料をカバーする論文の一つを参照。

[209] アイヒマンは1960－61年の尋問で、多分、ゲルシュタイン陳述に言及しながら、潜水艦のエンジンの使用について言及している。用途は明確ではないが、ドイツ人が両大戦で、ドイツ女性から髪の毛を集めていたことを指摘しておかなくてはならない。第一次大戦では、ゴム製の運転ベルトを強化するために女性の髪の毛が使われた。

[210] ref. to effect of the Communique, and the WRB report.

[211] Roques, op. cit.

[212] Reilly, Jo, ed., Belsen in History and Memory, Frank Cass, London:1997; Gödecke, Monika, ed. Konzentrationslager Bergen-Belsen: Berichte und Dokumente, Vendenhoeck & Ruprecht, Göttingen:1995

[213] Reilly, op. cit.とくに、ポール・ケンプの論文 "The British Army and the Liberation of Bergen Belsen April 1945", pp. 134-148を参照。

[214] ブッヘンヴァルトが解放されたのは、ベルゼンよりも数日前のことであるが、ダッハウとマントハウゼンをふくむ収容所の実態が知られるようになったのは、この月の末のことであった。Hackett David A., The Buchenwald Report, a translation of a contemporaneous US Intelligence Report, translated by Hackett with an introduction, Westview Press, Boulder, CO:1995のなかの議論と年表を参照。

[215] Aroneanu, op. cit., p. 106を参照

[216] Irving, Nurembergにはアメリカ軍の将校が機関銃で射殺している写真が掲載されている。

[217] cf., Edward R. Murrow, "For Most of it I Have No Words", pp. 681-685, and Martha Gellhorn, "Dachau", pp. 724-730, in Reporting World War II, op. cit.

[218] こうした感情が、ナチヴァイラー・シュトルトホフとダッハウで検死を行なうという決定をあおったに違いない。どの収容所からの検死報告も、シアン・ガスによる毒殺が行なわれたとは結論してはいない。

[219] Aroneanu, op. cit., p. 129, ブッヘンヴァルトに関するアメリカ人の報告からの引用。

[220] Kamp article, loc. cit., in Reilly, op. cit., p. 147.しかし、フリッツ・ベルグは、これがポーランドでの疫病――ほとんど知られていないが、大流行していた――に続くものであったと示唆している。たしかに、1944－48年にブク川とドニエプル川のあいだの地域で起こった諸事件は、依然として詳しい研究・調査を待つまでである。

[221] これが標準的な修正主義者の見解である。クラマー所長については Butz, op. cit.を、インフラストラクチャの破壊に関する資料については、Berg, "Typhus and the Jews"を参照。にもかかわらず、伝統的なホロコースト史家は、これらの死を意図的なものとみなしている（ラッテク論文 in Reilly, op. cit.参照）。この点で、興味深いことは、1945年春にベルゲン・ベルゼンを襲った大流行では、3月1日から4月6日までの死者の合計18168人のうち、183名だけが、ユダヤ人囚人のための特別な「スター・キャンプ」からの死者であり、321名がユダヤ人囚人のための特別な三つのサブ・キャンプからの死者であったことである（これに対して、女性収容所では約4000名、囚人収容所2では11000名であった）。Gödicke, pp. 164-165に引用されている表。

[222] Testimony of Dr. Russell Barton, in Kulaszka, Barbara, ed. Did Six Million Really Die?, on the Zündel-site.

[223] Aroneanu, op. cit., photo, before p. 138 はこのような写真の詐術や誤解の典型であろう。害虫駆除室の前でもの悲しそうな兵士が立っており、「アメリカ軍兵士が、ガス室にチクロンBの丸薬を送り込むコントロール室への入り口を眺めている」というキャプションがついている。

[224] マルチン・ブロシャートの手紙は、Die Zeit, 26 August 1960に掲載された。Butz, op. cit., p. 47参照。

[225] イギリス人はベルゼンで「ナチス文化」という標識をたてた。その写真はin Reilly, ed. op. cit

[226] USSR-8という資料のテキスト全文はカルロス・ポーターの訳でCODOHサイトにある。http://www.codoh.com/trials/triussr8.html

[227] Ibid.

[228] Ibid.

[229] Ibid.

[230] Ibid.

[231] この裁判のおもな資料は Philips, ed. Trial of Josef Kramer and 44 Others, であるが、入手することが難しい。Also known as volumr II of War Crimes Trials under the editorship of Sir David Maxwell-Fyfe.イルマ・グレーゼについては、Brown, Daniel Patrick, The Beautiful Beast, Golden West Historical Publications, Ventura: 1996.参照

[232] Brown, op. cit.

[233] Philips, op. cit.

[234] Philips, op. cit., pp. 718-737, 738f. Gödeckeは 5月2日と5月22日の二つの日付を与えている。もし、後者であるとすると、ヒムラーの死との近さは驚くべきことである。前者であるとすると、4日後に発表されたソ連特別委員会の比重が高くなる。

[235] Reitlinger, SS: Alibi of a Nation, Da Capo, NY: 1995

[236] Philips, op. cit., loc. cit.

[237] Ibid.

[238] 前述したように、1943年12月のソ連によるハリコフ裁判がそれに先行していた。

[239] Butz, op. cit., loc. cit.もクラマーについて同じ議論をしている。クラマーの証言の質については、Robert Faurisson, "Sur la pretendue 'chambre a gaz' homicide du Struthof, les trois confessions successives et contradictoires de Josef Kramer"

[240] Gödicke op. cit., pp.231-233 は三つのベルゼン裁判の被告（全部で55名）とその判決のリストを掲載している。あまり知られていないことは、1ダースほどの被告がカポーすなわち囚人だったことである。だから、囚人は検事側の告発と正統派の解釈を支持する動機を強く持っていたに違いない。ある囚人は、解放の時にSSの制服を着ていたとの理由で、告発され、裁判にかけられた。

[241] グラブナーの自白は Klee, Ernst, u.a., Hrsg., " Schöne Zeiten", S. Fischer Verlag, p. 228 に引用されている。

[242] Philips, op. cit., p. 68, 740ff, in both direct testimony and sworn affidavit.

[243] 今日でも、ダヴィドヴィチ（1974）、イェフダ・バウアー（1982）その他のように、もっと大きな数を主張する人々もいるが、アウシュヴィッツでの死者の総計は100万以下であったというのが、ライトリンガー（1953）からプレサク（1993年）までのコンセンサスである。

[244] Carlo Mattogno, "Two False Testimonies from Auschwitz", in Jounral of Historical Review, Vol. 10, Number One, Spring, 1990.

[245] quoted in Shirer, Rise and Fall, p. 1141

[246] 当然ながら、尋問官は情報を引き出そうとする。だから、どの情報に価値があり、どの情報が真実であるのか、あるいはそうでないのかについて、基準を持っていなくてはならなかった。教会法的なホロコーストがこの基準を提供した。Ruthven, Malise, Torture: The Grand Conspiracy, Weidenfeld & Nicolson, London: 1977, p. 275のなかのコメントを参照。

[247] Reilly, op. cit.はベルゼンのイメージがどのようにしてブッヘンヴァルトのような他の収容所にもオーバーラップさせられていった状況を記している。映画「ニュルンベルクでの判決」もそうである。例えば、Grundlagen, p.223を参照。ベルゼンの埋葬壕の写真がアウシュヴィッツに移し替えられている。

[248] この点は広く認められている。とくに、 Morgenthau, op. cit. Tusa, Ann and John, The Nuremberg Trial, Atheneum, NY:1983, pp. 21-28を参照。Irving, Nurembergの第二章「リンチ法」はこの問題を広く扱っている。

[249] ルーズベルト大統領自身が、ドイツ人を去勢するという妄想にとりつかれていた。 Morgenthau, op. cit.参照。 Butz, op. cit.,はクリフトン・ファディマンとアーネスト・ヘミングウェーを引用している。アーヴィングは、Goebbels, p. 369, 372-373のなかで、この考え方をアメリカ系ユダヤ人の本にまでさかのぼっている。

[250] Deighton, Len, Blood, Tears and Folly, Harper, NY:1994, pp.194-195

[251] Cohn, Norman, Warrant for Genocide, Serif, London:1996 はシオンの兄弟の議定書の研究であり、この資料の多くを要約し、資料のルーツを明らかにしている。残念ながら、コーンはゲルシュタイン陳述から派生した陳述を無批判的に、かつ誤って理解している。p. 236 参照。民族社会主義者の大量ガス絶滅計画という概念が、民族社会主義者も含む多くの人々がユダヤ人ついて思い浮かべる議定書の裏返しであることに気づくであろう。だからこの意味で、引用にあたってのコーンの選択は適切である。すなわち、ゲルシュタイン陳述は議定書の鏡なのである。さらに、議定書の概念（今日でも、陰謀理論の多くを含んでいる）が広く知られていることは、今問題にしているようなテーマ、すなわち近代性のある側面に対する、本質的に神秘主義的な反応であることに気づくであろう。

[252] Collins, Richard, The Plague of the Spanish Lady, Atheneum, NY: 1974, p. 83.

[253] Cohn, Norman, The Pursuit of the Millenium, also Ruthven, op. cit.二人とも（そして、現代の研究者の多くも）、魔女狩りの原因を社会的緊張、したがってイデオロギー的な緊張に求めている。

[254] 国会放火事件は、双方向に衝撃を与えた古典的な事例である。民族社会主義者は、共産主義者が放火したと確信していたし、ドイツ人以外の人々の大半は、ドイツの有罪を確信していた。フリッツ・トビアスの研究は、ヴァン・デア・ルーベが単独で放火したことを明らかにしている。政治的な利益を引き出すには最小の損失をもってすべきであるという法則は、陰謀説を追い払ったのである。Tobias, Fritz, The Reichstag Fire, Secker and Warburg, London:1962.参照。放火事件が全権授与法の成立を促したという意味で、ヒトラーがこの事件で得をしたので、この事件は長い間ナチスの陰謀であるとみなされていた。Shirer, Rise and Fall 参照。

[255] ここでは扱わないが、十分な研究に値するテーマは、連合国がドイツを平和国家化しようとしており、そのためには、国民の非軍事化だけではなく、その軍事的・政治的指導者の信用を貶めようとしていたことに関してである。ルシウス・クレイは回想録『ドイツでの決定』のなかで、ニュルンベルク裁判の結果、すなわちナチス党の名誉が貶められたことを率直に語っている。[Doubleday, NY:1950, pp. 250-252]　同時に、クレイは、軍事的指導者の名誉を貶めることはあまり成功しなかったと記している。[Ibid.]だから、虐殺の告発（ガス処刑説も含む）の追及が際限もなく行なわれ、行なわれることを認められ、まったくチェックされないままに宣伝することを認められてきた理由は、それが民族社会主義の名誉を貶めるという単純な目的に適っていたためであることを理解すべきである。しかし、これらの告発が認められてきたのは、民族社会主義の名誉を貶めているからであるとはいっても、これらの告発に疑問を呈することは民族社会主義を擁護することにはならないのである。

[256] ゲルシュタイン陳述に登場するプファンネンシュティール博士の尋問は特徴的である。Roques, op. cit., pp. 299-308 参照。

[257] Life Magazine, May 8, 1945 はいくつかの事例を提供している。しかし、これは兵士や新聞記者の共通の感情であった。

[258] これは Ruthven's book, op. cit.のメインテーマである。興味深いことに、ヒトラーの復活という陰謀がこの考え方を繰り返している。Life, issue cited above,参照。 New Yorker, article cited below, 「人狼」、「アルプスの秘密要塞」の伝説参照。

[259] Tucker, Richard, The Great Terror が標準的な研究である。Ruthven, op. cit., pp. 218-278 も参照。

[260] Ruthven, op. cit., pp. 245-246からの引用。

[261] Ibid.

[262] Ruthven, op. cit., p. 265

[263] Butz, op. cit., p. 238 は、ブッヘンヴァルトの展示物の写真を掲載している。ドイツ国民は、民族社会主義体制の道徳的破産の証拠として、この写真を見ることを強制された。この写真には、様々な解剖学的展示物、すなわち、二つの縮んだ首、刺青のついた6枚の人間の皮膚、まったく手足のない胴体が写っている。写真の右側には、電灯のかさが写っており、これは人間の皮膚で作られたものであると主張されてきた。もっとも、良く見れば、それが他のものとは違うことに気づく。この電灯のかさはヤギので作られたようであり、その他の「人間の皮膚」物語のルーツである Aroneanu, op. cit., p. 106 はブッヘンヴァルトに関するSupreme AEF report を引用している。ここで問題となっている電灯のかさやその他のものの素性は明らかにされたことがない。その多くを見ることもできない。合衆国政府は南太平洋で陸軍や海軍の兵士が集めた頭蓋骨を保管していることがわかっている。だから、こうした物も今日、検証できるはずである。Iserson, Kenneth, Death to Dust, Tucson, AZ, 1995.

[264] Porter, Holocaustに引用。ポーターのテキストは、写真に撮られ、読むことができるかたちに整えられた裁判記録から、キャプションをつけて頁を単純に提供している、すなわち、彼の本は、宣誓供述書や証言の解釈を集めたものではなく、もちろん、彼が選別したものを集めたものでもない。

[265] Porter, Holocaust に引用。

[266] Porter, Holocaust に引用。

[267] Porter, Holocaust に引用。

[268] Taylor, Telford, Anatomy of the Nuremberg Trials, Back Bay, NY: 1992, p. 315

[269] Porter, Holocaust に引用。

[270] Irving, Nuremberg のなかで議論されている。

[271] Irving, Nuremberg、Harris, Tyranny も参照。

[272] Tusas, op. cit., p. 198

[273] Irving, Goering, Irving, Nuremberg. 二つとも、ビドルの私的な手紙に焦点をあわせている。前者は、疑われるべきはシェメゲロフスカヤであるとの印象を、後者はヴェイラン・コトゥリエであるとの印象を与えている。ビドルは二人とも怪しいとみなしたのであろう。

[274] Taylor, op. cit., p.315

[275] このことは、ニュルンベルクでの判事と法律家、今日の検閲に反対していない歴史家集団に直接関係している。歴史家が、物議をかもし出すようなテーマの調査を避けることはある。これは賞賛されることではないが、理解できることである。もっとも、終身的な地位は、些細な個人的なあやまちをカバーするためのものではなく、困難が予想される問題を調査するにあたって、研究者を保護するためのものであることを念頭においておくべきであるが。バッツ博士は、彼の本や議論の業績にもかかわらず、合衆国で終身的な地位を確保している唯一のアカデミシャンであると言っておかなくてはならない。歴史家たちが検閲に直面して沈黙していることについては、別の問題である。他方、われわれは、このテーマに関する検閲とタブー双方に公に反対しているラウル・ヒルバーグとゴールドン・クレイグ名誉教授の声明も記録しておくべきである。

[276] Taylor, op. cit., p. 313 はロンドン憲章第21条に言及している。

[277] マイダネク報告は26頁、アウシュヴィッツ報告は35頁、証拠として提出されたカチンの小冊子は56頁であった。

[278] Paul, op. cit.

[279] Harris, Tyranny はドイツの反対尋問を要約している。および、1952年の議会公聴会。

[280] 判決には言及されていない。Taylor, op. cit.参照。一般的に言えば、歴史家がドイツによる虐殺の証拠として、ニュルンベルクの証言、とくに、ソ連が広めた検証されていない証言を使い続けることは奇妙である。ソ連のカチン証言は、ドイツがソ連の名誉を貶めるために、11000名のポーランド軍将校の死体を掘り起こし、カチンに運び、ポケットや書類を調べ、その後、ふたたび埋葬して、掘り起こしたことを証言している。この証言は、ソ連が絶滅収容所に関して提出したものと同じように、詳細で、説得力をもち、リアリスティックである。

[281] チャーチルがミズーリ州フルトンで行なった、1946年3月6日の演説のなかの「鉄のカーテン」にはじめて言及したのは、ゲッベルスであった。Irving, Goebbels 参照。

[282] Höß, Rudolf, Death Dealer, Paskuly, ed., Da Capo, NY:1996.これが、英語で利用できる標準的なヘスの著作の翻訳である。ドイツ語オリジナル Kommandant in Auschwitz: Autobiographische Aufzeichnungen des Rudolf Höß, edited by Martin Broszat, Deutsche Taschenbuch Verlag, Munich:1998はわずかに歪曲されているが、有益な注を含んでいる。

[283] 例えば、ポーランドでの最終解決と言うテーマに関して、ノーマン・デーヴィスは、God's Playground, vol. 2.のなかで、1946年4月5日の宣誓供述書全文を転載しているにすぎない。

[284] Höß, Rudolf, Death Dealer, p. 179f

[285] Robert Faurisson, "How the British Obtained the Confessions of Rudolf Hoess" in JHR, vo. 7, Number 4 (Winter 1986-87), Irving, Nuremberg, pp. 240-246, and the relevant footnotes

[286] 一部は Klee, Ernst, u.a., Hrsg., " Schöne ZeitenS", S. Fischer Verlag, pp. 242-245 引用されている。アウシュヴィッツで最期を迎えたベルゼン難民についてはGilbert, op. cit. and Czech, op. cit.が記している。この物語は、1944年初頭に表舞台に登場したようである。脱衣室で暴動が起こったために、すでにガス室にいた人々は「半ガス処刑」されたという話である。この話のなかでヘスの話から脱落している要素は、一人の女性がドイツ兵を誘惑して、武器を奪って、この兵士を射殺し、それが暴動の引き鉄になったという点である。シュテークリヒはこの要素について詳しく扱っている。この女性は様々に描かれているop. cit.

[287] この時期のものとは別に、その他の宣誓供述書には、アメリカ人の心理学者G.M.ギルバート宛てのものがあり、それは250万がガス処刑され、50万がその他の原因で死んだことを認めている。1946年3月16日の供述書（NO-1310）およびアメリカの管轄下でのその他の供述書（NI-034、NI-036）は公表されてこなかったが、合衆国の資料センターで謄写版刷りのかたちで入手できる。アーヴィングは『ニュルンベルク』のなかで、ヘスの尋問記録が完全なものではないと述べている。歴史家の中でもっとも独自の人は、苦労して、尋問記録を実際に読んできた。その多く、少なくともアメリカ人が行なった尋問記録は、国立文書館のマイクロフィルムM1270、roll7にある。アーヴィングの注釈は彼のサイトにある。http://www.fpp.co.uk/Auschwitz/documents/Hoessinterrogations.html

[288] ロンドン憲章21条参照。このような供述の｢権威｣や｢信憑性｣については、とくにNI-036を参照していただきたい。そこでは、ドイツ語によるヘスの長い尋問ののちに、そこから生まれた英語の供述書が続いている。二つを比較することは非常に示唆的である。

[289] 例えば、フォーリソンの"How the British Obtained the Confessions of Rudolf Hoess"は、1945年5月8日のドイツの降服からすぐに話を進めてしまって、彼が呼ぶところの｢アウシュヴィッツ神話｣が出来上がってくるには、彼がみとめているところのユダヤ人の果たした役割が重要であったと述べている。

[290] Irving, Nuremberg, pp. 236ff

[291] Harris, op. cit.

[292] Harris, op. cit.参照。二人の女性はアウシュヴィッツで起こったことの関する重要証人であった。ヴェイラン・コトゥリエ証言は明らかに伝聞証言であった。彼女たちは交差尋問を受けていない。

[293] グラブナーについては、 "Schöne Zeiten", loc. cit.を参照。ブロードについては、Trial of Tesch, Weinbacher, & Drohsinn, Public Records Office, Londonを参照。

[294] ソ連特別委員会の調査結果と、連合国検事側によるこの時点までのその深化を念頭においている。例えば、安楽死計画については言及されていない。これは3ヶ月後のニュルンベルク裁判でのコンラード・モルゲンの供述と証言を待たねばならない。他方、安楽死計画との結びつきは、1946年11月に、すなわち、安楽死計画との結びつきが広く知られるようになった時点に書かれたヘスの回想録には登場してくる。Death Dealer, p. 28参照。

[295] Porter, Nuremberg はこの問題を詳しく扱っている

[296] Ibid.

[297] Broszat, ed., Kommandant, pp. 8-10

[298] Höß, Rudolf, Death Dealer, compare Paskuly's comments in the Forward, p. 22

[299] Broszat, op. cit., loc. cit

[300] Ibid.

[301] Höß, Rudolf, Death Dealer, p. 171, and, inter alia. 妻子への最後の手紙を較べていただきたい。

[302] このような研究は存在しない。過去50年間にニュルンベルクに関する1ダースほどの著作――回想録をのぞく――が出版されているが、その大半は被告の素性をならべたもの、裁判の流れを素描したものである。

[303] Taylor, A J.P., The Origins of the Second World War, Atheneum, NY:1983, p. 13f

[304] 国際軍事法廷の出版物が提供している資料リストの要約にもとづいている。それは、Nuremberg War Crimes Trials, volume 1: Aristarchus International Law Database Series [hereinafter, Aristarchus], Aristarchus Knowledge Industries, 1995, POB 45610, Seattle, WA, 98105に掲載されている。これは、IMTとNMTの公判すべてを含んだCD-ROMである。しかし、不正確にスキャンニングされており、数字やつづりのあやまちが多い。オリジナル原本と対照すれば、有益な資料である。IMTでの使用についての二つの例外は、もともとはソ連が発見したガス・トラックの使用に関するPS-501であり、クルト・ゲルシュタインのものとされるさまざまなチクロンの発送状PS－1553であろう。しかし、前述したように、チクロンが害虫駆除に広く使われたことを考えると、後者の資料にはまったく価値がない。

[305] Trials of War Criminals Before the Nuernberg Military Tribunals Under Control Council Law No. 10. Vol. 5: United States v. Oswald Pohl, et. al. (Case 4: 'Pohl Case'), District of Columbia: GPO, 1950, loc. Citにあげられている資料の要約にもとづいている。

[306] 後述するように、この明白な事例はクレマー博士の日記であり、1942年8月12日のアウシュヴィッツ所長ヘスの特別命令である。その命令は、当時使用されていたチクロンBの臭いが弱いので、ガス処理された（vergasungen）されたスペースを喚起するにあたっての事故の可能性について触れている。この資料は、ポーランド国立アウシュヴィッツ博物館（PMO）の文書集の目録には記載されていないが、C. Pressac, Auschwitz: Technique and Operation of the Gas Chambers, [hereinafter, ATO] Beate Klarsfeld Foundation, NY:1989, p. 201に掲載されている。

[307] 例外は、1980年代にプレサックが発掘し、『アウシュヴィッツ：ガス室の技術と作動』に収められた資料である。プレサックの議論の価値は14章で検討される。

[308] Klee, Ernst, (hrsg.) Dokumente zur "Euthanasie", Fischer Verlag, Frankfurt a. M.: 1997, p. 271f に引用されている資料。

[309] このような記述と設計図はドイツの害虫駆除文献には数多く存在する。ここではStangelmeyer, Josef, "Genormte, zerlegbare Rohrleitungsnetze für die gesundheitstechnischen Anlagen der ortsveränderlichen Unterkünfte des Reichsarbeitdienstes" in Gesundheits-Ingenieur, 25.VI.42.にある設計図を引用しておく。

[310] 伝統派のFleming, Gerald, Hitler and the Final Solution, UC Press, 1987 はこの下書きとガス・トラックを結び付けているが、「建物」は「トラック」ではない。リガにはガス室は実在しなかったことは、すべての修正主義者によって指摘されている。

[311] クレマー博士の日記は、1946年の最初アウシュヴィッツ裁判の核心であった。クレマーが10年間投獄されて、その後ドイツに帰国した。日記の当該箇所は、Klee, Ernst, u.a., Hrsg., "Schöne Zeiten", S. Fischer Verlag, pp. 231-241.に掲載されている。フォーリソンは、"Le professeur de medecine Johann Paul Kremer devant les horreurs du typhus a Auschwitz en Septembre-Octobre 1942"の中で、クレマーの日記、彼の投獄とその後について重要な議論を展開している。この論文は1980年に発表されているが、AAARGHのウェッブ・サイトで利用できる。http://www.abbc.com/aaargh/fran/archFaur/RF8011xx1.a.html　フランス人セルジュ・ティオンが運営するAAARGHのサイトには、フォーリソンの年代順著作集がある。

[312] Ibid., p. 233, 234, 237

[313] 最後の部分はフォーリソンの解釈である。彼は、問題の「最後のブンカー」が中央収容所の有名な「ブロック11」と考えているからである。

[314] Czech, Danuta, Auschwitz Chronicle, 1939-1945, Henry Holt & Co., NY:1997, p. 809

[315] 1、2名が天井の開口部から缶を投げ込んだ（焼却棟Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ）、1名が缶を開けて、はしごを上り、窓からその中身を投げ込んだ（焼却棟Ⅳ、Ⅴ）というのがアウシュヴィッツの公式シナリオである。

[316] Stäglich, op. cit., p. 112-113.

[317] Frank, Anne, Diary of a Young Girl (Definitive Edition), Bantam Books, NY:1997, p. 53

[318] E.g., Rothschild, Sylvia, ed.,Voices from the Holocaust, New American Library, NY:1981, , p. 129, 153

[319] Stäglich, op. cit., p. 92は異なった意味合いで、ラングバインを引用している。しかし、フォーリソンの議論を参照していただきたい。op. cit., loc. cit., and elsewhere.

[320] 第一版でのヒルバーグの指摘とギルバートの著作を参照。ギルバートは疫病による死者についての研究をぞんざいに扱っている。Grundlagen, (p. 168)によると、公式には、30万が強制収容所システムの中で死んだことになっているが、東部地区の収容所を考慮すると、疫病によって数十万が死んだとする見積もりは理に適っているように思われる。

[321] このような「密教的」な話し振りに関しては、ダヴィドヴィチが詳しく論じている。War Against the Jews, Bantam, NY:1978.しかし、この議論を検討してみると、説得性のないことがわかる。第一に、彼女は、イソップ的な言語は権力集団が使うものではなく、権力のない少数派が使うものであることを認めている。第二に、このような仮定は、明らかにされたことのないようなコードの意味を前提としている。第三に、彼女は、「マダガスカル計画」という提案も「コード言語」であるとのやりすぎをおかしているが、1942年のラマダヒャー書簡が示しているように、歴史家の多くはこうした考え方を否定している。http://www.codoh.com/incon/inconmad.html

[322] 1942年6月26日の親衛隊国家保安部の連絡通信。Trunk, Judenrat, p. 260に引用。

[323] Rosenbaum, Ron, "Explaining Hitler" in The New Yorker, vol. LXXI, #10, 1 May 1995, pp. 50-73, p. 60.1998年に、ローゼンバウムの著作は書籍として刊行された。さらに「ヒトラーの命令」問題については、http://www.codoh.com/incon/inconorders.html 参照。このテーマの歴史家がヒトラーの有罪を証明しようとして試みているやり方は偏見に満ちているようである。いかなる命令も存在しないとすれば、それがかつて存在したと推定する根拠はない。にもかかわらず、歴史家は、この仮説上の命令がいつ出されたのかという問題にまで踏み込んでしまっている。Browning, Christopher R., "Beyond 'Intentionalism' and 'Functionalism': The Decision for the Final Solution Reconsidered" in The Path to Genocide, Cambridge UP, Canto, NY:1992参照。

[324] Irving, Nuremberg

[325] Lengyel, Olga, I Survived Hitler's Ovens (Five Chimneys),Avon, NY: 1947, Nyiszli, Miklos, Auschwitz: A Doctor's Eyewitness Account, Arcade, NY: 1993

[326] Lengyel, op. cit.

[327] Nyiszli, op. cit.

[328] ヒルバーグはレンギルとニーシュリの本を使って収容所の環境を描いている。プレサクもニーシュリにかなり依拠しているop. cit., pp. 469-480 参照。ラッシニエは、ニーシュリの回想が1953年にLe temps moderneに発表され、初めて西側諸国で広まったときに、ニーシュリの身元についてを調査した。そのとき以来、この論争はずっと続いている。Butz, op. cit., Rassinier, Debunking, loc. cit.

[329] Nyiszli, op cit

[330] Nyiszli, op cit

[331] Nyiszli, op. cit.,しかし、この事実に関するプレサックの合理化をとくに参照。

[332] Lengyel, op. cit., p. 68-70

[333] 1945年5月のヘンリク・タウバーの証言は Pressac, Auschwitz, pp. 481-502に掲載されている。プレサックはこれを「95％正確」とみなしている。

[334] Porter, Holocaust, Irving, Nuremberg, esp. p. 236 に引用されている。

[335] Irving, Nuremberg, pp. 186-188, ホロコーストに関する全体的な検討は pp. 235-246.の注にもある。

[336] 安楽死計画に関する基本文献は Klee, Ernst, Dokumente zur "Euthanasie", Fischer Verlag, Frankfurt a. M.: 1997; and Klee, Ernst, "Euthanasie" im NS-Staat, Fischer Verlag: Frankfurt a. M.:1997. 英語では、Noakes, J. and Pridham, G., Nazism, 1919-1945: vol. 3: Foreign Policy,War,のなかの安楽死に関する章と Racial Extermination, University of Exeter Press, Exeter:1995, pp. 997-1048が安楽死計画をかなり扱っている。これに加えて、Robert J. Lifton, The Nazi Doctors, Basic Books, NY: 1986, と Henry Friedlander, The Origins of Nazi Genocide: From Euthanasia to the Final Solution, Chapel Hill, Chapel Hill & London: 1995.このうち、最初の3つは、安楽死が毒ガスの使用によって実行されたとこを立証する資料的証拠を提示しているので貴重である。フリードランダーの研究書は、戦後のさまざまな安楽死裁判での尋問、裁判記録にもとづいている点で貴重である。さらに、フリードランダーの研究書が貴重であるのは二つの点である。第一に、彼は、安楽死についての尋問ではさまざまな圧力が加えられてことを明らかにしている。op. cit. , p. 198f, and 193参照。第二に、尋問についての彼の考察は、ベルゼン裁判と同時に行なわれていた1945年9月2日のカール・ブラントに対する尋問の中で、ガスによる安楽死の事実が始めて認められたことを明らかにしている。フリードランダーは、ブラントの供述の多くについて、その証拠的な価値の面では、「奇怪なもの」とみなしている。

[337] Noakes, op. cit., p. 1006

[338] 将来の成人の犠牲者の特徴については、Noakes, op. cit., p.998, p.999

[339] New York Times,Butz, op. cit., p. 174 から。

[340] Noakes, op. cit., p. 1036f

[341] Noakes, op. cit.,弔問の書簡のコピー参照。 p. 1028, および、後述する Shirer。

[342] Noakes, op. cit., 1039f

[343] バッツが指摘しているように [op. cit., p. 118],反対派の異議申し立てに応えるかたちで、比較的清潔な焼却方法が開発されていった。しかし、反対派の存在は、その他の理由で焼却を広く社会的に非難する前触れであった。

[344] Shirer, Berlin Diary, Knopf, New York:1941, pp. 570-574.シャイラーは安楽死が費用の節約のために行なわれているという考えを捨て去っている。しかし、 Noakes, op. cit.費用の節約の理由からという資料を引用している。p. 1042。興味深いことに、この奇妙で曖昧な資料がクリーの浩瀚な資料集に入っていない。

[345] モルゲンの宣誓供述書は、SSが犯罪組織ではないことを示す弁護側資料として提出された。このために、モルゲンの宣誓供述書には、アウシュヴィッツのガス室は、SSの管轄下にはないモノヴィツにあったというような多くの誤りがある。修正主義者は、モルゲンを疑ってきたが、私たちの見解では、彼は、強制収容所システムのなかでは常軌を逸して、勝手な振る舞いをする者もいたとの状況を描いている点では、信頼できると思われる。安楽死計画自体については、モルゲンは、SSではなく刑事警察のヴィルトがラインハルト作戦の「絶滅収容所」を統括していたと論じようとしている。 この目的のために、彼ははじめて、ヴィルトがT-4すなわち安楽死計画に関与していていたことを強調した。

[346] Noakes, op. cit., p. 1025

[347] Grundlagen, p. 278 に掲載されているこの管の写真を参照。開口部は鉄筋コンクリートをうがって作られている。切断の出っ張りがそのまま残っており、密閉されていたとは言い難い。

[348] フリードリヒ・ベルグは "Typhus and the Jews"のなかで、東ヨーロッパの人々が公衆浴場を敬遠したことを考えると、偽シャワーは犠牲者を安心させる有効な手段ではありえないと指摘している。

[349] 安楽死計画で一酸化炭素を使用したのは、それが予兆なしの速やかな死をもたらすためであるという理由であった。しかし、このようなごまかしは、いわゆる絶滅作戦でのごまかしとはまったく関係がない。

[350] Noakes, op. cit., p. 1019

[351] Noakes, op. cit., p. 1027

[352] NMT, Case 1

[353] Ponsonby, Arthur, Falsehood in Wartime, Institute for Historical Review, Newport Beach, CA:1991, pp. 78-82

[354] Casement, Roger, "Treatment of Women and Children in the Congo States, what Mr. Casement saw in 1903", n.d., n.p.

[355] すなわち、安楽死計画が存在し、それは、ドイツでも強制収容所でも注射を使用していたと思われるが、一酸化炭素を使ったことがあるかもしれないとしてみよう。比較的よく記録されている安楽死計画がシャワー・ガス・焼却という連鎖過程を持っていたと証明できれば、まったく資料的な記録のない、いわゆる絶滅施設でのシャワー・ガス・焼却という連鎖過程というテーゼに確証を提供することになるからである。

[356] Klee, op. cit.は資料的な証拠にもっとも近いものを提供しているが、シャワー・ガス・焼却という連鎖過程については、まったく提供していない。例えば、ガス室とみなされたシャワー室の写真がある[Dokumente, p. 132]。しかし、それはのちにシャワー室に改装されたものである。結局、われわれに提供されているのは、シャワー室の写真だけである。彼の本には、大量埋葬地でソ連が掘り起こした犠牲者の死体とみなされる写真も掲載されている。[Dokumente, p. 320]。写真を検討していただきたい。しかし、いずれにしても、それはシャワー・ガス・焼却という連鎖過程を確証するものではない。

[357] 前述したように、煙と悪臭という要素は、1946年4月5日のヘスの宣誓供述書にも登場する。これは多くのテキストに登場する。Butz, op. cit., pp. 118-120 はこの説をごまかしの第一の証拠とみなしている。もちろん、「殺人とトラック」はソ連の「ガス・トラック」説にとって重要な要素である。注62、63および第3章参照。

[358] Martin, op. cit., p. 38f.これはこれで、今度は、大量ガス処刑説が害虫駆除という環境からではなく、直接、安楽死計画の噂からも影響を受けていたことを証明している。

[359] 第3章。害虫駆除だけではなく、検疫自体が疑惑と噂を生み出した。

[360] 焼却の復活と言うテーマについては、Iserson, Kenneth, Death to Dust, Galen Press, Tuscon, AZ: 1995, Fischer, Norbert, Vom Gottesacker zum Krematorium, Böhlau Verlag, K öln:1996 参照。Thompson, Sir Henry, "Cremation" in Encyclopedia Brittanica, 11th Edition, NY & London: 1910, vol. 7, pp. 403-407 も参照。

[361] Thompson, loc. cit.参照。

[362] トンプソンはこのテーマをとくに調査しているが、焼却についての記述はいささかわかりきったことである。

[363] ドイツははじめて近代的な焼却棟を建設したが、実際の使用は社会的な反響のために妨害された。Thompson, loc. cit.参照。

[364] Fischer, op. cit., p. 96f

[365] Fischer, op. cit., p. 116,伝統的なプロテスタント地区では、火葬の増加の割合は高かった。ハンブルグでは、1913年の2.8％から1930年の27.8％にまで上昇した。

[366] Fischer, op. cit., p 11

[367] Fischer, op. cit., p 124, and also quoting Siegrfied Giedion, p. 101

[368] Fischer, op. cit., p 116, also p. 99ff 。とくに教会の側からの典型的な誇張と敵意のある反応について。

[369] Fischer, op. cit., p. 115 彼の実際の文章は「近代文化は反キリスト教的文化である」というものである。フィッシャーはこれを反聖職者主義と特徴づけているが、おそらく正しい。しかし、多くの人々が伝統的な宗教にこめてきた心理的な感情を念頭に置くと、彼の言葉を「近代文化は反キリスト教的文化である」と解釈するのは、人々の真理をあながち誇張したともいえないようである。

[370] Iserson, op. cit., p. , Thompson, loc. cit.

[371] Iserson, op. cit., p. , Thompson, loc. cit.

[372] Fischer, op. cit., p. 126, 「義務づけた」というのは、1939年からほぼすべての強制収容所は焼却施設を備えることになったという意味でである。

[373] Huxley, Aldous, Brave New World, Perennial, NY: 1991, p. 48f

[374] The Soviet Special Commission on Auschwitz, USSR-8

[375] Patton, George S. Jr., War As I Knew It, Bantam, NY:1980, p. 284

[376] Life Magazine, July 23, 1945, p.ドイツのロケットと秘密兵器技術と戦後のヒステリー、とくにSFとUFOヒステリーとの関係は、多くの軽々しく信じやすい研究の研究のテーマとなってきたが、このヒステリックな説が、何回も繰り返される収容所での絶滅手段についての諸説に大量に流れ込んでいったために、この研究テーマは学会の主流の関心を集めなかった。

[377] とくに、ソ連のアウシュヴィッツ調査委員会は、アウシュヴィッツ・ビルケナウの56炉が1月で279000名、すなわち、1日9300名を焼却できたと主張した。ほかの証人たち、たとえばニーシュリは、もっと高い焼却率さえも主張している。

[378] Testimony of Dr. Konrad Morgen, August 7, 1946, IMT vol. XX, loc. cit.

[379] Cross-examination of Dr. Bendel, Trial of Tesch, Weinbacher & Drohsinn, Public Records Office, London, UK.

[380] 素性の疑わしい（写し"Abschrift"となっている）資料は、J. C. Pressac, ATO, p. 244に掲載されているが、半分の時間を主張している。プレサックさえもが認めているように、二つの時間ともありえないがゆえに、信用できない。最近の論文では、この資料が偽造ではないかともされている。"'Schlüsseldokument' ist Fälschung" by Dipl Ing. Manfred Gerner in Viertelsjahrhefte für freie Geschichtforschung, 1998, vol. III.参照。

[381] Mattogno, Die Krematorienofen, in Grundlagen, pp. 288ff, 302.

[382] マットーニョが引用しているのは、"Factors which affect the process of cremation", Third session by Dr. E. W. Jones, assisted by Mr. R. G. Williamson, Annual cremation conference report, Cremation Society of Great Britain, 1975である。Pressac, ATO, Mattogno, op. cit., and by Pressac (w/ Van Pelt), "The Machinery of Mass Murder at Auschwitz" in Gutman, Y. & Berenbaum, M., Anatomy of the Auschwitz Death Camp, Indiana UP, Bloomington:1998, pp. 183-246が引用している、ドイツの収容所での対象焼却についての現存資料はすべて、非常に重要であり、イギリス人の結論を支持しており、Pressac, e.g., in "Machinery", p. 199があげている誇張された焼却率をまったく支持していない。

[383] 1945年2月4日の『プラウダ』4頁に掲載されたポレヴォイの「アウシュヴィッツの死の工場」の文句。この論文は別に英訳され、注釈がつけられてきた。

[384] 焼却、ガス、殺人を是が非でも結び付けなくてはならない点で、「ガス炉」という概念は、とくに貴重であった。前述したように、NMTの収容所事件公判で、ガス室に関する検事側展示証拠はわずか4つであったが、収容所での焼却棟建設に関する証拠は多数提出された。このことに、注目すべきである。

[385] TIME magazine, May 23, 1940, p.

[386] 毒ガスが使用されはじめた事情については、Crowell, Samuel, "Technique and Operation of German Anti-Gas Shelters", http://www.codoh.com/incon/inconpressac.html また、第一次大戦で使われた事情については、Martinetz, Dieter, Der Gaskrieg, 1914-1918, Bernard & Graefe Verlag, Munchen: 1996 参照。第二次大戦で使われなかった事情については、Crowell, "Technique" とGellermann, Günther W., Der Krieg, der nicht stattfand, Bernard & Graefe Verlag, Munchen:1986 参照。20世紀の毒ガス戦に関係する資料の分類と抜粋については、Brauch, Hans Günther & Müller, Rolf-Dieter, Chemische Kriegfuhrung-Chemische Abrustung, Berlin Verlag, Arno Spitz: 1985 とHahn, op. cit. , pp. 223-235 参照

[387] Crowell, loc. cit

[388] Crowell, loc. cit

[389] Trombley, Executioner's Protocol

[390] Grand Hotel, 1932, Edmund Goulding, dir.

[391] Kameradschaft, 1931, Georg W. Pabst, dir.

[392] Stäglich, op. cit., p. 59からの引用

[393] Riedel, Johannes, "Echoes of Political Processes in Music During the Weimar Republic", in Hirschbach, Frank D., Germany in the Twenties: The Artist as Social Critic, Minneapolis, University of Minnesota: 1980, p. 72 からの引用。

[394] Things to Come,1938, William Cameron Menzies, dir.興味深いことに、この映画は疫病の大流行も描いている。

[395] Laurence Thompson, The Greatest Treason: The Untold Story of Munich, William Morrow, NY:1968, p. 2f

[396] Ibid., p. 210

[397] Ibid., p. 3

[398] Ibid., p. 5

[399] MacDougall, Curtis, Hoaxes, Dover, NY: 1966, p. 43f

[400] Kuebler, Harold W., ed. The Treasury of Science Fiction Classics, "The Invasion from Mars" (radio adaptation by Howard Koch of H. G. Wells' "War of the Worlds"), pp. 417-438, Hanover House, Garden City, NJ: 1954. 興味深いことに、もう一つの火星人の武器は「死の光線」、「熱線」であった。シャイラーの日記も参照。

[401] Ibid., p. 425 and p 431f

[402] 新聞からの引用は、Howard Koch's The Panic Broadcast, Avon, NY: 1970から。pp. 16-24 and 89-96には新聞記事からの切抜きが掲載されている。

[403] Ibid.

[404] Ibid., pp. 89-96

[405] Ibid.

[406] Ibid., p. 103

[407] Ibid. , p. 86

[408] Hoyt, Edwin P., The Invasion Before Normandy, Stein & Day, NY: 1985.とくに、ガス・マスクをつけた模擬の負傷者の写真を見よ。

[409] Seagrave, Sterling, Yellow Rain: A Journey Through the Terror of Chemical Warfare, M. Evans and Company, NY: 1981, pp. 60-62, pp. 80-81、後者はブラッドレーを引用している。Michael Shermer は "Phantom Gasser of Mattoon", op. cit., p. 99 に関して、銃後でのガス・ヒステリーの逸話を記している。

[410] Gellermann, op. cit.はこの資料全文の写真コピーを掲載している。pp. 249-251

[411] ここで思い起こすのは、毒と毒殺が心理的に結びついていることである。Mackay, Charles, Extraordinary Popular Delusions and the Madness of Crowds, Noonday, NY:1970, section on the "Slow Poisoners", pp. 565-592 参照。

[412] Roueche, Berton, "Sandy" in The Medical Detectives, Pocket Books, NY: 1982, pp. 339-352.

[413] Rosenberg, op. cit., and Evans, op.cit.はともにこの問題を、とくに、マックス・ペッテンコファーの経歴との関連で考察している。ペッテンコファーは、細菌が病原ではないと確信して、コレラが流行していたときに、個の説を証明しようと、汚染された水を飲んだ。彼は感染しなかった。そのあと、ロシア人科学者エリエ・メチニコフが同じ実験を繰り返したが、同じ結果であった。このような勇気は、ロシア人作曲家チャイコフスキーが、1892―93年のこれらの流行のときに、人目を引く行為を模倣した本当の動機かもしれない。彼のもっとも有名な交響曲「悲壮」の初演は、この数日後のことであり、その結果、彼は死んだ。このように事実のために、音楽史家のあいだでは、さまざまな憶測が尽きることがない。

[414] 例えば、Showalter, Elaine, Hystories, Columbia UP, NY: 1997, p. 23

[415] Crowell, Defending Against the Allied Bombing Campaign,

[416] McCallum, John Dennis, Crime Doctor, Mercer Island, WA: 1978 はダッハウでの検死を扱っているが、彼のコメントは曖昧である。ナチヴァイラー・ストルーホフでも検死は行なわれたようであるが、シアンによる毒殺を示す結果はまったく出ていない。

[417] この章は Crowell, Samuel, "Defending Against the Allied Bombing Campaign: Air Raid Shelters and Gas Protection in Germany, 1939-1945, Part 1", http://www.codoh.com/incon/inconabr_1.html に対応している。これらの資料参照。

[418] Crowell, loc. cit.

[419] Crowell, loc. cit.

[420] Crowell, loc. cit.

[421] Crowell, loc. cit.

[422] Crowell, loc. cit.

[423] Crowell, loc. cit.

[424] Crowell, loc. cit.

[425] Crowell, loc. cit.

[426] Crowell, loc. cit.

[427] この章は Crowell, Samuel, "Defending Against the Allied Bombing Campaign: Air Raid Shelters and Gas Protection in Germany, 1939-1945, Part 2", http://www.codoh.com/incon/inconabr_2.htmlに対応している。これらの資料も参照。

[428] Crowell, loc. cit.

[429] Crowell, loc. cit.

[430] Crowell, loc. cit.

[431] Crowell, loc. cit.

[432] Crowell, loc. cit.

[433] ゲルマール・ルドルフが筆者にコピーをくれた資料は、アーヴィングのサイト、http://www.fpp.co.ukに、翻訳はCODOHのサイト、www.codoh.comにある。

[434] Mchael Foedrowitz, Bunkerwelten, n.p., 1998, p. xxxxx

[435] Graf & Mattogno, op. cit., p. xxxxx

[436] Ibid., p.

[437] DIN standards xxxxx

[438] Entgiften von Bekleidung und Ausrustung in ortsfesten Anlagen, issued by the Gasabwehrdienst aller Waffen, dtd 1 Jan 43.に記述されている。この貴重な小冊子を提供してくれたアーヴィングに感謝している。

[439] Crowell, loc. cit.

[440] Stroop Report, IMT xxxxx

[441] Crowell, loc. cit.

[442] この章は、Crowell, Samuel, "Technique and Operation of German Ant-Gas Shelters in World War Two: A Refutation of J. C. Pressac's 'Criminal Traces'", http//:wwwi.codoh.com/incon/inconpressac.html に対応している。これらの資料参照。

[443] Crowell, loc. cit.

[444] Crowell, loc. cit.

[445] Crowell, loc. cit.このことは、プレサックがこれらの資料を入手・使用したやり方を見れば、明らかである。彼の本 Auschwitz: Technique and Operation of the Gas Chambers, Beate Klarsfeld Foundation, NY:1989 を参照。

[446] Crowell, loc. cit.

[447] Crowell, loc. cit.

[448] Crowell, loc. cit.

[449] Crowell, loc. cit. とインターネット上のアーサー・バッツ論文"Vergasungskeller"と Gas Detectors at Auschwitz参照。バッツ博士も私も、（Vergasungskeller）という用語を民間防衛の観点から解釈しており、（vergasen）という単語は害虫駆除措置に起源をもっていると考えている。いくつかの民間防衛とガス保護施設が焼却棟Ⅱの LeichenkellerⅠ （すなわち、 "Vergasungskeller"）と同一のものであるとすると、その一部は死者や死体処理者の衣服の害虫駆除のためにも使われたと考えられる。しかし、その場合でも、この部屋全体がこのためにだけ使われたとは考えにくい。だから、この単語は密接に関係のあるものでそのものを表現する転喩技法の一例であろう。施設は様々な目的で使われたのであろう。死体処理者の害虫駆除、収容所に到着したものの特別な害虫駆除、清掃浄化。このような多目的利用は都市でのドイツの民間防衛措置と符合している。第3章参照。

[450] Crowell, loc. cit., これは不可避的な結論であると信じている。研究の冒頭に、ソ連とその他の国の共産主義者が防空シェルターの証拠を誤って解釈した可能性を調査した。個々人、多分多くの西側の人々がそのように解釈したことは確実である。しかしどの歴史記述のなかにも、あるいはこれらの資料の研究調査のなかにも、このような密閉構造が防空シェルターに起源をもっていることを認めたものはまったくない。エスタブリッシュメントの歴史家が、とくに「ガス室」が現存している東ヨーロッパの歴史家がこのような結びつきをまったく思い付かなかったとは信じられない。だから、ポーランドとソ連のエスタブリッシュメントの歴史家は、ドイツは防空シェルターを建設したが、それをガス室として使ったという説を主張してこなかったと結論せざるを得ない。主張してこなかったといえば、それは、防空シェルター問題自体が登場するのを押え込もうとしたためであった。というのは、この問題が登場すれば、ホロコーストに関するわれわれの知識に貴重な資料を付け加えたに違いないし、（付け加えるであろう）からである。だから、密閉構造が防空シェルターに起源をもっているという論点は、それが絶滅説全体の有効性という問題を提起してしまうがゆえに、押え込まれてきたと結論しうるのである。

[451] Werth, Alexander, Russia at War, 1941-1945, Avon, NY: 1964, pp. 807-808 （邦訳、『戦うソヴェト・ロシア』（下）、中島博・壁勝広訳、みすず書房、1965年、224－225頁 ） 文脈から判断すると、ヴァースは自分の以前の記事を引用しているにすぎない。

[452] Noakes, op. cit., p. 1019f

[453] Doyle, Sir Arthur Conan, The Complete Sherlock Holmes, Garden City, NJ: n.d., p. 1120f

[454] Chambers Encyclopedic Guides, Catastrophes and Disasters, NY: 1992, pp. 121-126

[455] Chambers Encyclopedic Guides, Great Scientific Discoveries, NY: 1992, p. 16, 17

[456] Wells, H. G., The War of the Worlds, n. p., n. d.

[457]。Burroughs, the Princess of Mars (1913) 参照。このようなガスは主人公が瞬間的な宇宙飛行をする媒体となっている

[458] この種の逸話は多いが、検証されていない。自殺手段としてのガス（ガス・オーブンだけではなく、ガス灯も）は第一次大戦後のドイツ語圏での飢饉のときに使われたようである。

[459] Fritzsche, Peter, A Nation of Fliers, Harvard UP, Cambridge:1992, p. 41

[460] Fritzsche, Peter, op. cit., p. 229

[461] Doyle, op. cit., passim. この物語の犯人は、逮捕ののちにシアンでの自殺を試みている。

[462] Doyle, Sir Arthur Conan, The Poison Belt, Chronicle Books, San Francisco: 1989.

[463] Lewis, Sinclair, It Can't Happen Here, Signet, NY: 1993, p. 232

[464] 訳者の序文のコメント参照。Andrew McAndrew, in 20th Century Russian Drama, Bantam, NY: 1963, pp. 159-162.

[465] Dubnow, Simon, History of the Jews in Russia and Poland, Jewish Publication Society of American, Philadephia: 1912, vol. II, p. 295

[466] Dubnow, Simon, Nationalism and History (Essays edited by Koppel Pinson), Jewish Publication Society of American, Philadephia: 1958, p. 355 -- 「100万が・・・破壊され、ずたずたにされた」は「50万が追放され、その他の50万が囚人・人質となった」と記述されている。

[467] the comments of David Irving on the term "Ausrottung" in DSMRD, testifying at the Zundel trial in 1988.参照。

[468] The American Hebrew, October 31, 1919  これを発見したのはポーランド歴史学会であった。Cited by Irving, Nuremberg, Focal Point, London:1996, p

[469] Butz, op. cit. 戦時の宣伝という文脈からは Gilbert, op. cit., p. 66も参照。

[470] Sanning, Walter N., The Dissolution of Eastern European Jewry, IHR, Newport Beach, CA: 1983 は修正主義的な分析を行なっている。ゲルマール・ルドルフの論文 Statistisches uber die Holocaust-Opfer in Grundlagen はサンニングと、ベンツなどの最近の伝統的な計算を対比している。1930年代の移民、諸条件に対応した実際の出生率、戦争中の諸条件のもとでの死亡率、およびソ連の移送――あらゆる文献がこれについて言及しているが、ホロコーストの犠牲者との関連では扱っていない――についての信頼できる調査がなければ、数の問題はそれほど興味深いものではない。Martin, op. cit., p. 43, p. 47 参照。さらに、数がどのようなものであれ、それはガス処刑計画を立証しているわけではない。

[471] Dubnow, History, Grayzel, A History of the Jews, Meridian, New York:1984.この態度は1881年以降のポグロムを説明するときに明瞭に登場している。しかし、ドゥブノフも、中世の暴力や「血の名誉毀損」の底流にあると思われる陰謀説に頼っている。一般庶民は外からの働きかけがなければユダヤ民族を迫害しないという、「トップダウン」原因論を強調するのは、四つの考え方にもとづいているようである。すなわち、第一に原因についての聖書の考え方、第二に、平和維持の担保として――したがって勝手に大衆の暴力をコントロールできる――ユダヤ人の富をゆするというキリスト教徒君主と貴族の習慣、第三に、苦難、混乱、変化の時代には自然発生的な暴力が生まれるということを認めたくないという願い、第四に、同化していない少数民族は必然的に緊張と問題を生み出すという事実を認めたくないという願望である。もちろん、シオニスト的な考え方が登場する以前には、ユダヤ民族は二つの道のどちらかを取るしかなかった。一つは同化であり、これはユダヤ人共同体からの離反を意味していた。Dubnow, History, vol. 2, p. 211ff 参照。もう一つは伝統の維持で、これは、ユダヤ人共同体がより大きな社会のなかで同化されないまま存在していくことを意味していた。（後者の道は、少なくともニコライ一世の治世からのロシア帝国の利益に決定的に反していた）。後者の場合、ユダヤ民族は、隣人たちからの否定的な感情を呼び起こすことなく、島国のような伝統社会を維持しうると信じなくてはならなかった。しかし、ここにこそディレンマがある。近代の国民国家はその構成員に同質性と均質性を要求し、共同体や少数民族の個別主義を組織的に排除しようとするからである。帝国内のすべての少数民族を悩ませた帝政ロシアの「ロシア化政策」に似たようなことは、程度の差こそあれ、プロイセンやその他の西欧諸国によって、実行されたのである。これが「正しい」か「間違っている」かどうかは、歴史学の問題ではない。しかし、同化していない東ヨーロッパのユダヤ人に限らず、東ヨーロッパの民族的な複雑さこそが、ドイツ、ロシア、その他の諸国で過激な政策が採用された推進力であったことは疑いがない。

[472] 上記参照。多くの要因がヨーロッパに、とくにこの当時の東ヨーロッパに、反ユダヤ主義を広めたことは疑いない（われわれは、ヨーロッパ大陸全体に広まった現象は東部地区での民族問題から生まれたというテーゼを受け入れようとしている）。普通の説明はイデオロギー的な原因を求めようとしている（ Goldhagen, Daniel J., Hitler's Willing Executioners, Little, Brown & Co., NY:1996 参照）。すなわち、反ユダヤ主義はユダヤ人に対する真実ではない憎悪に満ちた偏見から生まれ、深化したものであり、それ以外のなにものでもないというのである。しかし、これは同語反復のように思われる。ユダヤ人は憎悪に満ちた考え方によって迫害されたというが、このような考え方がなぜ最初に生まれたのであろうか。これはゴールドハーゲンの方法があり、これはこの時代の知的な歴史家が、たとえ結論までではないとしても、共有していた方法である。人種的・民族的憎悪は人間の諸事件とは関係なく存在しないし、進化しない。言い換えれば、このような考え方はいつも存在しているが、それが全面的に開花するには、経験上の土台が必要なのである。考え方だけと戦うことは、たんにその症状と戦うにすぎない。必要なことは、このような考え方が支持される環境を検証し、それを変えることである。その症状だけと戦うこと――「憎悪を扇動する言論」を抑圧するというかたちで、今流行している――は、このような憎悪を地下にもぐらせて、化膿させてしまうことを促すだけである。道徳的な警告は、飢饉の時代に空腹になるなと人々に命令することと同じように、すでに不安にかられている人々にとっては無益であり、役にたたない。だから、検閲を声高に要求することは、 これを唱えている自己中心的な人々の勢力をたんに宣伝しているにすぎず、実際には何の成果も上げていない。19世紀の反ユダヤ主義を分析してみると、同化していない東ヨーロッパのユダヤ人の特殊な立場、およびこの地域での人口動態、工業化のダイナミクス、国民国家の官僚化と世俗化こそが、「非ロシア人」と「非同化人」に対する憎悪の一種として反ユダヤ的憎悪を培ったもっとも重要な要因であった。これらは社会的・経済的、そうでなければ経験的な要因であるので、同化していない東ヨーロッパのユダヤ人共同体の消滅はあらかじめ見通されていた決着ということになる。さらに、大規模な住民の移動を伴い、ドイツ人、ユダヤ人、その他の宗教的・民族的な少数派の残酷な追放や吸収をもたらした東ヨーロッパの共同体の漸次的な同質化も、避けられなかったということになる。これこそが、われわれが「別の最終解決」という用語で意味しているものである。そもそも、近代のナショナリズムは、効果的に近代国家を運営する象徴的な機構として、差異や人口動態の圧力に対して寛容ではなかったようである。覇権主義的な競争は別としても、東ヨーロッパを再編成することは必要であったのであり、この再編成という劇を冷酷に演じきることが、われわれの見解では、ユダヤ人の破局の真実の中味である。

[473] Goldhagen, op. cit., is to our minds a typical example.

[474] もちろん、これらすべては民族社会主義者の所行をあらわす典型的な記述である。

[475] Hasek, Jaroslav, The Good Soldier Schweik, Penguin, London:1973; from the chapter entitled "A Religious Debate", p. 138. First published in serial form between 1921-1924

[476] Showalter, Elaine, Hystories, Columbia UP, NY:1997, p. 6に引用されている。

[477] Ibid.

[478] Aroneanu, op. cit.を参照。

[479] Berger, Peter, The Sacred Canopy, Anchor, NY: 1969, "plausibility structures" and secularization, passim. Scheler, Max, Ressentiment, Schocken Books, NY: 1961も参照。

[480] われわれの見解では、同じ様な材料を提供しているレンギエルとニーシュリの回想は、この分類にあてはまる。

[481] MacDougall, Curtis, Hoaxes, Dover, NY:1968, especially p. 3-158はこのような様々な動機を、様々な事例を使って詳しく説明している。

[482] Allport, Gordon W. and Postman, Leo, The Psychology of Rumor, Henry Holt & Co., NY: 1947の第1部は噂の心理学の理論的な発展を扱っている。とくに、43頁を参照。

[483] Allport & Postman, op. cit., p. 162ff　のなかにある基準を参照。

[484] Dubnow, History, and Grayzel, op. cit. 参照

[485] Watt, Richard M., Bitter Glory, Touchstone, NY:1982, とくにpp. 356-367

[486] 「過激な」文献に登場している標準的な事実。Goldhagen, op. cit., reviews of Goldhagen, Birn, Ruth Bettina, "Revising the Holocaust", in Historical Review; Finkelstein, Norman G., "A Critique of 'Hitler's Willing Executioners'"; Hilberg, Raul, "The Goldhagen Phenomenon" (All of these at the website of AARGH at http://www.aargh.com/crazygoldie)参照。および、このテーマに関するもっとも中立的な文献としてBrowning, Christopher R., "Ordinary Men", NY:1992参照。

[487] 多くの文献で指摘されているが、十分に研究が進んでいない。その規模については、Martin, op. cit., p. 43, p. 47参照。

[488] Rapoport, Louis, Stalin's War Against the Jews, The Free Press, NY:1990は「弁明じみた」内容であるが、関連事件を詳しく説明している。ソ連におけるユダヤ人の処遇問題は、ソ連の共産主義社会に同化した民族ユダヤ人あるいは｢人種的ユダヤ人とイェディッシュ語とトラーの固執する伝統的なユダヤ人を区別しそこなうと、非常に複雑となる。宗教的な要素は、革命の初期から迫害されてきたし、ソ連社会に同化したユダヤ人によっても迫害されてきた。しかし、イェディッシュ語は1948年以降も、寛容に取り扱われてきた。Richard Pipes, Russia Under the Bolshevik Regime, A. A. Knopf, New York: 1993, pp. 362-366参照。

[489] Rosenbaum, loc. cit.に引用されている文句。ミルトン・ヒムメルファルブのものである。フォーリソンはこれにインスピレーションを受けて、「穴がなければ、ホロコーストもない」という文句を作ったに違いない。

[490] 後者は、アルノ・メイヤーとノルマン・フィンケルシュタインが好んで使う用語である。